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今年も赤穂義士の季節がやってきた〜神田伯山プラス

イイノホールでの「神田伯山プラス」。第7回になるようだが、ずっと抽選で外れていた。今回ようやく当選、11月1日の公演に行ってきた。

“プラス“と名づけているのは、毎回ゲストを一人呼んでいるから。この日は、二つ目の神田桜子、陽子先生のお弟子さんが出演した。

最初に登場した伯山、ものすごく嬉しそうに、「片岡仁左衛門、不倫発覚」のニュースを披露した。もちろん、松島屋をリスペクトした上でのイジりなのだが、こういう毒のあるつかみで、伯山ワールドに持ち込むところは流石である。

ゲストの桜子の紹介をした後、「11月に入ったので」「今日は赤穂義士伝を読むことにします」と。最初の演目は「鍔屋宗半」。

鍔屋宗半、元は浅野家の家来であったが出奔し、目利きの良さを活かし道具屋を始める。その後、浅野内匠頭の吉良上野介に対する刃傷事件が起こり、浅野家はお家とりつぶしとなる。鍔屋宗半は、市中で旧知の浅野家の面々に遭遇するが、彼らから赤穂浪士の仇討ちの気配を感じる。そして、なんとか自分もその役に立ちたいと。。。

続いて登場した神田桜子。伯山によると、大阪出身で上方言葉も自然に使える。新作講談も演じるが、「今日のお客さんは古典がいいんじゃないの」とアドバイスしたらしい。ところが桜子は、“あえて“新作をぶつけてきた。題して「ピクサーを創った男」。

CGの可能性を追求し、紆余曲折の末、ピクサーを創立し「トイストーリー」を世に出した、エドウィン・キャットマルの物語である。これが結構良かった。もちろん、その語り口はまだまだ洗練させなければならない。しかし、話が面白く、読み物の世界に対する演者の思い入れや愛情が伝わってくる。講談に新しいファンを呼べる可能性を秘めている。是非、頑張って欲しい。

中入り後、伯山が読んだのは、赤穂浪士伝の中でも大好きな話だという「南部坂雪の別れ」。赤穂義士伝、あるいは忠臣蔵のドラマの中でも、ハイライト・シーンの一つである。浅野内匠頭の妻は出家し、瑶泉院として暮らしている。討ち入り前日、彼女の下を訪ねる大石内蔵助。私が見たTVドラマ「大忠臣蔵」では、大石に三船敏郎、瑶泉院には佐久間良子という配役での名シーンである。

情報が漏れることを警戒し、討ち入りについては決して漏らさない大石。苛立つ瑶泉院だが、秘められた「別れ」のシーンである。背景には、南部坂に降る雪。

途中、四十七士の名前を読み上げる「言い立て」の場面があり。「神田松之丞 講談入門」の解説によると、<松之丞が教わった松鯉版の『南部坂』には、この言い立ての部分がないのだった>。伯山は、観客の期待に応ずるように「言い立て」を加えたが、<シーンとして聴いてほしい>とする。松之丞時代だが、この「言い立て」の演じ方について、<なるべく盛り上げない感じでやろうと。これは非常に難しくて、実施には、まだまだできていないんです>と語っている。この日の「言い立て」に対して拍手は起こったが、それは短いものだった。少なくとも、演者の意識は伝わっていたのではないか。

早いもので、もう忠臣蔵の季節である。昔は、暮れになると必ずと言って良いほど、テレビで忠臣蔵関連のドラマが放送された。一種の季節の便りである。私は、この数年、講談でそれを感じている。講談師は、「冬は義士 夏はお化けでメシを食い」である。年の暮れが見えてきた


追:私の席の後ろに、“伯山の妹“とも称される、ガールズ・バンド「ガチャリックスピン」のアンジェリーナ1/3が来ていた



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