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2023年のブルース・スプリングスティーン〜この世を去った仲間と共に

2009年のツアーの後、前回書いた通り盟友クラレンス・クレモンスの死がありましたが、Eストリート・バンドとのツアーは、2012年に再始動します。アルバム「Wrecking Ball」も発表、その後も2014年に「High Hopes」を発表、ツアーも連動します。

さらに、2016年からは、あの名盤「The River」(1980年)の全曲演奏を中心に据えた“The River Tour“を展開します。ブルース67歳の年です。

私は残念ながら、これらのツアーを観ることはできませんでした。

2018年、スプリングスティーンは自分の過去に向き合い、それを観衆に向けて発信しました。それが、前回書いた「Springsteen On Broadway」公演です。

あれから5年近くが経ち、今年2023年、74歳になろうとするスプリングスティーンは、ツアーを再開しました。今回の一連の記事を掲載しているうちに、どんな様子か知りたくなりました。セットリストをチェックすると、全28曲、3時間コースのコンサートを、今でも彼は続けていることが分かります。

今は便利です、先日7月6日・8日のロンドン・ハイドパーク公演の音源が公式に配信(有料)されています。というか、全ての公演が配信されています。

6日の音源を入手し、聴いてみました。

素晴らしい、今すぐにでも飛行機に乗って観に行きたくなりました。

2曲目に重要な楽曲が演奏されます。2020年発表のアルバム「Letter To You」所収の“Ghosts“です。過去活躍し、この世からいなくなったギタリスト。彼の幽霊・霊魂がそばで支えてくれている、彼が存在することで自分は生きていると歌います。

クラレンス・クレモンズ始め、この世からいなくなった仲間たちを讃え、彼らの存在があったからこそ自分が生きていることを発信します。スプリングスティーンは、この曲を大観衆に向けて歌い、一人一人にこの世からいなくなった大切な人々を思い出させます。しかも、楽曲はこれからのライブのテーマ曲になるような、気分が高揚する作品でもあります。

もう1曲、今のスプリングスティーンを表していると言える曲を紹介します。彼の最新作は昨年リリースされた「Only the Strong Survive」ですが、彼の愛したソウル・ミュージックをカバーしたアルバムです。サム&デイブのサム・ムーアもゲストで登場します。過去の音楽に対するリスペクト、そしてこうした偉大な音楽を次世代につなげようという意志が感じられます。そうです、優れた作品は生き残っていくのです。

そしてコンサートでは、この中から“Nightshift“が演奏されました。コモドアーズが1980年に、マーヴィン・ゲイとジャッキー・ウィルソン(スプリングスティーンは、彼の代表曲 "Higher and Higher"をコンサートで披露しています)をトリビュートした曲です。

こうした新しい曲とともに、お馴染みのナンバーが演奏されますが、これまで以上に観衆の 'Sing Along'が凄い。来ている人は、歌詞を全て覚えているのではないかと思えるほどです。

こうしたパフォーマンスにより、聴くものに作品の物語に深く入ってもらい、村上春樹言うところの「物語の共振性」を高めているようにも感じます。

中でも“Thunder Road"は感動的です。2023年のこの曲は、ひたむきに走ってきた頃を振り返り、自分の人生は捨てたものじゃなかったと感じさせる作品になっているのではないでしょうか。かつての生き急ぐ感じではなく、70代のスプリングスティーンにしか出せない、軽さと重さがバランスした名演となっています。

日本公演はやはり期待できないのでしょうか? ビリー・ジョエルも来日するのですから、ブルースも来て欲しい! 日本の音楽ファンに、あのライブを体験してもらいたいと切に願うのです


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