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“応挙の虎“は飛び出します〜「江戸絵画の華」@出光美術館

ロンドンに長く住んでいたおかげもあり、イギリスはもちろん、ヨーロッパ各地の美術館を巡ることができ、西洋美術についてはそれなりの知識を吸収したつもりですが、こと母国日本の美術については、知らないことが多すぎます。

丸の内が職場となり、時間にも多少の余裕ができると、昼休みを利用して行ける展覧会が色々あることに気づきます。今回、初めて行ったのが帝国劇場のビルにある出光美術館

「江戸絵画の華」と題して、第1部(1月7日〜2月12日)・第2部(2月21日〜3月26日)という開催です。第1部は行きそびれたのですが、“若冲と江戸絵画“という副題、私が行った第2部が“京都画壇と江戸琳派“です。

プライス財団という名前を聞いたことがある方は多いと思います。アメリカのエツコ&ジョー・プライス夫妻は、日本絵画の蒐集家であり、早くから伊藤若冲に注目、その若冲コレクションの日本における展覧会が、若冲の名前を一気にメジャーにしたと言えます。

2019年、プライス・コレクションの中から190点を出光美術館が購入、若冲のみならず多くの名品が里帰りすることになりました。その中から、約90点が厳選され公開となったのが本展です。そもそもは2020年に開催が予定されましたがコロナ禍で延期、おかげで私は見ることができたわけです。

一番見たかったのは、円山応挙の作品です。以前、日本美術のことを多少勉強しようと思って読んだ、辻惟雄著「日本美術の歴史」によると、こう書かれています。応挙は、<南画の主観主義的な性格に対し、客観主義の立場に立った>。南画(文人画)とは、<江戸時代に中国から渡来した「唐画」>、<当時のもっとファッショナブルな外来絵画様式である>。

応挙(1733〜95年、八代将軍徳川吉宗から十一代家斉の時代)は、<ヨーロッパ絵画の自然主義的な手法
〜(中略)〜に示唆を受け>、<明快な写実的画風を完成させた>。彼の薫陶を受けた弟子たちを含む“京都画壇“の作品が、本展の前半なのですが、印象的なのは応挙の「虎図」でした。弟子たちの虎図も展示されていますが、この“応挙の虎“はちょっと違います。

プライス・コレクションから来た“応挙の虎“は、幅の狭い掛軸に描かれています。正面も向く虎の顔はリアルで、その毛並みも美しく描かれています。両サイドが切られているので、全身を見ることはできないのですが、森の木々の間から虎がこちらを凝視しているような迫力があり、今にも絵の中から飛び出てきそうです。

一休さん(モデルは室町時代の僧)が、お殿様に屏風の中の虎を縄でしばるので、追い出して欲しいと頼む、とんち話があるが、この“応挙の虎“は、追い出さなくとも出てきます。ただし、捕まえるのは至難の技でしょう。これぞ、応挙の“写生“です。

後半は、“江戸琳派“、尾形光琳の流れをくむ、江戸から明治にかけての作品です。酒井抱一の「十二ヶ月花鳥図」は、十二幅の軸もので、草花と鳥や虫を美しく表現しています。家に、おいて毎月掛け替えることができたなら、さぞかし素敵なことでしょう。

昼休みのひと時、眼福を得ました

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