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“カメラ小僧“が逝く〜篠山紀信、「少年マガジン」から「写真力」

写真家の篠山紀信さん(以下、敬称略)がお亡くなりになった。

私の世代の男性が、人生で最も多くの作品に触れた写真家は、間違いなく篠山紀信だろう。また、写真家という個人を意識したのも、篠山紀信が最初だったのではないかと思う。

まず思い出すのが、“カメラ小僧“である。マンガ雑誌「少年マガジン」、赤塚不二夫の「天才バカボン」に“カメラ小僧“というキャラクターが登場した。カメラを首から下げ、クルクル回りながら鼻水を垂らし、写真を撮りまくる。2019年に朝日新聞に掲載された篠山紀信のインタビュー記事によると、その登場は1973年、私が小学校6年生の時である。「少年マガジン」には篠山自身の連載記事・写真作品も掲載されていた。

“カメラ小僧“のモデルは篠山紀信と書かれていることがあるが、正確には<カメラ小僧イコール篠山紀信>(「赤塚不二夫公認サイト これでいいのだ‼︎」より)。したがって“小僧“ではあるが、大人で子供もいる

前述のインタビューによると、このキャラが登場することは篠山自身知らなかったらしい。そして、こう話している。

<そのあと、新宿のバーで赤塚さんに会って、「何で怪しい風に乗ってクルクル回ってるの」って聞いたら、「君はね、そういう人なんだよ」って言われて。確かにどこにでも飛んでいって、パシャパシャと撮る。当たっている。赤塚さんは天才だな、と思いますよ。>
“カメラ小僧“は、現実世界でも飛び回り、「GORO」誌上で“激写“を初め、1977年に山口百恵を撮影した写真を発表する。これまで見てきたアイドル写真とは全く異なり、その本質が映し出されたかのような作品に私たちは衝撃を受けた。

沈みかけたボートに横たわる山口百恵、この名作についてのコメントである。

<「GORO」の写真の中でも傑作中の傑作。展覧会に出しても「どうやって、この表情撮ったんですか」って聞かれるんだけど、ホントは百恵さんは疲れていて、気だるい表情だったんだと思います。でも、「百恵さん、いい感じだよ」って撮ったんです。疲れも色気に変える写真のマジックですね。>

2019年東京ドームシティで、篠山紀信展「写真力」が開催され、足を運んだ。山口百恵、宮沢りえ、夏目雅子、そしてジョン・レノンとヨーコ、“カメラ小僧“がクルクル回りながら撮影した様々な作品を、大きなサイズで観ることができた。まさしく「写真力」を感じさせてくれる作品群だった。

一度だけ、リアルの篠山紀信を目にしたことがある。2010年市川海老蔵(現・團十郎白猿)がロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で「義経千本桜」を上演した際、フォアイエで篠山紀信を見かけた。海老蔵撮影の一環だったのだろう。想像したより小柄で、想像した通りのモジャモジャ頭、まさしくリアル“カメラ小僧“だった。

ご冥福をお祈りします


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