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2-3 墓石破壊神 図説する創造者

「一応こういう感じかなっていうのを書いてきたので、プリントを取っていってください。1人1枚ずつね」僕は述べたよ。

墓地づくりを担う生徒たちの集まり場は初回のときと同じく校舎2階の旧2年6組の教室、現在は2年学習室と呼ばれる部屋で、仲間たちは紙を手にしていったよ。原案が人々の手に渡っていくのを僕は確かめていたよ。力の伝わりは心地よいよね。全員か筆記試験のときのように記されを見つめる。

「すごい」そう評する者がいたよ。

「まだ全然。仮のものだから」僕は言ったよ。

理想像、方向性、実現の手段。暗くした教室に机と椅子を並べることで参加者が歩くための通路を作る。墓石は段ボール箱に灰色や白色や黒色の塗装、墓銘の書き入れによって模造し、それらを適度な間隔をとって十数個設置する。墓石には造り花を添えることで、あるいは供え物としての果物や菓子を置くことで、迫真性を増しさらに本物へと近づける……。

僕の創作者としての働きが彼らも創作者に変えていくようなのだ。点火を担う擦られたマッチ棒のように案が、窯のように閉じられた部屋に新しい明るさを注いだのを僕は感知する。よりよい墓地づくりについてそれぞれの声が上がり始めていく、話し合いが活発になっていくんだ。

「これって墓にほかの人の名前書いてもいいの」2年2組所属の休み時間にカードゲームばかりしている男子生徒が述べるのだったよ。

「これはただの最初の案だから」僕は問いに答えたよ、配った紙に載った1つの墓石の絵に僕の字で記されてあるのは「先祖代々之墓」なんだ。

男子生徒たちは墓石にどのような言葉を表示するかについて話し合っていたよ。

「自分の名前書くやり方もある」

「死んでるじゃん」

「そいつがゾンビ的なものになって」

「客の名前が書いてあったらおもしろいいんだけどな。客の名前を最初に聞いておいて、その客が墓のところまで来て、墓を見るときまでに、俺らが急いで書いておくとか。そうしたら自分の墓を目撃できる」

「もう死んでいる的な」

「人の名前書いたらいじめかな」

「十字架も入れるの?」絵が得意な3組の女子生徒の質問だったよ、彼女が持つ紙にはその絵が書いてある。

「それもどうするか考えていくんだけど」僕は答えたよ。

「十字架って処刑のときのでしょ」別の生徒が加わって言ったよ。

「こんにゃくのやつもやりたいよね。上から紐で吊るして」

僕は別の生徒たちのほうに近づいたよ。

「やっぱりゾンビだな」男子生徒が言うよ。

「隠れたままでもいいわけで」それに答える別の男子生徒。

「客に触ってもいいのかな」1人が僕に尋ねたよ。

「触っていいのかな」僕は呟いたよ。

「抱きつく?」

「抱き締める……」

「首掴むとかは?」

「やばい! 俺、驚かせたい!」男子生徒が嬉しそうに言ったよ。

来客たちを待ち伏せる仕事もあるんだよね。脅し、驚かせ、怖がらせにも、舞台設定への努力と同等以上に重きを置かなければならないのだろうけれど僕はまだそこまで深く考えていなかったよ。身を潜め続けた状態を維持しながら相手に働きかけるやり方もあるし、初めに隠れて機を見て突発的に相手の前に姿を表すやり方もある。あらかじめ風景に溶け込むように人間を配置しておくやり方もありそう。

「陰から、手をわーって、出して」女子生徒が両腕を前方へ出し振動させるようにして言ったよ。「みんなでやってさ」

「絶対掴み返してくる人いるよね」

「痴漢だよ」

「客が反撃してくる可能性があるから。無抵抗とは限らないから」

「なんか道具で驚かせたいよね」

「棒で突く」女子生徒は手を動かすことで表現した。

「水かけたいんだけどな」1人の男子生徒は残念そうに言った。

「無理だろう」

「バケツに水汲んで」

「墓だから、リアル路線なら水はありなんだけどな」

「夏だから氷でもいいだろ」

「火の玉は?」そんな提案も。「火はだめか」

「火気厳禁だから、火の玉やるとすれば、なにかしらの光的なもので」

創作を創作たらしめるのは限界、はみ出ていけない枠。お化けは人を殺していいのかもしれないけれどお化け屋敷は人を殺してはいけない。発想が連鎖しているよ。僕は今この部屋に、最初は含まれていなかった人間が入っていることに気づいたよ。男子2人。成績最優秀の生徒と授業中いつも寝ている生徒。

「墓チームはどんな感じ?」成績最優秀の彼が僕に話しかけたよ。

「色々話し合いをしているところ」僕は答えたよ。

「これ書いたの?」彼は教卓の上に置かれてあった墓作りの原案を見ると、掴んで読んだよ。

「うん」

「すごいな!」

「墓だからね」僕は言ったよ。

「誰かがこういうのを最初にやってくれないと始まらないんだよな」彼は述べたよ。

僕は硬直したよ。初めて自分に味方ができたような感じがしたからなんだ。この男子生徒らが所属している部門はこの企画における最終エリア「お化け屋敷」で、彼らはほかのチームの事情を眺めてこようと活動拠点の教室から抜け出してきたところのようだったよ。

「俺らはここまでは計画してなかったから」彼は明かしたよ。

「ここが1番進んでる」いつも寝てばかりいる彼が補強するように述べたよ。

お化け屋敷エリア担当は2組と3組の強い男たち。病院エリア担当は2組と3組の強い女たち。墓地エリア担当は2組と3組の弱い男女であり、そこに僕という統率者がフィットした。一致団結しやすい事情があったよ。僕はほかのチームに所属していたら自宅で仕事をしなかっただろう。

2人の男子生徒は去っていったよ。僕は支配に成功するような感覚を得ていたよ。彼らとのこの会話が僕に上位者としての意識を植えるために働いたようだったよ、墓のほかのみんなには別の教室における話し合いに関して情報が渡らなかった。

文化祭準備に充てられたホームルームの時間が終わると、墓を担う生徒たちは2組か3組の教室へ戻るために美術室が最奥にある廊下を進んでいったよ。教室の明かりは消えたよ。充実が空虚に戻った。教卓に置かれたままだった印刷した紙の残り数枚を片手に持って僕も帰るよ。生産性のない時間にならなくてよかったよ。

【本質のテキスト2「墓石破壊神」の「クリエイター4 休息する創造者」に続きます】

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