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カントリー歌手 ロレッタ・リンの訃報(その1)〜映画「歌え!ロレッタ愛のために」

10月6日、朝日新聞の訃報欄に、小さな記事が載っていた。

ロレッタ・リンさん死去
ロレッタ・リンさん(米カントリー歌手)4日、米南部テネシー州の牧場で死去、90歳。家族が声明を出して明らかにした。
60年以上にわたって活躍し、社会問題を扱った歌詞のため放送禁止も繰り返されたが、カントリーミュージック界の旗手と見なされてきた。(ニューヨークAFP時事)

ロレッタ・リン、なんとなく引っかかる。少し考えると、私の頭の中の“機会があったら見たい映画リスト“にヒットした。1980年、シシー・スペイセク主演の「歌え!ロレッタ愛のために」である。1976年、スティーブン・キング原作の映画「キャリー」で、衝撃的な登場をした彼女は、この作品でアカデミー主演女優賞を受賞する。

「歌え!ロレッタ愛のために」は、ロレッタ・リンの自伝映画。他界した彼女について、私はほとんど知識がなく、記事の後段の<社会問題を扱った>という部分も気になったので、映画を見ることにした。Amazon Primeで配信されている。

ロレッタ(シシー・スペイセク)は、ケンタッキー州に生まれた。父親は炭坑夫、決して豊かな生活ではない。この父親を演じるのは、The Bandのメンバー、レヴォン・ヘルムである。ロレッタは若くして、やはり炭坑で働くドゥーリトル(Doo)と結婚して子供を設ける。この夫役は、トミー・リー・ジョーンズ、缶コーヒーBOSSのCMに登場する宇宙人ジョーンズといえば、多くの人が「あぁー」とうなずくだろう。

ロレッタの歌の才能に気づいた夫は、彼女を地元のクラブに出演させ、さらにはレコード制作、放送局への売り込みとマネージャーもどきの行動を展開する。これをきっかけに、夫妻の人生は転がり始める。ロレッタの妻として、母として、そして歌手としてのキャリアを一気に見せるのがこの映画である。

シシー・スペイセクの演技が素晴らしい。後で調べると、ロレッタ・リン本人と長い時間を過ごし、彼女の独特のアクセントを習得したようだ。歌はおそらく本人のダビングだろうと思っていたのだが、これまた自身で歌っており、この歌声も素敵である。

映画では、妻として妊娠も含めた生活に振り回され、夫の浮気にも悩まされるロレッタ、そして先輩歌手のパッツィ・クラインと出会い、女性として自立しようとする姿が描かれる。ただし、あくまでもサラッとであり、重苦しい感じはない。

劇中、パッツィ・クラインのヒット曲、“Crazy“が流れる。ウィリー・ネルソンの作曲で、私はリンダ・ロンシュタットのバージョンを愛聴していた。元は、このパッツィ・クラインだった。

ロレッタ・リンは、デビューシングルの“I'm a Honky Tonk Girl“が、全米カントリーチャートの14位にランクされるなど、ほとんど下積みなく成功し、出産などのブランクを克服しながら歌手として有名になっていく。映画は、その一つのピークとなった彼女の代名詞となる自身の作詞作曲による楽曲で締めくくられる。

“Coal Miner's Daughter“、 炭坑夫の家庭で育った環境をシンプルに歌い上げつつ、自身のルーツに対して誇りを示す力強い歌である。極めてパーソナルなことを歌いながら、炭坑夫という経済的・社会的には必ずしも恵まれない人々を描いており、前述の記事にある“社会問題“を取り扱っているとも言える。

この曲は、カントリーチャートの1位となると共に、Billboardホット100に初めてエントリーする。曲名は映画の原題にもなっていて、将来への期待を含ませながらドラマは幕を閉じる。

この映画を見ると、俄然ロレッタ・リンに対して興味が湧く。その結果を、明日もう少々記すことにする



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