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[本のおはなしvol.20]「かしこいビル」

本のおはなしも、なんと20回目!半年近く続いている!ということで、
何かスペシャルな演出を!と思いつつ、
普段と変わらず淡々とお届けしてしまった本のおはなしvol.20ですが、
『かしこいビル』について、その素敵さが少しでも伝わればという思いで side B お届けします。


『かしこいビル』は、作者のウィリアム・ニコルソンが自分の娘メリーのために描いた二冊の絵本のうちの一冊で、1926年にイギリスで出版された絵本。約100年もの間読み継がれているロングセラーです。

美術学校を卒業後、木版を用いたポスターデザインや芝居の舞台美術で幅広く活躍したウィリアム・ニコルソン。絵本の挿絵も手がけていますが、ことばと、絵の両方を手がけたのは、この『かしこいビル』と、もう一冊『ふたごの海賊』の二冊のみ。特に続編というわけではないとのことですが、二冊とも、主人公の名前は「メリー」。

シンプルなあらすじ

『かしこいビル』あらすじはとてもシンプル。
主人公のメアリーがおばさまから、「お家へ遊びにいらっしゃい」というお手紙をもらって、自分の大切にしているものをトランクへ入れて出かけます。でもしかし、そこに大事なビルを入れ忘れてしまったのです!

ビルはおもちゃの兵隊さん。背の高い近衛兵の帽子をかぶっています。
このビルも、他のおもちゃも、実際にメアリーが持っていた実物を描いているとのこと。そのリアリティーに納得です。

忘れられてしまったビルは、そうと気がつくと、川のような涙を流して悲しみます。その場面の描写の鮮やかなこと!
「よよと泣き崩れる」「滂沱の涙」とは、こんな様子だろうなと思うほど、凄まじいまでの泣きっぷり!
でも、ビルは泣き伏しているばかりではありません。
そこからの切り替えの早さがまた素敵。
山を越え谷を渡り、飛ぶように走って、なんとメアリーが乗る電車の到着を先回り。到着駅でメアリーを出迎えるのです。
電車より早く走れるビル!
無事に再会できたメアリーとビル。絵本の裏表紙にも、その喜びが現れています。

リアルとフィクションの見事なバランス

この「本のおはなし」を始めて絵本と向き合うことの多くなった昨今、自分なりの視点が少しできたような気がします。それは、「リアリティー」と「フィクション」ということ。リアリティーについては、「本のお話しvol.16」マーガレット・ワイズ・ブラウン著、クレメント・ハード絵『おやすみなさいおつきさま』でもテーマとなりました。
子どもにとって、「いま、ここ」で起こっている現実の出来事は、成長にとって欠かせない要素である。という考え方です。

リアリティーに関しては、以前、「わにわに」シリーズの作者である小風さちさんの講演会にお邪魔した時にも、「わにわに」の絵本の中で、小風さんがリアリティーを大切にされているというお話を伺いました。
(「本のおはなし」で取り上げた「わにわに」のお話はこちら
何か非現実的な突飛なことが描かれるのではなく、わにわにの生活や、わにわにの生態がリアルに描かれているわにわにの世界。現実の中に全てがあって、そこに含まれる豊かさを子どもは栄養にして育っていく。というお話でした。

『かしこいビル』の物語では、前半、メアリーがトランクに愛用のおもちゃを詰めて行く前半部分の徹底したリアリティーと、後半、忘れられたビルがそうと気がついて涙を流した後にひたすら走る。というフィクション部分は、はっきりと前後2つにわかれています。
前半のただのおもちゃであるビルやお人形たちと、後半に泣いたり走ったり喜んだりするビルやお人形との対比はとても鮮やか。

あくまでもお人形は、走ったり泣いたりしないという現実の世界と、お人形たちが命を得て生き生きと動き回る世界。この2つの世界がこの絵本の中に無理なく同居しています。それは、きっと幼い子どもの中では、自然に同居している世界観なのかもしれません。

くるみ割り人形と比べると

おもちゃの兵隊さんと、少女の物語ということで思い出したのが、1816年にドイツで出版された『くるみ割り人形』(原題『クルミわりとネズミの王さま』)バレエの演目としても有名なこの物語。ドイツロマン派の幻想文学の代表的作家であるホフマンによって、物語の結末は「くるみ割り人形の呪いが解けた王子様と主人公の少女はお菓子の国へ旅立ちました」と幻想的に締めくくられています。

『かしこいビル』よりも約100年前に出版された『くるみ割り人形』と比べると、だんだんとリアリティーの比重が増している?ということに気がつきました。「リアリティー」と「フィクション」について。これからまだまだ考察が続きそうです。

印象的な手書き文字

『かしこいビル』の前編に描かれている印象的な手書き文字。
訳者あとがきに、英語の原本の写真があるのですが、そのイメージをそっくりそのまま日本語に変えた、というような、絵のイメージともぴったりと合った手書き文字なのです。調べてみると、この日本語の書き文字は稲田茂さんというグラフィックデザイナーの方の手によるものでした。

昭和モダン体というフォントの作者としても知られている方です。
物語がすっと入ってくる絵本には、文字と絵の調和という要素も間違いなくあって、そこにはこんな方の仕事が成されているのだなあと思った次第です。


さて、今日の子守唄。

おもちゃの出てくる絵本、さらに、おもちゃの兵隊さん。と言えば!
の、この曲です。

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おもちゃのチャチャチャ
作詞:野坂昭如 作曲:越部信義

おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

そらにきらきら おほしさま
みんなスヤスヤ ねむるころ
おもちゃは はこを とびだして
おどる おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

なまりの へいたい トテチテタ
ラッパならして こんばんは
フランス人形 すてきでしょう
花の ドレスで チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

とんぼみたいな ヘリコプター
ぐんとはやいな ジェットきは
サイレンなれば はっしゃです
うちゅうロケット チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

きょうはおもちゃの おまつりだ
みんなたのしく うたいましょう
こひつじメエメエ こねこはニャー
こぶたブースカ チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

そらに さよなら おほしさま
まどに おひさま こんにちは
おもちゃは かえる おもちゃばこ
そして ねむるよ チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ

次週は松尾由佳さん選書で、『もじもじこぶくん』です。


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