見出し画像

『桐島、部活やめるってよ』TRPG その6(ソロリプレイ1)

14 テストリプレイ

 ランダム事件表を用いれば、もしかしたらソロプレイも出来るかもしれないと思い、やってみた。以下はルールを作ったばかりの筆者による、GM・プレイヤー一人二役のセッションのリプレイとなる。このゲームシステムを用いた初めてのセッションであることは言うまでもない。

 キャラクターは、イントロダクションで描いた女子生徒をイメージして作成。あの文章はこのTRPGを作る時、スケッチのようにして書いたものだった。特に詳細な設定は決めてなかったが、まあ思い浮かんだ感じを「調査票(キャラシート)」に書きこむ。それにしても【外見】の数値を高めに設定してしまうのは、なんかやってしまうよなあ。

 名前は、高校時代に好きだった女の子の名前をいじって使用。さて、どんなふうに動いてくれるか。
 このセッションは、金・月・火の三日間、1日の時制はすべて3か所と設定で展開される。使用ボーナスリストはデフォルトのものを使用。

■1日目・金曜日

 目標日常点は100点と設定。これが高いのか低いのか、このテストプレイで判断したい。

 最初のシーン。指定時制は朝。原作映画では【体育館で全校朝会】が行われている。
 ただ、朝会に素直に参加するキャラじゃないなと思い、ここは朝会に参加せず遅刻してくる事に。ということで場所は、誰もいない教室を宣言

 誰にも見られないように上手く遅刻してくる……。これは【器用判定】で判断。難易度は普通程度の「10」だろう。ただし教師や生徒たちは殆ど朝会に行っている事を加味して難易度は-2として、目標値は「8」。

 深柄の【器用】の能力値は「2」。ここは【特徴要素】の【1・人の話を聞いていない】を使用することに。これにより、8-2-1=「5」が目標値となった。特徴要素も使用したので日常点2倍のチャンスだ。

 深柄夏織にとって学校へ遅刻気味に登校するのは日常の事だった。基本的に人の話を聞かない性格なので、途中で誰かに見つかって注意されても堂々と無視して校舎に入っていく。

 と描写は太文字でした所で、サイコロを二つ振る……だが、サイコロの出目は「4」。判定に最初から失敗する……。所持「私」は1点減点。日常点は残念賞の半分、5点取得。

 だが、誰もいないはずの教室に入ろうとした時、深柄は声をかけられた。

……どうやら誰かに見つかったらしい。そう自分で描写してしまったんだから仕方ない。
 ランダムでNPCを選択。とはいえ原作キャラは皆ちゃんと全校朝会に参加しているので、サイコロを1D振って出た目のスクールカーストを持つ「オリジナルNPC」に遭遇した事にしようというGM判断(ソロプレイなので自分判断だが)に従う。

 サイコロの出目は……「3」。オリジナルNPCリストからスクールカーストが「3」【山岳部の「林」(男):真面目以外取り柄のない男】を登場させる。遅刻して教室に入ろうとしているところを呼び止められ、体育館に来るように言われてしまう、としよう。

 見れば、同じクラスの男子生徒だ。でも、呼びとめられたからなんだ。全校朝会なんて、わざわざ行くほどのものだろうか。

 というように、教室でやりたい展開もあったので、これは無視しきろうと【精神判定】をしてみる。
 難易度は、「けっこうがっつり呼び止められている」と考え、普通程度ということで「10」。
 「林」君のスクールカーストが「3」と、深柄より1点上なので、難易度に+1とGMは判断。なので目標値は11。
 けっこう高い……ので、2点の個性値を持つ特徴要素【2・人を寄せ付けない無言の圧力がある】を使用。
【精神】の能力値が「2」なので、合計すると11-2-2=「7」が目標値。2Dの期待値だ。いけるか?

 サイコロの出目は……「5」。なので失敗。「私」を1失う。現在「私」値は3。残念賞の日常点5点加算で合計10点になるものの。早くも2回連続の判定失敗とピンチだ。

 しかし男子生徒――林は、その生真面目な口調で、「皆ももう行ってるんだから」と有無を言わさない。深柄は「どうも調子出ないな」と思いながら、林に強く促されたので、しぶしぶ体育館に行く事になった。

 そんなわけで、予定にはなかったけど全校朝会に参加。(もともとのイメージだと、誰もいない教室で写真でも撮らせようと思ってたんだが……)。 ボーナスポイントリストに【今まで話しかけた事のないクラスメイトに話しかけた】があるので、せっかくなのでこの流れで「林」に話しかける事に。内容は「朝会なんてくだらないよね」みたいな話題をしてみよう。

「全校朝会なんてくだらないよね」
 と、呟くように深柄は林に声をかける。

 歩きながらの他愛もない会話なので、【社交判定】難易度は簡単の「5」。あまり難易度を減らすと「達成値4点以上オーバー」してしまうので、このまま判定に。
【社交】の能力値が2のため、サイコロは3以上。7以上を出すと「4点以上オーバー」してしまうので失敗と同じ日常点しか入らない。
サイコロの出目は……「3」。サイコロの目が極端に悪いが、これが効を奏した結果に。
 日常点10点取得で20点。また、ボーナスリストの【今まで話しかけた事のないクラスメイトに話しかけた】を達成したので、日常点に10点加算し、現在40点。目標まであと60点だ。

 すると、林もなんとなくうなづき、
「朝会なんて大した事言わないんだし、部活動の結果紹介なんて、晒しモンだよ、あんなの」
 とか言う。
「林君てさ、何部だっけ」
 深柄がぼんやり聞くと、
「山岳部」
 憮然として答える林。
 普段まじめな「林」も「晒しモン」とか言うんだな、深柄はと思った。

……という描写にしてみた。これでボーナスの【他のキャラクターの意外な一面を見た】を達成した事にしよう。日常点+10で合計50点。
 ただ、序盤で簡単に達成できそうなボーナスを消費し過ぎるとあとあと大変かもしれない……。「意外な一面」はあと一度、「話した事のないクラスメイト」はあと2回使える。

 全校朝会で、映画のシーンと同じく、【桐島が県選抜に選ばれた事を聞く】【映画部が表彰され、放送部が『君よ吹け、僕の熱い涙を』を笑われながら発表される】のを体験する。

 皆がクスクスと映画部のタイトルを笑っているが、深柄はぼーっとしていたためタイトルを聞き逃し、そのクスクスの波に乗り遅れた。
 なんとなく、林を見る。林も笑っていない。それにしても、全校朝会が始まる寸前だったのに、林は何故教室の近くにいたんだろう。

 と言った所で、1日目・金曜日・朝「全校朝会」の時制を終了。
 小説だったらあからさまに伏線ぽい描写で締めた「林」は、本当にサイコロで決めた適当なNPCなので、何の設定も考えてない。彼のパーソナリティはロールしながら決めてくことにしよう。いったん休憩。

 次、どの時制をやるか迷う。あまり判定をやり過ぎても、今日のサイコロの出目の悪さはちょっと怖い。気がついたが、このゲームは失敗に対するリカバーがあんまりないんだな……。

 とくに思い付かないので、わりと必須イベント【帰りのHRで調査票を配られる】を体験しに、放課後の時制に。
 映画ではHRの時間は、【映画部の二人が竜汰に「映画秘宝」を落とされる】【竜汰が上位な女子たちに髪を触られている】とか【吹奏楽部の亜矢が菊池宏樹を見ている】などの事件が起きたが、我らが深柄は「寝たふり」を決め込む。

 授業が終わったというのに、クラスの皆はまだ元気なのかうるさい。特に女子だ。どこにそんな元気が残っているんだろう。
 深柄は、授業中や休み時間と変わらない姿勢で、また机に突っ伏している。

……と、深柄は授業中もずっとこんな感じで、休み時間もたいてい寝たフリをして1日過ごしている女子なので、スクールカーストは低めなのだ。

 前の席から紙が配られる。三者面談用の進路調査票だ。のっそりと起きて後ろの席に渡そうとする。
 ふと、林は何をしているのか気になった。深柄は調査票を渡すため振り向くついでに、林の方をチラ見してみた。

 これを判定にしてみよう。……後ろにプリントを配った隙に見るので、難易度は「簡単」の5。【器用判定】。器用値は2あるので、5-2=「3」以上出れば成功である。
 出目は……「6」。4点以上オーバーする事なく成功。日常点10点取得で60点。

 林はぼーっとしているようだ。私の視線に気づく様子はなかった。

 この時点で、プレーヤーとしての私も「林」について何の設定も決めていないので、彼に関するデータは皆無だ。なんか悩んでいるのか……プレイヤーの私も、キャラクターとしての深柄も、彼についてなんか気になる。
 さらにGMとして、林の設定を考えつつ、どうやらこのセッションは「深柄」と「林」に関するドラマになりそうだと方針が固まる。

 さて配られた調査票なのだが。将来への夢やら、進路、職業について思い悩むことだろう。
 深柄は【勉学】の数値が「3」と普通程度なので、それなりの大学には行くだろう。でも、彼女自身は写真を撮っていきたいようだ。でも器用じゃないから(数値2だし)職業写真家になれるわけないなと思っている……。

 配られた調査票は、来週の水曜日に提出だという。
 空欄の多く、書く場所の多いそれを見る。この空欄を埋めるためにどれだけ嘘の物語をひねり出さなければいけないのか。その面倒くささと、その物語を本気にしかねない教師や母親の顔を思い浮かべて、また眠りたくなった。

 と描写したにもかかわらず、GMから、調査票と向き合ってしまったため将来について内心不安になったので「【精神判定】難易度普通の10で判定を」との事(セルフプレイなので自演なのだが)。
 これは、いわいるSAN値チェック(『クトゥルフTRPG』における、恐怖に直面した時正気を保っていられるかどうかの判定)のようなものだろう。
 なんかミスにそうな予感。初日でこれ以上「私」を減らすのはちょっとまずい。このゲームは、目標日常点が下回った場合、「私」を3点失う。つまり、3点以下になるのはピンチなのだ。
 使えそうな特徴要素【5・写真が好きで……】を使用し、難易度を5減らす。精神の値は3なので、10-5-3=「2」なので、ファンブルさえしなければ成功するだろう。4点オーバーしても特徴要素利用のため、10点は貰える……出目は「8」。余裕で成功。でも4点オーバーのため、結局取得は10点。あと30点で目標クリアだ。
 5の要素を遣わなくても平目でも成功してた……と思いつつも、将来写真を撮り続ける自分を夢想して、将来への不安をふっきる事に。

 この空欄を、全部写真で埋められればいい。写真は正直だ。それに、写真は一瞬だ。この指がシャッターを押す瞬間に、嘘が入る隙間はない。そんな風に生きれたらいい。一瞬一瞬を積み重ねるように、この先も、これからも。
 でもまあ、無理なんだろう。
 調査票を二つ折りにして、透明シートにも挟まずカバンに放り入れたが、やはりもう一度取り出し、学校で配られるプリントが無秩序に納められているファイルの間に挟んで、それを鞄の奥底へ追いやった。

 とりあえずこの時制は以上。

 次が今日行動出来る最後の時制。
 先ほどの調査票で写真を意識したため、写真を撮る、みたいなシークエンスにしたい。「私」の回復技能でもある【うちこめるものがある】も、写真を撮る事で回復出来るようなっている。
 原作映画の登場人物を写真に納めて、原作キャラと絡みの2倍ボーナスを狙おう。彼らが被写体になってくれそうな場面は「バスケしている男3人組」か「屋上の吹奏楽部部長」あたりだなと思い、だったら屋上辺りに行って両方写真を撮れるように展開しようと判断。原作だと【屋上からバスケをする3人を、吹奏楽部部長が見ながらサックス吹いている】というシーンだ。
 放課後の時制で、場所は屋上。 

 久々に学校の景色が撮りたくなった。
い つも持ち歩いているニコンD3100を学校指定サブバックにいつも入れている。今日は天気がいい。昼の授業中、今日の天気の良さがもったいないと思っていたくらいだ。
 カメラの形の分、いびつに出っ張っている可愛くないサブバックを肩にかけ、深柄は屋上に向かった。

 で、いろいろ風景を見て、写真を撮ろうと構えたら、原作映画NPCの沢島亜矢(大後寿々花)がサックスを持ってやってきた、といったところか。

 ここで気づいたが【うちこめるものがある】技能は、周囲にスクールカーストが自分より高い輩がいると使えない……。
沢島のスクールカーストは「3」。深柄は「2」。これはまずい。
 「隠し撮りって感じだったら、相手は「いないもの」扱いにして、行使していい」とGM判断をしてみる。
 ただ屋上は隠れるスペースも少ないので、もし隠し撮りするとしたら難易度は難しいの「15」となるだろう……。
 ここは腹を決めて、特徴要素【3・体は思ったよりも大きい】と【4・友達を作らない事で……】を同時に使用する事に。
 判定は、ちょっと屋上の危険な場所から撮影していると考えて、運動技能も加味するため、【運動】+【器用】割る2の数値(小数点切りあげ)を指定。5÷2のため、「3」を使用する。
 したがって、15-3-4-3=「5」で、サイコロの目は5以上でこの判定は成功した事になるだろう。

 屋上に上がってくる階段の足音に気づき、深柄は思わず隠れようとした。なんで隠れようと思ったかはわからない。ただ、写真を屋上で撮っているという事を他人に知れたら、とても恥ずかしいと思ったからだ。
 狭い屋上に、それほど身を隠せる場所はない。しかたなく、階段建屋の壁に体を密着する。
 やってきたのは同じクラスで吹奏楽部の沢島さんだった。手には、黄金色のサックスを持っている。しばらく様子を見ていると、沢島さんはサックスを吹き始めた。
 恥ずかしいとかないんだな、と思った。こんな所でサックスを吹くという事に、なんのためらいも見えない。サックスの鈍い音が、学校中に響き渡る。
 自分がブスじゃないとでも思ってるんだろうな――そう思うと、深柄は意地悪な気持ちで彼女にカメラのフレームをあわせたくなった。
 この場所からだと上手く画格が合わない。でも近づいたら私がここにいる事がバレてしまうだろう。周囲を見渡せば、いい具合に体を隠せる段の低い所を見つけた。だがそれはフェンスのむこうだ。
 そこそこの体の大きさを生かしてぐいっと手を伸ばすと、フェンスは思ってたより簡単によじ登れた。風が吹き、長めのスカートをまくるが気にしない。
 フェンス向こうの吹きだまりに着地すると、肩にかけていたニコンを構える。望遠したレンズの覗き穴には、こっちを見ず、どこかしこかに向けてサックスを吹いているような沢島さんが見える。こんな風に隠れなくても、沢島さんはこっちを見ないかもしれないなと思った。
 なんか、「死ね」って思った。
 こんな事思ったりするから、私は一人なのかもしれない。写真部は今、私一人だ。
 私はシャッターに指をかける。

 いつの間にか描写が一人称になっていたなと思いつつ(描写に力入れ過ぎた。リプレイなんだから要点だけでいいのに)……サイコロの結果は――
「9」! 
 残念ながら4点以上オーバーしてしまったため、「撮影はできたが凡庸な写真が撮れてしまった」、と解釈しよう。サックスを吹く沢島を邪魔する事なく撮影に成功する事の出来た深柄はちょっとだけ充実し、「私」を実感した、という展開に。
 日常点は、4点以上オーバーのため5、特徴要素を利用したため2倍、原作キャラに絡んだ判定のためさらに2倍、結果20点の日常点を取得。技能使用に成功したため「私」を1点回復し「4」になる。

 撮った写真を、デジタル一眼の再生モードにして画面で確認する。手ブレもしていない。ピントも合ってる。そして、大した写真じゃないという事も分かる。空が青いのだけが綺麗な、女子高生が部活に打ち込んでる風の、ただのありふれた、いかにもな青春の構図の写真だ。
 それでも私は満足する。それっぽい写真が撮れる程度に、私は写真が撮れるのだ。

 さて、残りあと10点分なんとかしないと……。
 この時間帯だと、原作映画だと映画部がやってきて、場所争いをする予定だ。
 せっかくだからこの後やってくる映画部の前田(神木隆之介)と絡もう

 フェンスを乗り越えて教室に帰ろうとする所を、撮影しにやってきた映画部員たちに目撃される事に。そこで「何見てんだよ」的なガンをくれて、無視して何事もなかったかのように通り過ぎようとしよう。
 さすがに「屋上のフェンスをよじ登ってた」は奇異にみえるだろうという事で、ごまかしの難易度は普通程度の「10」。
 でも、前田のスクールカーストは1で、こちらは2なので、1点くらいボーナス貰えないか? あと、奴らは映画を撮る事に夢中なので、こっちの事は気にしないと思われる。あと1点減らさないか……? といろいろ考えて、難易度は2点減少の8。無視しろ的なオーラを出す、は【精神判定】で処理。能力値は3なので、5以上を出せば成功だ。
 サイコロの出目は……「8」。4点以上オーバーもする事なく、また原作キャラに絡んだ判定のため2倍となり、日常点は20点ゲット。合計で110点となり、見事初日の目標点をクリアした。
 さっき力入れ過ぎたので、描写は簡潔に。

 見つかる前に帰ろうと思い、屋上のフェンスをよじ登っていると、さえない一群が階段を上ってきた。クラスの同じ映画部のメガネの人――前田君と言ったか、その人がいて、さらに変なぼろぼろの服を着ている人もいる。映画部の人達なのだろう。撮影でもするのだろうか。
 そのメガネの人と目が合う。
 屋上に人がいるのに驚いたのかもしれない。不思議そうな目をこちらに向けるが、深柄は何事もなかったような顔をしてフェンスを降りる。深柄が「話しかけるな」という空気を出すと「いやいや、僕も別に話しかけませんよ」みたいな雰囲気をメガネは出してくる。お互いに温度の違う空気を発しながら、その空気が混じる事なく、深柄はその脇を通り過ぎて屋上を去って行った。

 といった所で、初日は終了。無事、目標点の100点を超える事が出来ました。

 しかしこのゲーム、目標点に達しないと考えたら、いくらでもロールが長引いてしまうという欠点も発見。判定回数を制限するべきか……? 対人テストプレイでいろいろ考えてみよう。 

続きは次回→

(表題写真:ニシデアンナ/文中挿入写真:金原美和子)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?