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「2021落語一之輔昼夜 再び」〜「火事息子」を聴く

11月16日、大手町よみうりホールで開催の「2021落語一之輔昼夜〜再び〜」の昼公演に足を運ぶ。ここ数年この会場で春風亭一之輔の会が開かれていたが、チケットも取りづらく観に行くチャンスがなかった。時間のある今を活用し、チケットの取りやすい昼公演を選んだ。

この日は、ほぼ同期という三笑亭夢丸との二人会である。冒頭、長井好弘司会で、二人のトーク。夢丸は新潟の新発田出身だが、小学校の頃に買ってもらったラジオを通じ落語にハマり、高校時代に上京し入門した。落語オタクのような人のようである。二人は、ネタの教えあいをやっていたそうで、そうしたエピソードが語られた。

春風亭寛いちの「平林」に続いて上がった一之輔は、夢丸から教わったネタといしてトークで話していた「めがね泥」を演じた。落語協会の噺家はほとんどやらない演目だそうだ。

そして中トリで上がった夢丸は「幾代餅」。大熱演で、客席も沸いていた。ただ、私には頑張りすぎのような感じがした。一之輔との二人会で張り切っているのは分かるが、もっと力を抜いても良いのではと思う。まだ三十代、疾走する時かもしれないが、もっと自然に演じた方が、彼の良さが出るのではないか。

中入り後の夢丸は熱演を照れるような感じで、「妻の酒」をサクッと演じた。一之輔によると、有先勉=柳家金語楼作の新作で、落語芸術協会に伝わる噺とのこと。こうした演目をしっかり繋いでいくことが夢丸にとって重要な役割の一つだろう。

そして一之輔の「火事息子」。私は高座でこの噺を聴くのは初めてである。CDで他演者の録音を聴きながら、笑いを取れる場面が少なく、難しい演目だろうと思っていた。火事が好きすぎて、親の反対を押し切り火消し、それも世間から嫌われる臥煙(がえん)という火消し人足になった質屋の倅の話である。

先代林家正蔵や、古今亭志ん朝は、火事のさなか、質屋の土蔵の壁などの隙間から火が入らぬよう、目塗りを命じる主人と番頭のやり取りから始める。そこに臥煙となった息子が帰ってくる。笑いが取れるのは、この目塗りの場面だけである。

一方、先代桂三木助は、この息子が母親の夢を見る場面から始まる。彼の「芝浜」同様、文学的な色合いが強くなる分、それに続く目塗りの場面の可笑しさは減ずる。私の持つ立川談志の音源も、三木助の型である。

一之輔は前者で演じつつ、目塗りの場面を彼の世界に持っていき、しっかり笑いを取っている。そうして、親子の対面の場面へと転じる。

親の思うように子供が育てることは難しい。宮家ですら、あの様子である。我が子を振り返っても同様である。しかし、子供がどのような道を選ぼうとも、親は子のことを思い、その行く末を心配する。この噺の本質を一之輔はサラりと江戸前に伝えてくれた


献立日記(2021/11/18)
会食@中華茶房8

*三遊亭圓生の「火事息子」


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