ヌーシャテル湖
サンドイッチ片手に男の顔を覗き込む女
女「ありがとうね。
いつも私のわがままに付き合ってくれて。」
男「いやいやそんな、僕の方こそ誘ってもらって嬉しいです。あの、これ、美味しいです。」
女「やだ、恥ずかしい。ありがと!
私さ、上京してまだそんな経ってないじゃん?
だから、友達もいなくて1人で寂しいんだ。」
男「……僕で良かったらいつでも相手しますよ。」
女「え!ほんとに!?じゃあ、また誘うね!」
笑顔で喜ぶ女。
脇の染みに気づくことなく
天真爛漫に話す女。
女「君ってさ、いつも寂しそうな目をしてるよね。」
男「そうですか?」
女「うん、なんかこう…スイスの湖に佇む小鳥さんのような目をしてる。」
男「……………わかんないです。」
女「スイスで1番大きな湖って何かわかる?」
男「さあ…」
女「ヌーシャテル湖」
男「はい?」
女「ヌーシャテル湖」
男「え?」
女「ヌーシャテル湖」
男「ヌーシャテル湖?」
女「そう!ヌーシャテル湖」
男「初めて聞きました。」
女「ヌーシャテル湖はね面積が218㎢もあるの。
東京の面積は2,194㎢だから、だいたい東京の10分の1くらいの大きさなの!」
男「へえ〜」
女「じゃあ、私行くね!」
男「え?どこにですか?」
女「ヌーシャテル湖」
男「え?なんでですか!?」
女「あなたを見てると、
なぜかそこに行かなくちゃ行けない気がしてきて」
男「どういうことですか?」
女「ヌーシャテル湖が私を呼んでいる。
ヌーシャテル湖が私を求めている。
ヌーシャテル湖が私を清らかにしてくれる。
ヌーシャテル湖が」
男「行かなくていいと思いますよ。」
女「ヌーシャテル湖はね面積が218㎢もあるの。
東京の面積は2,194㎢だから、だいたい東京の10分の1くらいの大きさなの!」
男「さっき聞きましたよ。
あと、10分の1ならそんな魅力感じないです。」
女「ヌーシャテル湖が私を呼んでいる。
ヌーシャテル湖のバクテリアが私を呼んでいる。
ヌーシャテル湖 ヌーシャテル湖
あなたと行きたい。ヌーシャテル湖」
男「行きたくないです。」
女「ヌーシャテル湖に会ってみたい。
ヌーシャテル湖なら期待に応えてくれる。
ヌーシャテル湖なら全てを解決してくれる。」
男「どうしちゃったんですか?」
女「ヌーシャテル湖がヌーシャテル湖である限り
ヌーシャテル湖に変わりない。」
男「そりゃそうでしょ。
あの、とにかくヌーシャテル湖には何もないと思うんで、行かなくて良いと思いますよ。」
女「ヌーシャテル湖の髪飾り。ヌーシャテル湖の色をした髪飾りを世の女性が求めている。」
男「なんですか、ヌーシャテル湖色って。
ただの水色でしょ。」
女「ヌーシャテル湖とヌーシャテル湖を囲む木々や生き物たちがヌーシャテル湖を信じる人々を幸せにする。」
男「溺れ死ね。」
女「取り止めもないヌーシャテル湖
行き場のないヌーシャテル湖
一貫性のないヌーシャテル湖
朝から晩までヌーシャテル湖」
男「とっとと行っちまえ。」
女「Good night ヌーシャテル湖」
今週もお疲れ様でした。
皆様おやすみなさい。
アダン。
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