見出し画像

2-10 墓石破壊神 総合する創造者

文化祭1日目に2年3組は劇を上演するよ。妖精役の僕は会館の舞台上で喋っていたよ。片手にひまわりの造花を持っているよ。購入時はこの用途を想定しなかったけどね。そして激しく跳ね回るんだ。主役である女子生徒がぼろぼろの衣服から煌びやかなドレスに着替えを済ませるために幕が閉まっている間、人々の視線を僕に集中させるために、彼女に魔法をかける儀式を大胆な動きで遂行したんだ。彼女が豪華な衣服を着終えると僕は袖に戻ったよ。出番はこれだけだよ。

ステージ発表後が最後の墓地作りの時間。2年2組の生徒は僕が演じた妖精に言及していたよ。演技が終わったから、もう演技を考えなくてもよいんだ。今ある全ての時間を明日の墓地のために注ぐよ。

みんなの焦りが生じている。昨日初めて大まかな形を得たが、僕たちが望む完璧な仕上がりからはほど遠い状態であることを誰もがわかっているためだよ。まずいよね。前日に遂げたのは、物の配置の一案を確かめて部屋を暗くした、ただそれだけなのだから。

昨日の試行で浮かんだ課題が多い。人間が潜む場所をしっかりと確保するために通路の構造を見直す必要があるし、来客らを驚かせるための小道具もさらに作成しないといけない。一部の女子生徒がイライラしているよ。これまでも現場では言い争いが生じていたが最終日はその比ではない。

「とっとと机並べてよ」女子生徒が男子生徒に毒づいたよ。「そこに机を置くっていうことができないの? 机を置くっていうことが」

「今こっちやってるから」男子生徒が言ったよ。

「それも大事だけど今こっちなの!」

「殺すぞ」男子生徒は呟いたよ。

「ねえねえ」1人の男子生徒が僕に話しかけてお願いしてきたよ。「ここに書いてもらっていい?」

3組の墓地エリアと2組の病院エリアを繋ぐための覆いとなる段ボール板への落書きについてだったよ。2年1組、2組、3組の教室全てを連続して客に通らせるわけだが、客を途中で外界に抜け出させないために設ける壁なのだ。廊下は明るいので暗くしないといけない。この壁には挑戦者がリタイアしたくなったときに使う扉も備えられている。

壁にはすでに赤い絵の具で落書きが施されていたよ。僕は幽霊の絵をいくつか描き加えたよ。3つの目と4本の腕を持つ人型の化け物の絵も。「がんばれ」という文字も記したよ。そんな僕に、病院エリアを担う1人の女子生徒が急いだ様子で話しかけてきたよ。

「ちょっと後でさ、手伝ってほしいの」彼女は病院エリアの準備がきわめて遅れていて人手不足だと伝えたよ。「後で来てね! お願い!」

僕たちの墓地エリアには大きな改善の余地があるが、病院エリアとお化け屋敷エリアほどではないはず。どうしようかな。やはりあの者たちにこのチームと同等の仕事ができるわけがなかったな。こちらから何人か戦力を送り込んであげるのがいいのかな。

「こっちの椅子がさ」墓地エリアの女子生徒が僕に話しかけたよ。

「病院のほうが進んでないみたいで」僕は彼女に説明をしたよ。

「いいよ、あの人たち放っておいて」彼女は苦い顔になったよ。「どんだけ自己中なの」

僕は何も言わなかったよ。

「私言ってくる」彼女は怒りながら廊下を歩いていったよ。

それに引き替え墓地エリアはどんどん改良が進展するよ。墓石が至る所に設置され、どの石の前にも供え物として造花が置かれた。昆虫の模型と爬虫類の模型が置かれた所も。天から吊り下げられたこんにゃくもあったし、長髪の人間の頭部の模型さえも紐で吊るされていたよ。

客人たちを自身の腕や発声で驚愕させたい者は独自の準備を進める一方で、そうした直接的な手段を好まない者は利便的かつ頑丈な攻撃用の道具を持つ。長時間隠れていられるように、潜伏者たちの待機場所も居心地の良いものに作り変えられていったよ。たとえば、椅子に座れるようにするとか、手足を伸ばせるようにするとかね。

各々の専門領域も自然と決定していったよ。客を最初に迎え撃つ者、歩き慣れたころに襲う者、背後から、上方から、下方から攻める者、終盤に働きかける者。全てが分業で成り立っているんだよね。

【本質のテキスト2「墓石破壊神 クリエイター11」に続きます】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?