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付録

 数年前。買い物ついでに立ち寄った古本屋。均一棚から数冊(たしか3冊)選び抜いて、レジに持っていく。会計中、周りの棚を見ながらぼーっとしていると、「お客さん」と声をかけられた。

「付録のDVDが付いていないんですけど、よろしいですか?」

 は、はい? 思わず変な声が出る。付録のDVD……? 私が均一棚から取り出したのは、新書数冊だ。雑誌だったら分かるが、一体どういうこと?
 戸惑っているのが、店員にも伝わったのだろう。「あのですね」と話し始める。「これなんですけど」と示してきたのは、兵藤裕己の『琵琶法師』だ。

「この本には付録でDVDが付いていて、琵琶法師の実際の演奏が収録されているんですよ」

……知らなかった。そんな新書があったとは。思わず感心してしまう。
 その後、店員から重ねて「付録のDVDないですけど、どうします?」と訊ねられたので、私は「なら、やめときます」と答えた。真面目に商品状態を説明した結果、本が一冊売れなくなった。店員なら説明して当然とはいえ、何だか申し訳ない気持ちになる。

 それから数ヶ月後だったか、ある古本まつりの均一コーナーで、『琵琶法師』と再会する。私は抜き出して、隣にいた友人に「この本、付録にDVDが付いてんだよ」と教えた。「そんな新書があんの?」と、理想的な反応が返ってきたので、中身を確認してみる。開いた新書には、きちんとDVDが収められていた。
 「これは運命の再会だ」と私は勝手に思って、DVD付き『琵琶法師』を購入するにいたる。

「数百年前、赤間が関に芳一という盲人が住んでいて、琵琶の弾唱が上手なことで知られていた。芳一は幼い頃から弾き語りを仕込まれ、まだ少年のうちから師匠たちを凌ぐほどだった。本職の琵琶法師として、芳一は主に平家と源氏の物語を語ることで有名になった。彼が壇の浦の合戦の歌をうたうと、「鬼神も涙をとどめ得なかった」と言われている。」
ラフカディオ・ハーン著、南條竹則訳『怪談』光文社古典新訳文庫、P17)

 ちなみに私はつい先日まで、この運命の本を購入したことを、すっかり忘れていた。思い出したのは、たまたま就寝前に読んでいた、ラフカディオ・ハーンの『怪談』がきっかけである。
 上で引用したのは、みんなお馴染み「耳なし芳一の話」の一節。ここの"琵琶法師"という文字を目にした瞬間、「あっ」と『琵琶法師』のことを思い出した。
 この機会を逃すわけにはいかない。私はさっそく『琵琶法師』の読書に取り掛かる。



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