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【エッセイ風】三連休、ちょっくら人生変えてきた

 絵を描くのがもう致命的に苦手だから、中学校のアクリルガッシュとおさらばして以来、また絵筆を執ることなんて、一生ないと思ってた。だけど、予定のない三連休にむっくり起き出して、「もし今日、絵画教室なんて言ってみたら、絵を描かないはずだったわたしの人生は、変わるのか」なんてぼんやり思ったのが、そもそもの始まり。
 絵画教室、と一口でいっても本気度はピンキリで、わたしが申し込んだのはこちらのArtbar Tokyoさん。グラス片手にキャンバスにお絵描きができる、肩ひじ張らない緩さと寛容さが決め手になった。よし、これだ。

 申し込みを終えて悦に入るわたし。だって考えてもみたら、わたしは「キャラじゃないから」「苦手だから」「大人になって、今さら」といって自分に課してきた、一生やらないだろうなんてきつめなアサンプションを、いま覆したわけだから。

  算数の確率問題を解くのに、「樹形図」ってあったよね。一つ目に振ったさいころの目が1だった場合…、その次のさいころの目が3だった場合…なんてどんどん分岐して、無数の「だったかもしれないパターン」を数え上げる考え方。樹形図の枝分かれは決して交わらず、合流もしない。だったかもしれない未来はお互いに交差することなく、確たる理由もなく選び取った平均台の一本を無意識に歩いていたところで、わたしは意図的に別のブランチに飛び移ったっていうことだ。名づけて、樹形図ホッピング

 絞り出したアクリル絵の具を少しずつ混ぜて、気に入るニュアンスカラーを作ってみる。グレーに少しだけ黄色を混ぜて壁の色にする。名画をお手本にして、インストラクターが手順やポイントをテンポよく示してくれる。難しいことは考えずに、筆を行き来させる。花やテーブルの形はごまかせても、人体はやっぱり歪む。身体をすこし撓ませて音楽に乗る姿を、わたしが描くと両膝を揃えて飛び下りる格好になってしまう。でも、ご愛嬌だよね。スナックをつまみ、ドリンクを傾けながらなおも色を混ぜる。
 他の参加者を見回すと、原画の色遣いに忠実な人もいれば、金色のインクを多用してきらびやかにアップグレードさせている人もいる。背景を大胆に黒塗りにした後で、ものの影を白で描きこんでゆく人も。
 最後に参加者とインストラクターで写真を撮る。ビニール袋に「さくひん」を入れてもらい、ぶら下げて家に帰る。どこに飾ろう、どこに仕舞おうと不思議に愉しみながらね。控えめに言って、人生が変わっちゃったのかもしれないと思った瞬間。

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