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流出

 私は、自宅の本棚にコーナーができるくらい、「京都」に関する書籍を読んできた。
 最近も一冊、手に取る。本のタイトルは『京都』。副題が「未完の産業都市のゆくえ」である。
 京都に関する本は、その大多数が「京都のここがすごい!」に終始している。文化遺産を褒めちぎるか、食で圧倒するか、内容は似たりよったりだ。
 ただ、今回読んだ『京都』では、ただただ絶賛する本とは異なり、現今の京都が抱える問題が鋭く指摘されていて、刺激的である。

 これは私の実感とも通じるところがあるのだが、『京都』では、京都がお世辞にも、若者が生活を続ける上で優しい街だとは言えない、という現実を指摘している。
 これを見て、「え、そうなの?」と頭を傾げる人もいるだろう。それもそのはずで、京都は人口10万人あたりの大学数が国内1位である。本来は、年齢に関係なく大学に通える状況が望ましいが、現状はまだまだ若者の在籍率は高い。そう考えると、やはり京都は若者に優しい街なのでは、と思いたくなる。
 ここで重要になるのが、生活を”続ける”の部分だ。
 大学生活には限りがある。大半は、4(+α)年で終わる。卒業以降も、京都で生活を続けようと思えば、京都で就職するか進学するかを選択することになるわけだが、ここに一つ問題が生じてくる。

「京都市は人口が純流出を続ける最大の都市である。純流出は20代前半から30代にかけて続き、10歳未満も純流出が続くことは、就業機会に恵まれず、子育て世代にも良好な住環境を提供できていない何よりの証拠である。」
有賀健『京都 未完の産業都市のゆくえ』新潮選書、P262)

 いくら若者が京都で生活を続けたいと思っても、その基礎となる就労環境が整っていなければ、望みは実行できない。
 どれだけ京都の大学が、優れた人材を育てあげようと、彼らは就労機会を求めて、東京や大阪、または地元に流出していく。

 著者の有賀健も述べるように、京都はけっして魅力のない都市ではない。場所によっては、外国人の姿しか目につかないほど、国外から多くの観光客が訪れる街であり、修学旅行先の定番でもある。
 ただ、「生活を続ける場所」という観点から見ると、京都には多くの課題がある。観光地としての京都が放っている「優れた景観と歴史の積み重なりがもたらす魅力」(『京都』P263)を、どう生活者の側にも反映していくか。京都に住む一市民として、この点には注目していきたい。



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