【物語から哲学する①】塩の街/有川浩📕
「物語から哲学する」シリーズ(勝手に命名)。
今日から始めていきます。
今回の本はこちら。
*塩の街/有川浩*
この本に出会ったのは中学生のころ。
受験勉強が終わった深夜。朝方まで食い入るように読んでいた1冊。
原因不明の塩害で、人間が次々に塩の柱と化してゆく時代。法もルールも消え去った世界で、残酷で温かい、人間模様を丁寧に映し出す。私たちが普段無視している、人間の醜さや脆さを描いてる作品だと私は思います。
もちろん、主人公たちの恋模様も必見。
当時キャーキャー言いながら読んでたのを覚えています…。若かったなあ(笑)
さて、本書に散りばめられた素敵な言葉たちを拾い集めてちょっぴり哲学してみましょう。
コーヒーでも飲みながら。
🌳あらすじ🌳
「世界とか、救ってみたいと思わない?」 塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。崩壊寸前の東京で暮らす男と少女に、そそのかすように囁く男が運命をもたらす。全ての本読みを熱狂させるロマンチックエンタテインメント。 ※Amazonより引用
🌳主な登場人物🌳
真奈:ひょんなことから秋庭と暮らすことになった少女。親を塩害で失う。心は繊細だが、真っ直ぐな性格
秋庭:真奈の保護者(仮)で凄腕の元陸上自衛隊員。ぶっきらぼうで言葉も荒いが、実は心優しい。
入江:謎の科学者。秋庭とは腐れ縁。彼の一言が世界の運命を変える。
1.人間の死を痛むのは人間だけ
秋庭「俺たちの死に方が一大事なのは俺たちだけだ。それが世界の一大事と思ってるのも俺たちだけだろうよ」
友達が死んでも家族が死んでも、世界は変わらず回り続ける。多分、私が死んでもそうなのでしょう。
今この瞬間も、世界中でたくさんの命が尽きています。それを世界は知らん顔するように、無情にただ時が流れる。
私たち人間でさえ、近しい人の死やニュースで知るむごい死にしか関心は向かないのです。誰かも分からないお葬式を見て涙を流すことはないでしょう。
意外と世界は無関心なのです。心という厄介なモノを携えている人間だけが、ひっそりと大切な人の死を痛んでいるだけ。
たしかに、虚しいことかもしれません。でも人間の死をこの世界もが悲しんでいては、私たちはいつまでも救われないのだと思います。
世界はいつまでも、どこまでも無関心だからこそ、涙を流す人間に美しい景色を見せてくれる。穏やかに吹く風。新緑の匂い。日差しの温もり。
こんなに辛いのに、悲しいのに。世界は変わらず明るくて温かい。
一面的に残酷に見えるけど、それが救いとなることもあるのではないでしょうか。
2. 世界なんて少しおかしい方が良い
真奈「いろいろ間違ってて、いろいろ澱んでて、いろいろよくなくて、あのままでよかった訳じゃないけど、こんなになっちゃう前の世界のほうがよかった」
人間は欲ばりなんです。現在(いま)あるものを変えたとしても、変わった世界に不満をこぼす。
「塩の街」のように、ルールも秩序も消えた世界がやってきたとして。「自由がほしい」と嘆いていた人間は、果たして「自由」を感じるでしょうか。
悪が悪だと、善が善だとされない世界。ひとりひとりの「正しさ」がルールになる世界。
それが本当に自由?
真奈のように、少し歪んでいて不条理な世界の方が良かったと言うかもしれません。
縛られていたものから解放されたからといって、すべてが楽になる保証はない。
つくづくワガママな生き物ですね、人間は。
3. 私たちは、色々無視しながら生きている
自分の関わった人さえ不幸にならなければそれでいい。自分の見る部分さえ綺麗ならそれで。
私たちは日々、たくさんのものを犠牲にしながら、それらを無視しながら生きています。
・豚や牛を殺して、ご飯にする。
・羊の毛を刈り取って服にする。
・貧しい国から輸入したコーヒー豆を煎って飲む。
私たちは店に綺麗に並べられた商品しか見ない。
でもその陰では、命からがら生きる人の姿がある。苦痛に泣き叫ぶ動物達がいる。彼らを殺す人達がいる。
知っているようで全然知らないのです。というか、知ろうともしないのです。知らんぷりしていた方が楽だから。
そのくせ、畑を荒らし人を殺す動物達には狂ったように怒る。「なんてことをしてくれた」「むごい、殺してしまえ」 日々何かを殺しながら生きている私たちがこの発言をするのは、ちゃんちゃらおかしい訳です。
でも実際、今この世界は人間がピラミッドの頂点に立っています。何かを壊したり生み出したりするのは、ほかの動物よりちょっぴり得意だから。
だからといって偉いわけでもない。鼻高々になってはいけない。
影で私たちの犠牲になっている、私たちの糧となってくれている全ての生き物に「ごめんなさい、ありがとう」を忘れちゃいけない。
4. 最期に、あなたは誰に会いたいですか。
さて。
この本を取り上げると、こんな重いトピックばかりになってしまうと予想はしていたのですが…
うーん、やっぱり重い。そして深い。
でも冒頭で言ったように、主人公真奈と秋庭の関係性が、物語を通してどう変わっていくのか。これもかなり注目していただきたい点です。
最後にひとつだけみなさんに聞いてみたいことがあります。自分の死を確信した時、あなたは最期に誰に会いたいですか?
家族?親友?それとも誰とも会いたくない?
誰かがそばにいると考えましょう。
遠のいていく意識の中で、あなたはその人に何を伝えたいですか?最期に言いたい言葉はなんでしょう。
その時にならないと分からないとは思います。咄嗟に出てくる言葉は台本通りでないことばかりですから。
「塩の街」では、ヒトの死が色鮮やかに描かれています。明るい色ばかりではありません。少し濁った色で描かれているページもあります。
なぜこの質問をするかは、本書を読み進めれば分かります。
最期に誰に会いたいか。
その人にどんな言葉を伝えたいか。
ぜひ考えながら読んでみてほしいです。
今後の執筆活動やデザイン・アート活動の糧にさせていただきます。いつか絶対に恩返しするために。