虚勢
最近、バーナード・マラマッドの「ある夏の読書」という短篇を一読した。
本作の主人公は、20歳近くの無職の若者・ジョージ。16歳で学校を中退後、職探しがうまくいかず、家族からの小遣いでその日暮らしをしている。
ある夏の日、幼い頃からの顔馴染みであるカッタンザーラさんに、一つ虚勢を張ってしまう。それは、ある図書館のリストに並んだ百冊もの本を、夏の間に一冊ずつ読み進めていく、というものだった。
読書の習慣を持たないジョージの、この宣言は、カッタンザーラさんを感動せしめた。そこから彼は、ジョージに次のような提案をする。
*
カッタンザーラさんと約束はしたものの、もともと本を読まないジョージの、夏の読書は捗らない。
気づけば、進捗を訊ねられてはかなわない、との理由から、カッタンザーラさんを避けるようになる。会ったとしても、夏の読書の件は話題に出さなかった。
ある夜、道中で偶然、ジョージとカッタンザーラさんは顔を合わせる。そこで訊ねられたのは、例の一件だった。
一連のやりとりを目にしたとき、「20歳手前にもなって、こんな嘘はつかない」とジョージを嘲笑することは、案外容易でない、と感じる自分がいた。
大学進学が、それまでの生き方・考え方を改める大きなきっかけの一つになった身としては、ちょっとした進路の変更で、ジョージのような人生を送っていた可能性は十分ある。私も16、17歳ぐらいまで、まともに本を読んでいなかったから、大学進学さえなければ、現在にいたるまで本とは無縁の生活を送っていたことだろう。
今のところ、この人生に特段の不満はないが、将来も同様の気持ちでいられるかは分からない。
※※サポートのお願い※※
noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。「本ノ猪」をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?