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大活字本

 皆さんは、「大活字本」をご存知だろうか。
 大活字本とは、通常よりも大きな文字や判型を用いて作られた本である。

 私がその存在を認識するようになったのは、大学一回生のころ。大学で知り合った京都出身の友人に、自宅(実家)に招待してもらったときのことだ。
 本好きの常として、家の中の本棚にはどうしても注目してしまう。密かにちらちらと盗み見るのも失礼なので、「本棚見てもいいかな」と断りをいれたが、それでも失礼だ。友人は、いいよ、と承諾してくれた。
 家族共有の本棚には、女性雑誌からコミックまで、様々なジャンルの本が並んでいた。数年経ち、細かい本のタイトルは忘れてしまったが、一つだけ、印象に残っているものがある。それが、冒頭にあげた「大活字本」であった。
 友人曰く、当初は視力が衰え、活字から離れがちになっていた祖父のために購入し始めたものだった。が、次第に「文字が大きいと、みんな読みやすいね」ということになり、家族で読む用に揃えるようになったという。
 私は「いい話だな」と純粋に感動しつつ、「どこかで目にしたことはあったかな」と自身の過去を振り返っていた。

「大活字本は、出版(市販)された書籍を指します。それに対して、図書館などでボランティアなどが手作りする拡大写本もあります。大活字本の出版が日本で始まるのは1970年代からですので、それ以前は手作りの拡大写本が読者のニーズに応えていました。もちろん、今でも拡大写本は作られています。」
野口武悟『読書バリアフリーの世界』三和書籍、P30)

 今では、こういう本も出版されている。本書では、「大活字本」の歴史や現状が解説されるとともに、実際に「大活字本」を刊行している出版社の情報まで紹介されている。

「普段、読み慣れていない子どもにとっては、文字もルビも大きく、字間や行間にもゆとりのある「大活字本」のほうが読書への抵抗感を和らげてくれるのかもしれません。子どもの読書推進にも、「大活字本」が寄与する可能性は大いにあると思います。」
野口武悟『読書バリアフリーの世界』三和書籍、P80)

 この指摘が確かなことは、私の友人が証明済みだ。
 私たちは読書のハードルを考えるとき、どうしてもその中身(文章の難易度)に注目しがちだが、文字や行間など、中身以外の部分に工夫が必要な場合もある。
 どんな感動的な物語があっても、その中に入っていくための玄関が整備されていなければ、選ばれた人しか楽しめないものになってしまう。これは非常に勿体ないことだ。

 毎日、呼吸するように読書に耽っていると、素朴に「本は万人に開かれている」と思いがちになる。ただ現実はそうではない。
 本のハードの部分がハードルとなって、読書から弾かれる人が少なくなるように、日々創意工夫に励む出版社や人がいる。そのことを頭に留めておきたい。



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