祖母の愛。

私が受験生の頃の話。

住んでいたアパートの一室には自分の部屋がなく、テレビが大好きな家族の生活音が気になって仕方なかった。

ある日このままではいけないと思い立ち、歩いて5分の距離にある祖父母の家へ、プチ引越しをした。

しばらくした2月の始め頃、もうすぐ受験も終わり。
3月になったら、1年近くお世話になったこの祖父母の家を出るんだなとしみじみ感じつつ、割とストレスのないのんびりとした日々を送っていた。

そんなある日の食卓で、来年は受験生になる妹が私と入れ替わりでこの家に住む予定だという話を祖母から聞いた。

妹は、前まで天真爛漫なおしゃべりっ子だったが、今は反抗期真っ只中。

まるで今までの彼女とは別人のように
全く話すことなく、声をかけても無表情で ”ん”とだけ返事をするような様子であった。

少なくとも、家では。

私は、
「今の私でも世話が大変だけど、
妹だと気分も不安定だから大変になるね〜」
と言った。

すると祖母は、くすくすと笑って
「それでも、かわいいものよ。」と言った。

「この前だって夕食の時、
ソースが白い袖に飛んだときにいつもの魔法の液体で拭いてくれと言わんばかりに ”ん”とだけ言って腕を差し出したでしょう。

口数は少ないけど、頼ってくれるんだなぁと思うと嬉しいものよ。」

私は不思議な気持ちになった。

もしも母なら、自分でなんとかしなさい、と言いそうだ。というより、妹自身だって、母の前ならばそうなることが分かっているから、そんなことはしないだろうと思う。

仮にそれが私でも、そう言ってしまうかもしれない。

社会に出て、楽しいことも悲しいことも含めて、色々な経験をしてきた 祖母だからなのだろうか。

あるいは一種の親バカというものなのか。
私にも孫ができたら、その子は今の妹と同じような存在になるのだろうか。

すぐそばにあるひっそりとした
祖母の愛を見つけた気がした。

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