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ドリンクバーのあいつ

駅付近にある行きつけのカラオケ屋では、ほぼ毎回お一人様DAM3時間ドリンクバー付きを頼む。
料金は最寄り駅から家に帰るまでのバス代とほぼ同じなので、大学時代なんかは、すごすごと家に帰るよりは少しでも歌ってストレス発散と洒落込もう、と思い時々通っていた。大学を卒業した今では、当時よりも頻繁に通っている。歌が上手くなりたいからだ。さて、前置きはこのくらいにしておいて。

そこのドリンクバーの機械が、いつの間にか新しくなっていた。儲かっているのだろう、良いことだ。
機械は3台ほど横並び(縦並びな訳ないだろう)になっているのだが、一番左の機械。見た感じ、これが一番上等そうだ。最近のファミレスにありそうな、コーヒー系統の飲み物を抽出するタッチパネル式の機械。
こいつを認識してはいたが、私はコーヒーを飲めないので、いつも右側の機械からアイスティーを抽出していた。つまり、無視していた。

だが、とある日。いつものごとくアイスティーを注ごうとしたら、画面にアイスティーの文字がない。なるほど、飲み物の残量が0になると、そもそも押せなくなるのか、と納得する。ならばどうしようかと、目に入ったアセロラドリンクのボタンを押し、部屋まで戻った。アセロラドリンクは少しばかり酸っぱかったが美味であった。同時に、「いつも飲んでいる飲み物とは別の種類のものを飲んでみると気分転換になる」と学習した。

私は大抵、これと決めたものしか食べないし飲まない。友人とファミレスに行くと、店に入る前から注文したいものが決まっている。そういう人間だったので、この発見は目から鱗である。その「アセロラ記念日」の次回のカラオケでのこと。

しっかりと前学習したことを思い出しながら、ドリンクバーへ向かう。ここでコーヒー抽出機械の話に戻るのである。
画面をよく見ると、どうやらコーヒーだけでなく、カフェラテもできるらしい。コンビニバイトの際にカフェラテの美味しさを知った私は、定期的にカフェラテを飲むようになった。よし、今回はカフェラテ・デーだ。と決め、ボタンを押す。

残り時間が表示され、どんどん数字が減っていくのを眺めていた。コップに氷、入れ忘れたなあと思いながら。アイスティーの時は、私は氷を入れずにボタンを長押しするのだが、この機械は単押しタイプだった。そうそう、こういうタイプは氷を入れなきゃ。さもないと、出来上がりの量がかなり少ないんだ。ああ、そら見たことか。液体少な。仕方ない、後から氷を入れるとするか、でもこうすると、液体が飛び散ってお店に申し訳ないんだよな……enjoy!

……は?

画面に注目する。それは紛れもなく、enjoy!という文字列だった。

……何様だお前。

enjoy!て。楽しもう!ってことか。うるせえわ。お前に言われなくても私は楽しむ。というか機械だろ、お前は。お楽しみください、だろ。ここは日本だぞ。日本語を喋れ。そして丁寧に言え。お楽しみください、と。
カラオケの受付の店員さんが、「203号室で~す、enjoy!」って言ってきたらビビるだろ。それ店員の距離か?って。なんだこいつ、って。機械だからといって許容されると思うなよ。店員に話しかけられるとしても、お楽しみください、なら許す。だが、事実として、画面に浮かぶのは、enjoy!。

そのビックリマークはなんだ?おちょくっているのか?良かった、♪じゃなくて。enjoy♪だったらタッチパネル割ってたかもしれない。
そもそも機械が喋るな。行き付けの寿司屋のペッパーくんですら必要事項しか言わない。ペッパーくんより上に立つな。ほぼ四角が。人型の上に。そして自我を持つな。いや、それはプログラミングされた、見せかけの自我だ。騙されてはならない。

なぜだろう。ファービーやたまごっちが喋っていても何とも思わないのに、コーヒー抽出機械にのみ違和感を覚えるのは。

あれか、必要事項しか喋らない業務的な機械かと思ったら、突然ユーモアを見せつけられたからか。真面目に授業をこなすような堅物っぽい先生が、
急にユーモアを交えたこと言った、みたいな。あ、そういうこと言うんだ、みたいな。

こう言いつつも、とりあえずその日は、カラオケをちゃんとenjoy!して帰りました。

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