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「画鬼 河鍋暁斎 x 鬼才 松浦武四郎」@静嘉堂文庫美術館(丸の内)〜“涅槃図“と“地獄極楽めぐり図“

開催終了間際の紹介で心苦しいが、そのタイミングでの訪問になってしまったので仕方がない。
東京丸の内、明治生命記念館内にある静嘉堂文庫美術館で開催されている、「画鬼 河鍋暁斎 x 鬼才 松浦武四郎」、6月9日までの開催である。今日を入れて、あと二日。

静嘉堂は、岩崎彌太郎の弟、彌之助とその息子小彌太(いずれも三菱社長)によって創設された、故美術品のコレクション。その一般展示のために2022年オープンしたのが、この美術館である。

この展覧会で取り上げられている松浦武四郎(1818〜88)は、幕末の探検家で“北海道“の名付け親。恥ずかしながら、本展を見るまで知らなかった。“北海道“はもとは“北加伊道“で、アイヌ語の人間「カイノー」に由来するとのこと。

武四郎は好古家、つまりアンティーク・コレクターでもあり、さまざまな古物(一つのテーマは、彼が信仰した“天神“菅原道真)を収集するとともに、同時代の絵師・河鍋暁斎(1831〜89)と交流した。武四郎が暁斎に依頼した大作が、本展のハイライト「武四郎涅槃図」。これがトンデモナイ着想で、自信を釈迦に重ね合わせ、周囲に自らが好んだ古物で飾り立てるという代物。

念の為に書き添えるが、「涅槃図」とは、釈迦が死に至る情景を描いたものである。

中央に位置する武四郎は、首には彼が愛した“大首飾り“をかけている。これは、勾玉をつなぎ合わせて作ったもので、本店においてはその実物が展示されている。あるいは、足元にいる黒烏帽子の人物は、菅原道真の肖像画(オリジナルが見られる)から来ているが、交流のあった岩倉具視とのダブルイメージではないかとも言われている。

「武四郎涅槃図」は、三重県にある松浦武四郎記念館所蔵、絵の中に描かれる古物の多くも当記念館の所蔵物として本店に出品されているが、一部の武四郎コレクションは、その手を離れ静嘉堂の所蔵となり、本展ではこれらが合体して展示されている。

「涅槃図」と元ネタを見比べていると飽きることがない。なお、本展を記念して「涅槃図」の詳細を写真と共に紹介しているブックレットが出版されている(1500円)。こちらは、展覧会終了後でもミュージアムショップで購入できると思う。

もう一つの見ものは、暁斎の「地獄極楽めぐり図」(静嘉堂蔵)。日本橋の小間物屋の主人が、十四歳で亡くなった娘・田鶴の供養のために作成を依頼した画帖。(縮小版の複製を五千円で販売)

上方落語がお好きな方なら、「地獄八景亡者戯(もうじゃのたわむれ)」という大ネタをご存知かと思う。食あたりで亡くなった呑気な男が、面白おかしく地獄を旅し、最後に閻魔大王と面会するというものである。

この「地獄極楽めぐり図」は、この男を娘に置き換えたようなもので、田津が明るく成仏するように願った意匠である。「涅槃図」、本作とも河鍋暁斎の画力・遊び心・センスが光っている。

なお、本展では静嘉堂が所蔵する国宝「曜変天目」も展示されている。こちらは、まさしく“眼福“だった


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