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「中村仲蔵」体験(その2)〜オリジナリティ溢れた落語と講談

近年、落語界で「中村仲蔵」と言えば、立川志の輔だったのではないか。

志の輔は彼にしかできない工夫で、現代に通じる「中村仲蔵」を作った。「志の輔らくご」として2部構成とし、第一部「大忠臣蔵」、そして第二部「中村仲蔵」として上演した。

「中村仲蔵」という噺を楽しむには、前提となる知識が必要である。歌舞伎役者の階級、「仮名手本忠臣蔵」における五段目の位置付け、そこに登場する仲蔵演じる斧定九郎という人物。

かつては、江戸・東京に住む人にとっての当たり前を、説明するというステップが必要となり、通常の落語口演では、冒頭にコンパクトな解説的くだりがある。古今亭志ん朝の音源は、名古屋大須演芸場での独演会のものがある。志ん朝の父であり師匠の志ん生は、倅を先代正蔵のもとに送り稽古をつけて貰っていた。私の想像では、この「中村仲蔵」も正蔵から教わったのではないかと思う。

志ん朝の口演は、正蔵のそれよりも丁寧に前提となる歌舞伎に関する知識を話している。現代の聴衆にも分かりやすいようにという、彼の工夫ではないだろうか。

志の輔は、この説明の部分を切り出し、第一部の「大忠臣蔵」として、「仮名手本忠臣蔵」の全容をダイジェスト形式で語った。これによって、「中村仲蔵」を聞くために必要な知識のみならず、日本人にとってのかつての“常識“、忠臣蔵の世界を理解させると共に、一つのエンターテイメントとして確立したのである。

十二分の下準備ができた上で、第二部として演じられる「中村仲蔵」、演者は志の輔、悪かろうはずがない。志の輔にしかできない、総合エンターテイメントとしての落語、この公演は2020年まで12年間続いた。

「中村仲蔵」体験をもう一つ。こちらは落語ではなく、講談である。2018年博品館劇場で行われた、伯山襲名前の神田松之丞、「天保水滸伝と」と題した7日間公演である。私が行ったのは7月28日、前半は「天保水滸伝」より“平手造酒の最期“、「牡丹灯籠」から“お札はがし“を読んだ後、中入り後に演じたのが「中村仲蔵」。

自らの工夫を発揮してよりよい舞台を作り、名優としての道を歩もうとする仲蔵と、講談界の救世主として名人への道を歩もうとする神田松之丞、現在の六代目伯山の姿が見事にシンクロした感動の高座だった。

彼の講談「中村仲蔵」も、独自の解釈で演じられている。「神田松之丞 講談入門」という本の中で、この演目について<工夫しなきゃいけない話>とし、<落語と講談の型をかなりミックスして、ものの本も読んで、自分なりのものを作りました>と語っている。

もう少し、中村仲蔵について。次回は圓生の音源も参考に


*神田伯山襲名披露興行の映像。新宿末廣亭での初日、浅草演芸ホールでの初日とも、「中村仲蔵」を演じている。それだけ自信もあり、思い入れのある演題なのだろう。こちらも、最後は感動を覚えた


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