読了 『命の初夜』

今年も積読を減らすことができませんでした。
読んでいるはずなのに増え続ける本棚と携帯のメモリー……おかしい。

これではいけない、と思い、読んだ本の感想をノートで上げてみることにしました。Twitterと違って長く文章を書くので、買う冊数を減らし一冊をじっくり味わえるのでは、と期待しています。

品切れ重版未定/絶版が怖くてやっぱり買ってしまいそうですが(笑)

私は作家の車谷長吉さんが好きだ。車谷さんの本を読んだ時に、本文中で『命の初夜』について述懐していた。北条民雄の『命の初夜』を知った最初である。車谷長吉にハマっていた私は、好きな作者が好きというなら読まねば!とばかりに本書を検索し、当時kindleで0円だった『命の初夜』を購入した。

 とても面白く、また怖い小説だと思った。実際に作者である北条民雄は癩病者として隔離入院施設にいた。そこで『命の初夜』をはじめとする小説を執筆し、川端康成を頼って世に出した。彼と川端康成の往復書簡では、原稿(手紙?)は殺菌消毒してあるから触れても大丈夫、との文がある。それほどに忌避された病気を病者が書いているのに、陰惨な感じがしない。確かに絶望していたり、どう前向きに検討しても先に希望が持てなかったりする。だが彼の小説は「命の初夜」にかぎらず、多くの作品において『人間失格』のようなウエットさはない。そして感情がとても論理的――情景描写と同じような温度で書かれている。それは「癩でない読者には癩者の気持ちは分らない」という、作中でもしばしば繰り返される思いからかもしれないし、彼自身、自分の思いを感情的に表すことが苦手だったからかもしれない。正直、小説が面白いのであまり気にしたことがない。

癩の宣告をされた主人公は結構死のうとしているが、死にきれずに病院へ行き、院内の森で首を吊り損ね……として、最後は人間としての自分は癩に侵された時点で死んでいる。ここに生きているのは、ただの命、生命だけだ。という添付夫の青年の言葉を聞き、まだその境地には至れないが癩として生きてみようと考え始める。

人として死んで、一個の生命として生れなおした主人公は、病室で朝の光を見る。病院の門をくぐってから病棟の寝台で夜を明かすまでの一昼夜を、命の初夜という言葉で本書は定義する。
透き通った深い海の色のような読後感がとても好きだった。「好きな作者の好きな本がタダで読めたぜ。うっしし」としていたのに、気づけば講談社文芸文庫(表紙がお高そうな紙使ってるやつ)の『北条民雄全集』を買っていた。

びっくりした。

 『命の初夜』の次は『間木老人』『重病室日記』を読んで北条民雄にはまり、その後は題名は判然としないが、癩病記録みたいなタイトルのものを読んでほしい。『命の初夜』が好きならきっと楽しめると思う。あと車谷長吉の作品は『妖語』(短編集)『赤目四十八滝心中未遂』『贋世捨人』なんかも好きだ。


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