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空蝉シンドローム

闇を一さじ救えば実体が浮かぶ
冷えた赤いゼリーを口に運ぶが
ブドウの芳醇な香りの余韻を残す暇もない
手当たり次第に散らしたメモの零れ落ちた残骸が
しわがれたように開く
” Don't touch for me. ” 
傷ついた思い出に溺れ
いきつく対岸が彼岸だなんて信じない
不透明なまま明るい空から逃げるようにして星よりも孤独

蝉の声が耳にざわついて離れない
眩いばかりの夏のなか
叫ぶものたちの響きは空よりも重く、雨のかわりに汗を流した
乾いた大地のコンクリート
楽しそうに鳴らしていく君の足跡はきっと青いのだろう
僕は何色?
汗がやまない
声が離れない
灰色が枯れない

真昼間の夢には向日葵がくるくると踊り出す
疲れ切った一人の男がこんなときでもあるものだ
黄昏に首を垂れて俯く一つの花の群像

月のかわりにスマホを開く
時間と空間に交信する
生きている証明として、また一つの光を掬う

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