見出し画像

スクリューボール・コメディの傑作〜映画「レディ・イブ」

小林信彦「外国映画ベスト50」クエストは続いている

野球のピッチャーの球種の一つに、スクリューボールがある。 ピッチャーの利き腕の方向に曲がりながら落ちるボール、つまりカーブとは逆の方向に曲がっていく。

私の世代だと、スクリューボールと言えば、ロスアンゼルス・ドジャースのフェルナンド・ヴァレンズエラを思い出す。 80年代に活躍した選手だが、1981年新人王とサイ・ヤング賞を受賞し鮮烈のデビューを果たす。彼を擁したドジャースは、ワールドシリーズ優勝まで遂げてしまう。日本選手だと、中日の山本昌がこの球の使い手の一人だった。

映画の世界には“スクリューボール・コメディ“というジャンルがある。球の性格はバッターからすると予測のつかに軌道を描くものだが、ジーニアス英和辞典の“screwball“の語釈には、それが転じて“突拍子もない“、あるいはジャズ用語では“テンポの速い即興演奏“という意味も載っている。

“スクリューボール・コメディ”に関する私のイメージは、速いテンポでドラマが展開し、先は予想がつかず、そして軽やかなラブ・コメディである。

大恐慌時代、1930年代から40年代にかけて盛んに作られたが、プレストン・スタージェス監督・脚本の「レディ・イブ」(1941年)は、このジャンルを代表する作品と言われている。

私はてっきり観たと思っていたが、 「イブの総て」と取り違えていたような気がしたので、「レディ・イブ」見始めた。

ヘビが登場する洒落たアニメーションに彩られたタイトルを見て、初めてであることを確信した。

男性側の主人公は、ヘンリー・フォンダ。 ビール会社「PIKE'S PALE」の御曹司だが、ビジネスには興味がなく、アマゾンにヘビの探求に出かける。ビール会社と書いたが、この会社はこだわりがあり、“当社のプロダクトは上面発酵のエール(詳しくはこちら)であり、ビールとは異なる“。キャッチ・フレーズが“The ALE That Won For YALE“、「エール大学に勝利をもたらす“エール“」。どれほど宣伝効果があるかは分からないが、こうした言葉遊びも洒落ている。

フォンダは、アメリカに帰るべく大型客船に乗り込む。こうした客船内ではひまつぶしも兼ねて、乗客の間でトランプ・ゲームがよく行われるが、こうした客をターゲットに一稼ぎするプロのカード・プレイヤー集団が乗り込んでいる。その一人が、カード詐欺師のハリントン“大佐“で、彼の娘で詐欺のパートナーを演じるのが、バーバラ・スタンウィック。

彼らは、お金持ちの息子ヘンリー・フォンダをカモにしようと、アプローチするのだが……

小林さんは、ヘンリー・フォンダを<にこりともしない主役>と書いているが、とてもチャーミング。<ドタバタ演技にもすぐれ、要するに何でもできるのだ>、本当にそうである。

バーバラ・スタインウィックとは名コンビという感じで、物語がまさしくテンポよく軽快に進んでいく。さらに、オチが見事。

“スクリューボール・コメディ“のお手本のような傑作。80年前の映画とは思えない、古さを全く感じさせないスマートさ。<スタージェスもとんでもない作品をつくる>、そうです観るべき一本です


なお、ハリントン親子が、フォンダを最初に誘うのはラバー・ブリッジ。アガサ・クリスティの小説によく出てくるブリッジの一種で、本来ペア対ペアの4人でプレイるものですが、この映画では3人で。麻雀の3人打ちのようなものでしょうか。ブリッジ愛好家の妻に聞いてみましたが、3人プレイは知らないとのこと。

ルールはどうあれ、ブリッジは、基本ギャンブル性よりも、ゲームとしての面白さを追求するもの。最初はそれで引っかけ、その後は、ギャンブル性の高いポーカーへと発展させています。


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?