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真打昇進披露興行の大トリ〜一龍斎貞鏡の夢は博品館劇場でひらいた

昨年10月から始まった、七代目一龍斎貞鏡の真打披露興行。半年続いた大トリが6月19日の銀座博品館劇場での特別公演。私は、昨年11月のお江戸日本橋亭の興行にうかがったが、二度目のお祝いとなった。

前回の興行記録に書いた通り、貞鏡は師匠が今は亡き八代目貞山、祖父が七代目貞山、義祖父が六代目神田伯龍という講談一家で育った。それが故の苦労もあったろう。

本興行の副題は、“貞鏡の夢は夜ひらく“。高座でそのこころを語っていた。松田聖子がアイドルとして全盛だった時期、ふとした時に藤圭子(念のため書いておくが、宇多田ヒカルの母)の「圭子の夢は夜ひらく」を耳にした。自身の今後について思い悩んでいたころで、藤圭子の歌、さらに中森明菜の台頭が、「アイドルでも色んな道がある。自分は自分らしく進めばよい」と思わせてくれたらしい。

講談会に若者を含めた多様な観客を集めるべく、「ピアノ講談」や「紙芝居講談」などにも挑戦した。そして昨年の真打昇進。本寸法の講談を披露していた。今日はどんな高座を見せてくれるか。

真打披露の最終公演は、キャパ400名弱の銀座博品館劇場。座席数40人にも満たないお江戸日本橋亭とはかなり違うが、ほぼ満席である。

開口一番は、神田おりびあ。大舞台での一席は、徳川家光の幼少時代を描いた「わんぱく竹千代」。

続いて登場した貞鏡は、「山内一豊の妻」。夫が見込んだ名馬を買うために、金を用意する賢妻・千代。そのおかげで一豊は出世するという、有名な“馬揃え“の一席。昇進披露に相応しいおめでたい演目。

ゲストの三遊亭兼好、「落語では、おめでたい席では“泥棒“の話をよくする」と。“客の懐を盗む“といった験担ぎから来ているようだ。入った噺は「だくだく」。兼好師の高座は、今日のようにゲストで登場する際に触れることが多い。明るい高座で、必ず客席は湧く。芸は一流で、まくらも巧い。声が掛けられるはずである。

中入りを挟んで口上。司会の一龍斎貞奈は、貞心の弟子の二つ目。貞鏡真打披露興行の「番頭」を務めたそうである。興行一切を取り仕切るマネージャー的な存在で、通常後輩の中から指名される。その流れで、口上に上がった。

貞奈が貞鏡との思い出話を語り、ゲストの兼好へ。「真打になった途端、成長が止まる演者が多い。貞鏡の場合、貞山を襲名しなかったことから、まだまだ未熟との自覚がある。これからが楽しみ、皆で未来の貞山襲名を迎えよう」と話した。そして、撮影タイム。

貞鏡の2席目。大阪の天満の天神宮に現れた一人の男。有名な刀鍛冶、津田越前守に弟子入りする。赤穂出身のこの男が修業を積み、赤穂四十七士に名を連ねることになる主君、岡島八十右衛門に恩返しすることになる。「赤穂義士外伝〜忠僕直助」、“誉の刀鍛冶“である。

貞鏡は、自身と直助を重ねあわせながら、読み進んでいるように感じる。これからさらなる修業をし、主君と言える二代の貞山、さらに六代目伯龍らの先人への恩返し、ひいては講談界を繁栄を企図、そんな決意表明のように聞こえた。

声がいい、口跡が心地よい、迫力もある。そして、なんといっても華がある。この“華“は、努力だけでは決して身につくものではない。芸の力と“華“が、観客を引っ張ってきているのだろう。

神田伯山の活躍により、多くの新しい観客が講談に足を運ぶようになった。一龍斎貞鏡という存在は、その流れをさらに強化することだろう


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