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MLBで最も寂しい球団〜オークランド・アスレチックス

日本時間5月16日、大谷翔平はMLB通算101号のホームランを打った。その映像を見ていて、観客席がやけに空いていると感じた。対戦相手オークランド・アスレチックスの本拠地、現地では日曜日のデーゲームである。調べてみると、観客数は14,668、球場のオークランド・コロシアムは最大で57,000人近く収容できる。

そしてふと目にとまったNew York Times(NYT)の記事の見出しが、“The Lonliest Team in Baseballー野球界で最も寂しい球団“、という記事だった。 そのチームとは、このオークランド・アスレチックス。記事によると、5月初めのナイト・ゲーム、レイズ戦においては、観客数が3,000人を切ったとのこと。

ESPNのサイト(5月17日時点)でみると、アスレチックスの観客動員数は、30チーム中最下位。平均観客数は8,789名で、1万人を切っているチームはここだけである。ちなみにトップはドジャースで49,255、オークランドの隣町サンフランシスコを本拠にするジャイアンツは4位で37,079、同じカリフォルニア州にあり、大谷の所属するエンジェルスは11位で31,412人である。

アスレチックスと言えば、ポストシーズンに強く、“ミスター・オクトーバー“と呼ばれたレジー・ジャクソンや、投手のキャットフィッシュ・ハンターを擁し、1972−1974年にかけてワールドシリーズ(WS)3連覇、80年代後半には、リッキー・ヘンダーソン、カンセコ、マグワイアらと強力投手陣で、 WS優勝こそ1回だが、1988−90年、リーグ3連覇を果たした名門である。NYTに掲載された写真では、スタジアムのスコアボードに、“1972 WORLD SERIES 50th ANNIVERSARY“、3連覇初年度から50周年が、まさに寂しく輝いている。

近年は、1997年就任のビリー・ビーンGMの下、データを重視した選手獲得・育成、試合の上での戦術が成功、マイケル・ルイスが「マネーボール」というタイトルでその様子を書き、ブラッド・ピット主演で映画化もされた。

そのチームがどうしたことだろう。記事によると、問題が3つある。
1. 人気選手は既定路線のように放出され、代わりに割安選手が入る
2. ほら穴のようなコンクリート製の球場は、老朽化し時代遅れ
3. 球団側は、ラスベガスへの移転構想を公言する

2については、長らく新球場建設の話があるのだが、実現には至っていない。それが3と密接に絡んでいる。また、サンフランシスコに近接しているという難しい本拠地で、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズは2019年にオークランドからサンフランシスコに、NFLのレイダースは2020年ラスベガスに移転した。

問題は1で、オフシーズンに、チームの顔と言える、マット・オルソン(HR39本、打率.271)とマット・チャップマンを放出。いまだに多くのファンがこの2人のユニフォームを着て観戦していると、記事は書いている。

「マネーボール」戦略は成功していたように見えるが、問題があったと私は思っていた。私が感じていた課題は、短期決戦における弱さである。確かに、データ重視のチーム作り・運営で、アスレチックスは高い勝率を維持、2000年代において地区優勝7回、ワイルドカードでのプレーオフ進出4回と、安定感を見せている。

しかしながら、リーグ優勝、WS進出まではたどり着けていない。つまり、162試合において安定的な勝率を上げるのだが、短期決戦において勝てていない。私は、確かにデータを重視すれば長丁場では効果が出るだろうが、プラスαが求められるプレーオフにおいて、「マネーボール」戦略だけでは通用しないということを示唆しているように思う。また、そこにファン離れの原因があるのではないか。

加えて、ファンを引きつけるチームの魅力はデータだけでは絶対に測れない。投資ポートフォリオではないのだから、割高を放出して割安と入れ替えるというのは、チームの魅力度アップという観点から考えると常に正解を出すわけではないはずだ。

予算が乏しい→選手の入れ替え→人気が落ちる→予算減る→選手の入れ替え→人気低下
このネガティブ・スパイラルに陥った結果が、今のアスレチックスではないか。

そこを根本的に変えなければ、新スタジアムも、フランチャイズ移転も奏功しないように思える。「マネーボール」戦略は、広く浸透し効果を上げていることも確かだが、プロ・スポーツは勝てば良いというものではない

*2023年4月掲載の続報はこちら


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