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障子越しに、部屋に太陽の光が差し込んでくる。
夏になると、上半身裸でいることが多いあなたは、今日も汗ばみながら、わたしにこう言ってくる。

「今日も、南方熊楠スタイルでいてもいい?」

自身の姿を、南方さんがが寺社合祀による森林伐採への反対の意を表する為に撮ったとされる山中裸像の写真になぞらえてのことだ。

そういえば、あなたの体系も少し、南方さんに似てきたかしら。

障子越しの光は柔らかく、あなたに落ちる。
するとどうだろう、あなたの背中のうぶ毛が、美しく光り輝く。
うぶ毛がそっとあなたの肌を包み込んでいる。

なんて色っぽいんだろう。



わたしは、かねてより脱毛サロンに通っている。
いろいろな箇所の毛を無くそうとしているのだけど、行く度に進められるのが、うなじの脱毛だ。

「お姉さんのように、ショートカットの人はうなじの脱毛されてますよ〜。うなじがツルツルの方が綺麗じゃないですか」

というのがサロンのお姉さんの言い分であり、営業トークである。
なるほど、それはわかる。
自分では見えないうなじや背中の毛に気づくと、嫌だな、美しくないなと思っていた。いっそのこと、すすめられるままに脱毛してしまおうか、とも。



ある日、電車に乗っていると一人のショートカットのお姉さんが、わたしの前に背を向けて立った。


車窓にさす光がお姉さんを照らす。
お姉さんはガバッと背中が空いている服を着ていたんだけど、うなじも背中もこれでもかってくらい毛がなくてツルツルでキレイだった。

きっと脱毛をしているんだろうな〜と勝手に妄想をする。
キレイだなあ、うらやましいなあ。
と、お姉さんにうっとり。
だけど次の瞬間に、あなたの背中のうぶ毛が頭をよぎった。

あれ?
山中裸像を演じるあなたの背中の色っぽさを、このお姉さんの背中には感じられない。



光に輝くうぶ毛。
そこにただよう色気。


わたしは、うなじのうぶ毛とは一生付き合っていこうかなと思った。


「おかえり〜」
我が家の南方さんが、今日も上半身裸で出迎えてくれた。
ぎゅうっと抱きつく。

汗ばんだ背中のうぶ毛と夏の香りが絡み合って、やっぱり妙に色っぽかった。


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