旅の記憶12:マウリッツハイス美術館のファブリティウス

昨日(5月8日)、草間彌生と落語「抜け雀」の話を書いた。もう一つ「抜け雀」ネタである。

オランダの首都機能を持つデン・ハーグという都市に、マウリッツハイスという有名な美術館がある。フェルメール「真珠の耳飾りの少女」を所蔵し、それ以外にも同「デルフト眺望」や、レンブラント「テュルプ博士の解剖学講義」などのオランダ絵画の巨匠の作品が並ぶ。

貴族の邸宅を改修し美術館にしている、こじんまりとした施設だが、上述の通りそのコレクションは素晴らしく、この美術館に行くことのみを目的に、デン・ハーグを訪れる価値がある。

その中に、私が勝手に“オランダの『抜け雀』”と呼ぶ、カレル・ファブリティウスの「ゴシキヒワ(The Goldfinch)」という作品がある。美術館のRoom14に掛けられたこの作品は、小さなキャンバスに止まり木が描かれ、それにスズメに似た鳥、ゴシキヒワが乗る。鳥は今にも動きそうであり、「抜け雀」の噺の如く、絵から抜け出て飛んでいきそうである。

ただし、この鳥はチェーンで繋がれていて、その鎖が絵から飛び出るのを防いでいるかのようである。ペットとして飼われている鳥の悲しさをも感じる。

ファブリティウスは17世紀オランダの画家で、レンブラントの弟子。デルフトにおける爆発事故で32歳という若さで死亡。多くの作品もその事故で失われ、現存する作品は極めて少ない。私も、マウリッツハイスでこの絵を見るまでは知らなかった。その後、ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する「楽器商のいるデルフトの眺望」を改めて見にいった。

なお、この絵を題材に、アメリカの作家、ドナ・タートは小説を書いた。ニューヨークのメトロポリタン美術館でオランダの巨匠展が開催され、ファブリティウスの「ゴシキヒワ」も展示される。この展覧会を鑑賞していた13歳の少年が会場でテロリストによる爆破事件に巻き込まれる。幸いに命は助かった少年は、名作「ゴシキヒワ」と共に美術館を脱出する。

ここから長い物語が始まるが、読み応えのある面白い小説だった。この小説は2014年ピューリッア賞を受賞する

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