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ピエール・ルメートルという作家(その3)〜「われらが痛みの鏡」の格調

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ルメートルの“災厄の子供たち“三部作の最終作、「われらが痛みの鏡」を読む。第二次世界大戦/太平洋戦争当時の日本の状況については、様々な形で触れる機会がある。フランスについてはどうだろう。フランスは、ドイツの侵攻を受けパリを解放、英仏軍は北に押し込まれ、ダンケルクから一旦欧州大陸から脱出する。映画「ダンケルク」の世界である。

本土に残された一般市民はどうなったのか。第一次大戦で傷痕を負った人々(「天国でまた会おう」)、第二次大戦が接近する足音(「炎の色」)に続いてルメートルが描いたのは、ドイツ軍が席巻する中、本土に残された市民、兵士、そして子供たちである。

主人公の一人、ルイーズ。「天国でまた会おう」において、大戦で傷を負った主人公らを住まわす下宿屋の娘として、重要な役割を担った彼女が、大人になって登場し奇妙な事件に巻き込まれる。戦況が悪化する中、市民は逃げ場を求めパリを脱出し、南へと移動する中、ルイーズの運命も変化していく。

ルイーズは難民の顔を見て思う、<わたしたちの痛みと敗北を映し出す、巨大な鏡なのだ>。タイトルは、この一節から来ている。

そして、兵士ガブリエルとラウール。従軍中に犯罪を犯し、囚人となった彼らだが、囚人たちにも平穏はない。ドイツ軍の攻撃と共に、囚人たちは集団で移送される。ただし、徒歩である。(実際の史実に基づいている)そして、彼らを引率する軍の責任者。

戦時下においては、いずこにおいても怪しげな人間が跋扈する。その一人デジレ、ただ極限状態の中での真実とは何なのだろうか?

彼らが、運命の糸によっていかに絡め取られていくのか。。。。。

前2作同様、もちろんエンターテイメント性は高い。ただし、様々な仕掛けがほどこされた2作に比べると、まさしく小説の王道を行く。戦争は人の運命を変える。ただ、多くの場合、戦争だけが要素ではなく、戦争前の人生が戦争を触媒として変化していく。

“災厄の子供たち“ 三部作は、こうした戦争と人間の関係を“子供“、それは親と子の関係性の中の“子供“に焦点をあてつつ、取り巻く人々も含めて表現している。

最終作では、娯楽性を抑えつつ、より格調高いフィナーレとして作りこまれている。 ピエール・ルメートル、引き続き追いかけたい


献立日記(2021/11/22)
鶏肉のにんにく豆豉蒸し
ブロッコリーのたらこマヨネーズかけ
小絹揚げ焼き
そぼろ蓮根
雪菜の煮浸し


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