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効率性

 先日、図書館から借りていた本を、一度も開かずに返却する、ということがあった。複数冊借りていたわけではなく、一冊だけである。
 こういうことは度々起こる。胸に迫ってくるものを感じて、結局、同タイトルの本を書店で購入することに決める。

 図書館ほど利用する公共施設はなく、ほとんど完璧に近いサービスを提供しているが、多くの人に開かれている分だけ、きちんと貸し出し期間は設けなくてはならない。それはあって当然のルールであるが、「自分の好きなタイミングで本を読みたい」と思っている我儘人間(私)からすると、どうしても不一致が出てくる。そうなれば「もう買ってしまおう」となる。こんなことをしていたら、部屋がいくらあっても足りない。

 例えば、映画やドラマが見放題のストリーミングサービスに加入しているとして、「自分の好きなタイミングで……」を実行しようとする。頻繁に見たいと思えば利用のしがいもあるが、もし「今週は見なくていいかな」が続いたらどうなるだろう。一作も見ることなく、ただサービスの料金を支払うことになる。その結果、どういう心持ちになるかというと、自分の見たいタイミングに関係なく、一作でも多く作品を視聴して"元を取ろう"となるだろう。
 もちろん、所詮月々○千円の世界だから気にしない、という人もいるだろうが、世の中それほど余裕のある人は少数派である。

「効率性とは、たいていの場合、自分以外のだれかの都合に合わせるためのものだ。学校の勉強についていくため、世間に遅れをとらないため、他人に迷惑をかけないため。自分のために効率性を求めていたつもりだったのに、じつはまわりの都合に急かされていただけだった、ということもある。」
田中真知『風をとおすレッスン 人と人のあいだ』創元社、P77)

 引いたのは、作家・田中真知の著書の中の一節。この文章では、「自分のペースを大切にする」とはどういうことかが、的確に言語化されている。
 キーワードは「効率性」。私たちが、できるだけ数をこなそう、てきぱき終わらせよう、と望むとき、それは他者からの要請によって、そう望むよう仕向けられていることが多い。
 「効率性」にとらわれず、自分のペースを大切にすることは、他者のためではなく、あくまで自分のために行動する自由を担保することにつながる。

 何事にも「効率」が叫ばれる昨今、その「効率」を追求するあまり、自身の生活から余裕と潤いが失われてしまうのだけは、避けたいものだ。



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