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秋風

 9月の初旬に読んだ一篇の詩を、10月の末になって思い出す。

「白刃を下げ
 ぬるりと
 背後から
 脇のあたりにしのびよる
 ゆるい衣に
 ふところ手をし
 ひたひたと素足で
 気ままに近づき
 ふいに
 金色の十文字に
 ぎらつく目は
 見据えたまま
 いきなり
 すっと
 ひとすじ切る
 しみとおる冷たさが
 さっと走りぬけ
 何ごともなかったように」
「秋風」『斎藤恵子詩集』思潮社、P18)

 数日前、晩ご飯に一人でお好み焼きを食べようと思い、ホットプレートを机上にセットして、諸々の支度を始めた。
 素と具材の準備ができ、あとは焼いて食べるだけ、という段になったとき、ある致命的なミスに気づく。
 お好み焼きソースがない。
 人類は同じ過ちを繰り返す。そんな極端な思いを抱えながら、急遽近くのコンビニにソースを買いに行くことになった。

 そこでまた一つ、ミスを犯す。
 日中の体感から予想して、薄着で外出したのは間違いだった。
 外出直後は大丈夫だろうと思えたが、移動している間に、じんわりと身体が冷えていく。

 そこで思い出されたのが、冒頭の詩である。
 あんな詩、読んだな。あの頃は"温かった"……。
 2ヶ月ほどで、"暑かった"は"温かった"に都合よく修正される。暑い日々が過ぎ去ることを、心から望んでいたというのに。
 背後から襲ってくる秋風に身を強ばらせつつ、私はささっとコンビニで買い物を済ませ、家路を急いだ。

 晩御飯には、お好み焼き三枚と、締めに海老ソース焼きそばを食す。買ってきたお好み焼きソースは大活躍し、身体には温かさが戻った。



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