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四年間の成果

(書き手) 古屋美登里

 翻訳塾が始まって四年が経ちました。コロナウィルス感染症のせいで、初めはオンラインでの授業が続き、しかも初めてお目にかかる方々ばかりなので、どこまでこちらの言葉が伝わっているのかわからず、不安な気持ちになったこともありましたが、去年からようやく対面での授業が一部可能になりました。残りあと一年というところまで来たので、経過報告を兼ねて塾の現在をお知らせしようと思います。
 第四期(2023年6月~2024年4月)では短篇小説を前期で一本、後期で一本、各人で違った作品を訳していただきました。翻訳するには、集中力と持久力、そして時間が必要です。訳した文章を磨き上げたり、不安な箇所や言葉や歴史を調べたり、登場人物の人柄を原文に沿って創り上げたり、英文のリズムを活かす日本語を選択したりと、考えるべきことや、やるべきことは枚挙に暇がありません。ましてや塾生のみなさんには本業があるので、仕事と並行して課題をこなさなければならないのです。しかも年を重ねるごとに課題がかなり難しくなってきたため、添削を参考に訳文を考え直し、全体を見直す時間を捻出しなければなりません。ひと月があっという間に過ぎていきます。
 とはいえ、学んだことの成果は確実に訳文に反映されてきています。一年前、二年前には英文に引きずられ、辞書の言葉に気圧されて本当の意味を汲み取れなかった方々も、登場人物の人柄や表現に託した作者の意図を読み解いて、みごとな訳語を工夫できるようになりました。また、文章を書く訓練(ある方が「古屋メソッド」と名付けました)を重ねた結果、四年前に比べて語彙が格段に豊富になり、効果的な話の運び方ができるようになりました。
 いちばん感銘を受けたのは、取り組むうえでのみなさんの姿勢です。おひとりおひとりに緩みがないというか、こちらが期待した以上の真剣さと熱意で毎回課題を提出してくださっています。「五年後にプロを目指す」と掲げたこの塾の方針がようやく絵に描いた餅ではなく、徐々に実体のあるものになってきています。これは塾生のみなさまの努力の賜で、なにより嬉しいことです。古屋との共訳書を出す予定の方が何人もいます。
 またこれまで特別講義として、内田洋子、北原尚彦、高遠弘美、稲葉延子の四氏の方々にご専門の分野のことや翻訳するうえでの秘訣について話していただき、非常に刺激的で充実した時間を過ごすことができました。
 半期毎に実施している個人面談では、アドバイザーでもある稲葉先生の同席のもと、翻訳上の問題、文章上達のための相談、将来的な展望などをうかがっています。塾生の数が少ないからこそ時間をかけてできるサポートだと思います。
 一年後にはさらなる成果をここでご報告できるものと思っています。