“ベートーベンの遺髪“〜DNA鑑定で明らかになったものは
3月22日付のNew York Times紙、目を惹く見出しの記事がありました。“DNA From Beethoven's Hair Unlocks Medical And Family Secrets“、(ベートーベンの髪から採取されたDNA、医学的そして家族の秘密を解き明かす〜拙訳、以下同)
3月22日、生物学の学術雑誌「Current Biology」に、ベートーベンの髪の毛と推定されるものをDNA鑑定した結果についての論文が発表されました。この記事は、その論文の内容を紹介しています。
1827年の3月、ベートーベンは腹部の痛みと黄疸で死のふちにいました。その時、何人かが、髪を一房を切り取り思い出にしたいと申し出たそうです。 56歳で亡くなったベートーベンの元には、多くの弔問客が訪れたそうです。そして、3日も経たないうちに、ベートーベンの頭には一筋の髪の毛もなくなったのです。
以来、ベートーベンの病気、死に至った原因については、一部の関心事となりました。
ベートーベンの死の当時、フェルディナント・ヒラーという15歳の作曲家が、しばしば楽聖のもとを尋ねていました。死後、ヒラー君は髪の毛を切り取り、後に息子に誕生日プレゼントして渡したと伝わります。息子はその髪をロケットの中に収納します。このロケットは現代まで残り、「ベートーベンの遺髪」という本の題材にもなりました。
一方で、1994年に“ベートーベンの遺髪“がサザビーズのオークションに出展されます。これをAmerican Beethoven Societyのメンバーが7300ドルで落札しました。真贋が分からないのだから、その程度の値段かもしれません。
その後、2014年頃にDNA鑑定が進歩したので、遺髪の鑑定をする価値があると言い出した人がいました。これらを受け、Meredithというベートベン研究者が、上記のSocietyの協力も得て髪の収集を始めます。そして、上記の“ヒラーの遺髪“を含む、八房の“ベートーベンの遺髪“が集まりました。
鑑定の結果、“ヒラーの遺髪“は偽物とされました。なぜなら、ユダヤ人女性のものだったからです。Meredithさんは、ヒラーの息子の奥様の髪と取り替えられたのではないかと推測します。
残る7つのうち、一つは偽物、もう一つはテスト不能、そして残る5つはそれぞれ違うルートから入手されたものでしたが、同じDNAだったのです。
ベートーベンは肝硬変で死んだ可能性があるのですが、決して大酒飲みではなかったと言われています。DNA鑑定をしたところ、遺伝的に肝臓病に罹患しやすかった上に、B型肝炎ウィルスの痕が発見されました。彼がどこでウィルスを得たかは分かりませんが、出産時の可能性があると書かれています。
こんなDNA鑑定のおかげで、ショックを受けた人々がいます。
ベルギーには、祖先を同じくする五人のベートーベン姓の人がいます。今回の鑑定で、遺伝的なつながりがないことが判明したのです。
記事による、<They were shocked>。そうでしょうねぇ。。。。。科学の進歩は、全ての人に幸福をもたらすわけではないのです。
ここからは、研究者の推理です。ベートーベンの父親は、彼の祖母の婚外子だったというものです。ベートーベンの父親の洗礼記録は残っていません。祖母はアルコール中毒で、祖父と父親の関係は難しいものでした。これらから考えると、祖母が祖父ベートーベン氏とは別の男性との間で作った子がベートーベン父ではないか、したがってベートーベンには父系の血が流れていないということです。
祖父は著名な宮廷音楽家で、ベートーベンが幼い頃に亡くなりましたが、彼のことを誇りに思い、その肖像画を死の時まで持っていたそうです。一方で、ベートーベン自身も父親との関係について困難を抱えていました。
ベートーベン自身は、こうした複雑な生まれであることを知っていたのでしょうか? もしそうなら、彼の音楽に何かしらの影響を与えたのでしょうか?
ベートーベンはなぜ聴覚を失ったか。残念ながら、その理由は判明しなかったのでした
それにしても、死後に髪の毛を全部取られたベートーベンさん、ちょっと可哀想な気がしました。欧州を旅行すると、どこそこには聖人XXXの聖遺物が保存されているといった話を見聞きします。キリストから始まって、崇拝の対象となる人の遺品、それも肉体の一部は最重要物として尊ぶ習慣があります。ベートーベンさんも、当時からそうした存在だったのでしょう。そのおかげで死後200年近く経過しても、出自を調べられる、“楽聖“も大変だなぁとも感じる記事でした
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