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「カメラの向こうに大好きな家族とかがいることを想像して笑いかけてみたら?」

私は小さい頃からナマイキで、気が強く、ワガママ。更に気難しい子供だった。写真を撮るときには上手く笑うことができず、小学生の頃の写真を見るとへこむほどだ。
高校生になった私に、母は、「いつも笑っていなさい」と言った。
「あなたの表情は、いつも怒っているように見えるから良くないと思う。損するよ」
(そんな、いつも笑っていられるワケないじゃん?バカじゃないんだから楽しいことが無いのに笑わないよ。)と心の中でつぶやいた。

母はだいたいが思いこみと勝手な憶測で物を言うと思っていたので、私は母を理解しようという気持ちも失っていたのだと思う。

二十代になって、さすがに写真映りが悪いことに気が付いた私は、当時仲良くしていたモデルをやっている友人に相談した。
「写真撮るときってどうやって笑っているの?面白くないのに笑えない……」
モデ子ちゃんは「カメラの向こうに大好きな家族とかがいることを想像して笑いかけてみたら?」と教えてくれた。名言である。

以降、私の写真映りは劇的な変化を遂げた。大げさではなく、本当に別人のように撮られるようになった。今でもモデ子ちゃんには感謝している。

その後、仕事で接客をすることが増えて、お客様に必ず笑顔で応対をする必要が出てきた。ここでもモデ子ちゃんの言葉通りに笑顔を作ることになる。このころになると、私は鏡に向かって笑顔の練習をするくらいには大人になっていた。

鏡に向かって、口角をこのくらい(法令線が深くならないように)上げて、目を見開きすぎずに少し細める、という表情を何度繰り返しただろう。面白くなくても、楽しくなくても、疲れていても、悲しくても、怒っていても、本当はウンザリしていても、ウザイ上司にも、嫌いな人にも、好きな人にも、同じように笑顔を作ることができるようになっていた。

こんなに笑顔が役に立つとは思ってもみなかったが、私の評判はとても良かったらしい。というのは私の直属の上司が、いろいろなお客様から褒められて、それを教えてくれるからだ。もちろんこの上司のつまらないオヤジギャグにも笑顔で応えていたから、仕事内容の評価以前に好かれていたと思う。

一周回って、母は正しかった。と今にして思う。

若かったころの私の口元は、歯並びのせいで若干口角が下がり気味だった。更に奥二重の目元と相まってキツイ印象だったと思う。年を取るにしたがって、目元の脂肪が取れて二重になったこと、口元が長年のトレーニングで意識せずとも口角が上がったことで、今ではまったく違う印象の顔付きになっている。

いつも笑っていなさい。と言った母は今の私を見たら驚くだろうか。仕事イコール笑顔だった、まだのんびりしていた時代の話だ。