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学名

クモ、トビハゼ、カタツムリ、化石種の動物、クラゲ

 以上の生物種の学名に、自身の名前が取り入れられているアーティストをご存知だろうか。
 フランク・ザッパ。アメリカの作曲家、ミュージシャンである。

 ザッパの作品群は、R&B調のポップな楽曲から、公聴会の音声記録をサンプリングした作品まで、ジャンルが多岐にわたる。そのバラエティさと彼の言動があいまって、奇人・変人と評されることも多い。惜しくも52歳の若さでこの世を去ってしまったが、今でも彼の「新作」は発表され続けている。
 私は時々友人から、ザッパのCDを借りる。サブスクに入っていない楽曲があるためだ。全作品を網羅することは一生できないだろうなと思いつつ、時間を作ってはザッパの作品群を拝聴している。

 冒頭にした学名の話だが、一つザッパらしいエピソードが残っている。
 クラゲの一種に「ピアレッラ・ザッパイ」という名を付けた、イタリアの海洋生物学者フェルディナンド・ボエロ。彼には一つの目論みがあった。それは、命名した事実をフランク・ザッパに伝えれば、運良く彼に会うチャンスを摑めるかもしれない、というものである。
 一般の(?)アーティストが相手であれば、この海洋生物学者の試みが失敗に終わるのは目に見えている。では、フランク・ザッパの場合はどうなるか。

「おそらくボエロ自身が驚いたことに、計画は成功した。彼がザッパに手紙を書いて命名の予定について知らせると、ザッパの妻ゲイルから夫の反応を知らせる返事が届いた。「私にちなんでクラゲが命名されるなら、こんなに光栄なことはない」。その手紙にはボエロをザッパの家に招く招待状が添えられていたーーその訪問以来、彼らは長きにわたる友情を結び、何度も互いを訪問することになった。ザッパは一九八八年にジェノヴァで行った最後のコンサートをボエロに捧げ、ボエロに関する歌を歌うことまでした。」
スティーブン・B・ハード著、上京恵訳『学名の秘密 生き物はどのように名付けられるか』原書房、P76)

 一度だけ対面して、「どうもありがとう」と感謝を述べるぐらいなら分かるが、ライブと楽曲を捧げるまでに親交が深まるとは。ボエロは期待以上の成果を、クラゲの命名によって獲得することになった。

 クラゲのピアレッラ・ザッパイ。勝手につけられた名前から、一つのドラマが生まれたことなど露知らず、今日も太平洋のどこかを泳いでいる。



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