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『桐島、部活やめるってよ』TRPG その8(ソロリプレイ3)

■三日目 火曜日

 最初の時制は朝のHR後。教室を選択。原作映画だと、【梨紗の所に「今日桐島くるらしいよ」と友弘が報告しにくる】が発生するので、それを聞きに。

「聞いた? 来るらしいよ今日桐島」
 という言葉が、深柄の耳に入る。移動教室の準備で騒がしい教室の中、寝ているフリをしていた深柄は、詳しく聞こうと耳をそばだてるが、その知らせをうけた女子――桐島君の彼女の飯田さんは、特にリアクションをする事もなく、無言で立ち去った。
「……わけわかんねぇ、女子」
 報告してきた男子は呟くが、その隣を「ほんとに。私も女子だけど」と、同じグループのバド部の女子が通り過ぎていく。昨日購買で映画部ににこやかに話しかけてた、あの東原さんだ。
 深柄は、寝たフリをやめて、東原さんの行った先を見つめる。

 いかん。この人は自発的に動かない。ので、事件表のお世話になろう。この状態で何が起きるか……「2」と「2」が出て、【22・知り合いに悪意を持たれる】
 知り合いとなると、「林」を出すしかない。しかし、悪意って……。

「そんなに桐島の事が気になるの?」
 林が突然後ろから声をかけてきた。深柄は「は?」と返す。
「寝たフリしながら、桐島君の話題だけは聞いてるんだよね、深柄さんは」
 こいつ何言ってるんだろう、と深柄は林を凝視する。林の声はわりと大きな声だったので、さっき桐島の事を報告しに来た――昨日私を笑った、帰宅部の男子の一人も、不思議そうにこっちを見ている。

 あー、林君はストーカーだったのか? 桐島に嫉妬したのか……。
 さりげなく深柄はピンチだ。どういう行動を取らせようか。「そんなわけないし、何言ってるの?」とあしらおうとします。
 だとすると、社交性より精神力って感じなので、【精神判定】で。難易度は「10」。ただし、状況が望ましくない感じ(相手がなんか悪意を持ってる、林のスクールカーストが1高い)ので、難易度は2点増しの「12」で。
 このまま失敗して、ボーナスの【他のキャラクターとケンカした】に持ちこんでみたいので、ここは「私」を失う覚悟で、平目で判定に挑戦。精神値は3のため、12-3=「9」が目標値。
 出目は「8」……惜しい。特徴要素を使っておけばよかった! 「私」を1点失い、5点に。日常点は残念賞の5点。

「そんなわけないし、何言ってるの?」
 深柄はわりと冷たくあしらったつもりだが、あまり良くなかったようだ。林は怒ったように「そんなわけあるじゃん」と詰め寄る。
 帰宅部の男子達が、こっちを見ている。林も、反射的に言葉が出てしまったのだろう。小さく「あ、ごめ……ん」と呟いているが、騒ぎになるのもばかばかしいので、次の移動教室に行こうと教科書とノートを持って、教室を出ようとする。
「待ってよ」
 と林は腕を掴もうとしてきた。

 うーん急展開(自分で思い付いて描写してるわけだけれど)。とりあえず腕を払って林から逃れようとする。
 【運動判定】で難易度は10。まだ遠慮がある林に対して本気で逃げるつもりなので、難易度は1点減点の9とする。【運動技能】は3あるので、ここは特徴技能の【2・人を寄せ付けない無言の圧力がある】を使用して、力強く逃げてやろう。9-3-2=「5」の目標値。サイコロの出目は・……「5」! 危なかった! が、4点オーバーする事なく成功。20点の日常点取得。

 掴もうとしてきた手を大げさに避け、キッと林を睨みつける。
 林は少しよろけながらも、深柄の無言の圧力に怯んだのか、動きを止める。その隙に、深柄は教室を出た。
「なんだよ!」
 林の声が背中に刺さる。

 よし、ここは教室に行かず、逃げてやろう。逃げる先……と考え、ボーナスリストに【映画部の部室に入った】がある。達成すると20点貰える! ので、「林」から逃げるため移動教室に行かず、部室棟の方へ逃げた先が映画部の部室だった、と言う事にしてみる。
 判定は【運動判定】、難易度は10だがさっき振りはらって廊下に出たのと、移動教室先に行かないという作戦がなかなか効果的だと思うので、2点難易度を下げて「8」。運動値は「3」なので、8-3=「5」の目標値だ。これなら平目で挑戦できる。出目は「6」で成功。10点の日常点取得。

 深柄は足早に廊下を歩くが、林もあとを追って来た。
「なんで逃げるんだよ」
 とわめくように言う。いや、お前の方がなんで追って来るんだ、と深柄は思う。何で一人、壊れてるんだ。
 林はまるで青春ドラマのワンシーンみたいに深柄を追いかける。
 林には林なりの、なにかギリギリを支えている内面の変化やら感情があってこうなっているのだろうけれど、深柄にとっては、林の内面なんかしらない、分かるわけない。ただ今、一方的に悪意を持たれ、突然キレられ、追いかけられている。
 気持ち悪い。
 深柄は、心の底から不愉快になる。お前の内面に、私を巻き込むな。
 その一方、この分じゃ、移動教室先にまでやってくるな、と冷静にそう思って、深柄は人をかき分け、本来は登るはずの階段で、下った。上手く捲けただろうか。足音は雑踏に混じる。あのノリでどこまでも追ってくるかもしれない。ひとまずどこかに隠れようと、校舎をでたらめに走る。
 気がつくと、体育館脇の部室煉に来てしまっていた。どの部室も鍵が閉まっている。当たり前だ、授業時間なのだから。しかし、一つだけ空いている部室があった。それは剣道部の部室だ。鍵でもかけ忘れたのだろうか? ともあれ、追われている身としては好都合と、深柄は剣道部の部室に入った。

 おっ、話が転がったぞ。映画だと、映画部の部室は剣道部の隅にある。
 ここで、誰かが居たらおもしろいかもしれない……原作キャラの映画部の武文(太っている方・前野朋哉)がいたらおもしろいだろうとGM判断。授業をさぼって撮影に使う小道具を作ってる事にしよう。

 そもそも、映画の中で、映画部のやつらは妙に準備がいい。急にゾンビ映画を撮る事になったにしては、ボロボロの衣装とか血糊とか完璧にそろえている……授業でもさぼって準備でもしてたんだろうという判断である。作中、授業中の武文の描写はないので、時間軸的な矛盾もしない。よし。
 さて、深柄は中に誰か人(武文)がいる事にカンづけるかどうか……。【器用判定】で。難易度は、てんぱっている状態なので難易度普通の10。ただし映画部は剣道部の部室とカーテンでしか区切られてないので、人のいる気配を察しやすいという事も加味して1点減らし、9とする。器用値は2なので、7が目標値だ。使えそうな特徴要素もないので、ここは平目の運を信じて……
 ここで、なんとまさかのサイコロの出目は「1・1」の【ファンブル】!
 ファンブル表を振る事に。1Dであるが……。出目は「1」。
 感情が爆発し、怒りが止まらなくなる!?

 深柄は息を切らして、剣道部の部室に入った。扉を締め、内鍵をかける。少し落ち着いたら、だんだん怒りが沸いてきた。なんなんだ、林は。昨日話しかけてきて、何のつもりだろう。目立ちたくない教室でヘンに目立つし、これでまた噂されるに違いない。そう考えると、言いようもない怒りが沸いてきた。
「あー、もう……あーもう!」
 手にしていた教科書類を床に叩きつけ、 誰もいない事をいい事に、大声をあげる。
「こっちもこっちで、ギリギリなんだよ!」
(【映画の中のセリフ「こっちはこっちでギリギリなんだよ」を言った】+20。)
 一人で叫んで、わめいていると……不意に、奥からカーテンをかき分けて、手を真っ赤に染めた何者かが顔を出した。

 ちなみにファンブル表によると「周囲に自分より上のスクールカーストの生徒がいた場合、スクールカーストを1減らす。」とあるが、幸いな事に武文はスクールカースト「1」なので、その被害を免れたようだ。さらに、ファンブルすると1点回復するという効能がある。判定失敗により1点マイナスだが、ファンブル後の処理により「私」が回復するため、差し引きゼロ、元の「5」のままである。また判定失敗により5点日常点取得。
 ファンブル処理も終えた所で、描写によると、急に奥から人に遭遇した所。ここはSAN(正気度)チェックのつもりで、【精神判定】。
 難易度は普通の「10」。スクールカーストが1点上回っている物の、テンパっている事と、血糊を作って手が真っ赤という事を加味して、プラマイゼロで難易度変動はなし。
 ここは特徴要素【3・体は思ったよりも大きい】を使用し、図体のデカさを意識して、タダではやられんぞ的な戦闘態勢をとることで乗り切ろう。
 精神の能力値は3なので、10-3-3=「4」が目標値。出目は……「8」。僅かに4以上オーバーしてしまい、5点に特徴要素利用で2倍の、10点取得。まあなんとか、正気を保つ事が出来たようだ。

「!」
 深柄は不意に奥から現れた誰かに驚く。思わず後ずさり、体をズンと扉にぶつける。
「あの……あー」
 見れば、あのさえない映画部の太っている方の男……名字は思い出せないが、たしか武文とメガネの方に呼ばれていたような気がする。それが、何やらハケと赤い液体で満たされたカップを手に、カーテンのような仕切りから半身を出し、困ったように話しかけてきた。
「……なんだろう、大丈夫? てか、ちょ、手、グー、え、何?」
 深柄は無意識に手をグーに握り、ファイティングポーズを取っていたようだ。女子にしては体も大きい方なので、痴漢に遭ったりすると、無意識にこういうポーズを取ってしまう。
「や……そっちこそ、何してんの」
 深柄はあわてて構えるのをやめ、少し落ち着きを取り戻して言う。
「何って、あの、血糊。作ってんの」
「血糊?」
「ここ、部室だから。うちらの。……映画部」
 そう言って、武文はカーテンを開く。
 薄暗い橙色の卓上電灯にさらされたその一角は、映画の機材や漫画で溢れた、小汚いスペースだ。
「一昨日つうか、金曜から撮りだしてて。……血糊とか、なんか、今日も使うし。全然たらねぇの。血糊」
「授業サボって?」
「……そっちだってサボりだろ」
 武文はこちらに言うでもなく呟き、部屋の奥に戻る。深柄は近づいてそのスペースを覗きこむ。おそらくいつもいるであろう、男子達特有のすえた臭いが鼻につく。
「……勝手に入るなよ。部外者は立ち入り禁止」
 武文はまたにゅっと顔を近づけ、カーテンにガムテープで張りつけてある手書きの「立ち入り禁止」の文字を見せる。

 まだ、部室の中に入れてないためボーナスは貰えない。うーん、押し通りたい所だが、せっかく原作キャラと絡むのなら穏便に交流したい。ボーナスリストだと【ケンカをした】【今まで話した事のないクラスメイトと話しかけた】【クサい事を言った】【キャラクターの意外な一面を見た】などがある。
 何狙うか……ケンカはどうもなあ。とりあえず話しかければ【話しかけた】はクリアになるし、【キャラクターの意外な一面】【クサい事】あたりを狙って、会話を続ける……【社交判定】いや、映画部の中に張ってある映画ポスターか何かに反応して、「あ、これ知ってる」とか言ってお近づきになろうか。【知識判定】。
 原作映画を確認したら、映画部には目立つポスターは張ってなかったが、とりあえず小道具の内臓やら腸やらがぶら下がってたので、ゾンビ映画のタイトルを呟かせてみる。
 といっても、プレイヤーである私もゾンビには疎い。難易度「15」。ただ、武文はきっとゾンビ映画に理解を示したら嬉しがるだろうというのと、スクールカースト差を考慮して難易度は2減らして「13」。
 ここは特徴要素【4・友達を作らない事が……】を駆使し、センスのよさを発揮しサブカル知識の一つとしてゾンビ映画のタイトルを挙げてみる。知識値は3なので、13-3-4=「6」の目標値。いけるか?
 ダイス目は……「8」! やった! 4点オーバーする事もなく、特徴要素利用と原作キャラがらみのボーナスも加算で、10点×2×2の40点取得だ!

 深柄はそのまま中の様子をうかがう。洗濯バサミにぶら下がっている腸や、ぼろぼろの衣装、それに血糊……。
「ゾンビ映画?」
「なんだよ。文句あんのかよ」
「……『死霊の盆踊り』みたいな?」
 深柄が、かろうじて知っているゾンビ映画のタイトルを思い出して言うと、武文はピクりと反応して、にやりと笑う。
「あれゾンビ映画っていうか……エドウッドかよぉ」
「ん?」
「エドウッドよりはマシなもん作ってるよ俺達。マァある意味あれはあれで別格っていうか。」
「ごめん、あんま知らないんだけど」
 武文の血糊を混ぜる手が早くなる。
「あー知らなくていいよ、見ても時間の無駄だから。でも見たら見たで笑えるって言うか、友達と笑いながら見るのが正しいんよエドウッドは。でもさ、いい映画しか見ないような奴って、所詮人生のいい所しか見ようとしないような奴だからさ。俺だったらそーいう奴、絶対俳優で使わないね。エドウッド見ないような俳優は、使わないっていうかさ」
 武文は深柄背を向けて血糊をぐりぐりと混ぜている。深柄は部室のスペースに入るが、武文は気にしないようだ。
(【映画部の部室に入る】+20。【今まで話した事のないクラスメイトに話しかける】+10)
 
 『死霊の盆踊り』という単語を、外見値「4」の女子の口から出たことで上機嫌な武文さん。おかげで部屋に入れて、30点のボーナスも貰う。合計140となり、残り60点だ。
 とりあえず、この後ひたすら武文に映画関連の事で話しかけられるが、それに耐えられるかどうか。【精神判定】の難易度「10」で。とりあえず、聞き流す事にしたいので、特徴要素【1・人の話を聞いてないので……】を使用する。精神値は3なので、10-3-1=「6」の目標値。いけるか?
 サイコロの出目は……「8」。これまた成功。10×2×2の40点。このまま200点まで行ってしまうか?(それは何だかシマらないオチになるが……)。

 武文はその後、ゾンビ映画について語りだした。固有名詞の洪水だ。深柄は、それを授業中のように適度に相槌を打って聞き流しながら、隅っこの窪みのような所に座る。床に漫画が落ちている。『ガンツ』『グラップラー刃牙』『バガボンド』『ジョジョの奇妙な冒険』。
「映画、好きなんだ」
 『ジョジョ』を手にしながら、深柄は尋ねる。
「んー……」
 流暢に喋っていた武文が、言葉に詰まる。少しだけ沈黙が現れる。深柄はジョジョに目を落とす。警官風のキャラクターが何か言ってる。『そうだな…わたしは“結果”だけを求めてはいない。“結果”だけを求めていると、人は近道をしたがるものだ…近道した時真実を見失うかもしれない。』……相変わらず、クドい絵だなと思う。
 不意に武文が口を開いた。
「好きって言ったら、壊れるんよ。こういうの」
「あん?」
 深柄は武文を見る。
 小窓が武文の頭上にあり、カーテンで仕切られたこの空間にとって、卓上灯以外の唯一の外光である。それに照らされる、臭くてダサい男子の、丸まった背中を深柄は見る。
 武文は血糊をMATCHのペットボトルに移し替えながら尋ねる。
「……授業でないの? 俺は次、選択英語だから、選択英語のハラ、キレるとヤバいから」
「ここにいたら迷惑?」
「……迷惑じゃないけど。放課後までいたら、あれだな。他の奴ら来るし。あんたみたいなのがいると、……皆なんか。気ィ遣うし」
「別に気なんか遣わなくていいんだけど」
 といいつつ、深柄は気がついた。あの膨大な量の映画の話は、武文なりに、気を遣っていたんじゃないかと。沈黙が生まれないように、なけなしの社交性を発揮してくれたのではないか。
「……じゃ、俺、そろそろ教室行くわ」
 武文はそう言うと、のっそりとこの部屋を出ていこうとする。
「私もね。写真、撮ってるんだ。……写真部だし」
 深柄はなんとなく言う。武文はぼんやり足を止める
「私も、写真、好きかどうか、分かんない」
 ふーん、そかそか、という顔をし、武文は何を言うでもなく、そのまま部室を出る。
 残された深柄は、ぼんやりと映画部の部室に寝転がる。ニスみたいな人工の臭いが、深柄の髪の毛に絡みついてくるみたいだった。

 武文を描写するのはけっこう楽しいですね。というわけでこのシーンはこれで終了。
 のこり日常点は20点。意外と余裕で最後の時制に。やはり原作キャラと絡めると2倍は美味しい。最後なので写真でも撮らせたいが(特徴要素5も残っているし)、せっかくなので桐島(屋上を飛び降りた男)を見かけてみたい。
 なので、放課後の時制に。とりあえず、授業はその後保健室に行ったという設定にして、何食わぬ顔で授業に復帰し、放課後になったという感じに。放課後は、初日と同じように、どこかの廊下……科学棟の4階あたりに移動した事にしよう。

 その後何事もなかったかのように教室に戻り、何事もなかったかのように授業は進み、昼休みも休み時間もいつものように机につっぷす。林の視線が気になったが、林は何も言ってこない。武文も、別に何か話しかける訳でもなく、あいかわらず「おーまた」とメガネに絡み、映画の話をしている。
 やがて帰りのHRが終わり、帰宅の時間になった。深柄は、林に話しかけられないように、足早に教室を出る。林が追ってくるかと思ったが、そんな事はなかった。カツンカツンカツンと、気がつけば誰もいない廊下を歩いている。
 私はこの誰もいない学校の校舎に、何をしに来たのか。
 科学棟の四階。どこからか、サックスの音が聞こえる。屋上で吹いてた、あのたいして可愛くない沢島さんのサックスだろうか。それとも、別の人のだろうか。

 【+10:吹奏楽部の練習している音楽を聞いた】は、吹奏楽部員の合奏でないとだめなのでここでは反映されず。もう少し時間がたたないと……。
 ここは、映画で「屋上にいる男子生徒(桐島?)が段を飛び降りる」瞬間を見せたい、というか、それを発見したら写真で撮れるかどうかの判定に行きたい。
 一瞬の出来事なので、【器用判定】で、とりあえず難易度は「15」に。何かボーナス要素はあるかというと、これと言ってなく……。器用値は2。ここは特徴要素【5・写真が好きで……】を使用。15-2-5=「8」の目標値。ここまでくれば「私」の増減は関係ないが、一応回復技能を使用も宣言する。ついでに、「私」も2点消費し、サイコロの目に加える事にしよう。最後の判定はしっかりとキメたいものだ。6以上で成功。
 サイコロの目は……なんと「4」。こう言う時に……逃す……。「私」はさらにマイナス1で、私の値は残り「2」。日常点は5点取得で残り15点。

 科学棟の窓はあまり掃除をしていないのか、薄暗く曇っている。ぼやけた窓から、校舎全体が見える。季節はすっかり冬だ。木々もなんとなくうすら寒い。体育館の方から、どこかの部活の掛け声が聞こえる。「しょうらーい、ファイ、オー」の声は、耳鳴りのように深柄の体を通り過ぎる。校舎裏のバスケットリンクでは、いつもは3人いる帰宅部が一人になってバスケしている。
 しばらくして、サックスの音が止んだ。深柄は、思い出したようにカメラを取り出す。でも、どこに照準を合わせていいか、そもそも、写真なんて本当に撮りたいのか、わからない。
 その時だった。深柄は屋上を見た。
 屋上の階段建屋の上に腰かけていた制服の男子の姿。ここからじゃ、遠い。曇ってるガラス越しではよく見えない。
 でも、深柄は思った。あれは、桐島君なんじゃないか。
 カメラを構えた。私は、撮らなくちゃいけない。なぜかそう思う。ニコンのデジタル一眼の電源を入れる。軋むような起動音。覗き穴から見るカメラレンズの、ピントが、合わない。それでも、押さなくちゃ、この指、桐島が握った指で、シャッターを。特に何の意味もなく握られたこの指の感覚は、はっきり覚えている。この指を握った桐島君が部活を辞める。それは、私のような人には、絶対関係のない事。でもなんで、私はその事を覚えてるんだろう。なんで私は、写真を撮る事を辞めないんだろう。
 ……ブワン!
 音楽が鳴った。吹奏楽部の練習が始まったのだろう。
(【吹奏楽部の練習している音楽を聞いた】+10)深柄はその事に、一瞬気を取られる。
 気がつけば、覗き穴でとらえていたはずの、桐島君らしき人は、もうそこにはいない。飛び降りたのか、それとも元々そこにいなかったのかすら、分からなかった。深柄はシャッターを押すことができなかった。
 涙が一つ出てきた。
 何の涙なのか、どうして泣いているのか、深柄には分からない。
(【「ファンブル」の結果以外で、キャラクターが本気で泣いた】+30)泣いたのはいつぐらいだろう。クラスメイトの、別にそれほど仲良くない男子に体を触る事を許したときにも、特に泣いたり、悲しくなったりもしなかった私が、どうしてこんなことぐらいで泣くんだろう。たかが写真が撮れなかった事くらいで。たかが、何も出来なかったことぐらいで。
 吹奏楽部の音楽に混じって、カンカンカン、と乾いた足音がする。足音の方を見れば、そこには林がいた。林はこっちを見て、立ち止まっている。
 吹奏楽部の音楽は、大きく、うねる。

 先ほど最後の判定、と言ったが、どうだろう。もう一度くらい判定させてみたくなった。別に、もう日常点は二つのボーナスポイントで達成しているのだが……。

 ボーナスポイントの達成は、いわいる「口(くち)プロレス」でも構わないと思っている。判定をからめてもよし、絡めなくてもよし。言ったもん勝ちの要素の強いゲームシステムだ。だからこそ、別に勝ち負けだとかは、どこかで二の次のような気がする。重要なのは、キャラクターがその口プロレスで生き生きと描写出来るか否か。プレイヤーの都合に寄らず、楽しく動けるかどうかな気もする。
 でも、キャラクターの心情をサイコロを振らずにどこまで踏み込んでいいのかは、私にもちょっとわからない。
 今、このソロリプレイで、サイコロ振らずかなり恣意的に「深柄」を泣かせてみたが、どうだろう。作家はどこまで、キャラクターの行動を支配できるんだろう。プレイヤーはキャラクターの心情に、どこまで踏み込んでいいのか。

 それはともかく「林」に向かって、シャッターを切るかどうか。【器用】と【精神】を足して2で割り小数点を切りあげた「3」を使用。難易度は「10」。よって10-3で「7」以上でシャッターを切るのに成功する。どのみち日常点はすでに200点を超えているし、「私」も「2」残っているので、この判定はゲーム的には全く意味がないけれど、キャラクターをプレイヤーから少しでも解放してみたいというのもあり、振ってみたい。7以上なので、2D6のちょうど半分の確率で出る目でもある。
 サイコロの目は……「10」。深柄は撮影に成功した。

「待って」
 吹奏楽部の音楽が鳴り響く中、深柄は林に向かって鋭く言った。ゆっくりと、カメラを構える。ピントを合わせる。ぼやけた視界が、クリアになる。
「なんだよ」
 と林は言うが、深柄は聞かない。
「……何、写してるんだよ。何を……」
 林の言う通り私は、何を写そうとしているんだろう。手ぶれそうになる腕を、きゅっと脇で締める。林は、こっちを見ていいのか、いけないのかも分からないみたいにして立っている。
 私はその曖昧な立ち方の林に向かって、指をゆっくりとおろし、シャッターを切った。(了)

 以上でソロリプレイは終了となる。
 原作や映画のように、綺麗に終わるというよりは、尻切れトンボで終わった感があるが、特にオチをつけようとしなくても、屋上を飛び降りる男子生徒(桐島)をそれっぽく交えれば、まあ何とか終わった感じはある。【秘密】を活用出来なかったのがちょっと心残りだが、それはまあ、対人プレイでやった方が面白い要素なのかもしれない。

 テストプレイを振り返ってみていろいろとゲームとしては問題がありそうだが、とりあえず物語らしきものは誕生した。これはいわいる二次創作の小説になるのか。
 個人的には、これを「小説」と言い張るには、なんか違和感がある。ゲームの結果の描写を丁寧に書いたところで、あくまでゲームの結果の描写に過ぎない。単なる記録写真が、芸術写真と言えないのと同じように。
 キャラクターを創作し、判定を遣って偶然を頼りに物語をゲームで作ることは出来ても、それをまとめて「小説」とするのは、あと一歩アクセルを踏む必要がある気がしてならない。

 ゲーム的にも、プレイヤーにこうした「描写」を強いる事は、果たして可能なのかという疑問がある。私も、例えばランダム事件表等を遣って話を転がそうとしたが【憂鬱になる】とか【誰かに悪意を持たれる】など漠然としたキーワードだけでは、話を転がすのに苦労した。また、途中の描写は判定に関係なく進めてしまった所もある。
 改良点や追加サプリメントとして、事件表をより充実させたり、NPCのパーソナリティや、行動を決定させる「NPC行動表」なども考えるといいかもしれない。

ディレクターズノートに続く→

(写真:金原美和子)

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