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復刻版「貴族の巣ごもり」 清八の「女性対男性」その5、その6

復刻版「貴族の巣ごもり」 清八の「女性対男性」その5

民宿「赤かぶ」の正面

 高山祭の話からプロモーションの話になりました。
「10月10日って、お休みなんでしょう?私もなんだけど‥」
 突然、女友達が言いだして、秋の高山祭に出かけることになったのです。
 普通なら宿は取れないし、仮にあったとしても、お祭り料金になっていたりして、無理なのです。ところが、高山から車で一時間の所に飛騨萩原という町があって、友達が民宿を経営しているのです。
「それじゃ、『赤かぶ』に泊まりましょうか」
「あの、清八さんのお友達の民宿でしょう」
「はい、民宿なんだけど、正式にはユース・ゲストハウスっていう施設なんです」
「何?それ‥」
「ユース・ホステルって、ありますね」
「はいっ」
「ユースってのは、お酒が飲めなかったり、消灯時間が早かったり、ミーティングがあったり、いろいろ制約があるから、アダルト向きではなくなってきているんです」
「そうネ」
「だから、ホステリング経験者がアダルトになって、結婚したり、子供ができたりしてからファミリーで宿泊、滞在できるようにつくられたそうです。ユースの兄貴分っていうところかな」
「この間、連れていってくれたじゃない。その時に思ったんだけど、ペンションや民宿とも違うし、料金は安いし、こうした宿が全国にできたら、素敵でしょうね」
「結局、この『赤かぶ』が日本で初めてで、二番目はできていないんだって‥」
「ふ~ん、残念ネ。ところで、お祭りって好きなの?」
「う~ん、参加する祭りと観る祭りがありますね。参加する祭りを観るのは好きじゃないけど、観る祭りを観るのは好きなんです」
「何か?おかしな言い方ネ」
「ごめん、それじゃわかりやすく言うと、『浜松祭り』‥」
「五月の凧揚げでしょう」
「はい、あれははっきり言って、参加する祭りですね。凧を揚げたり、山車を曳いたり、練ったりとか‥」
「そうネ‥」
「そうすると、それを観ているだけというのは、‥ちょっと‥。もっとも、祭りを口実に飲めや食えやをしたい人には、それでもいいんだろうけど‥」
「それじゃ、高山祭はいいの?」
「はいっ、高山祭というのは、観る、観せる祭りなんです。だから、単純に観にいけばいいんです」
「観るっていえば、最近プロモーションビデオって流行っているじゃない」
「えぇ、テレビでも流しているし、ビデオも販売されていますね」
「清八さんって観る機会が多いんでしょう。ああいうのって、どうなのかしら‥」
「僕はあまり好きではないですね。仕事として情報源にはなるけれど、プライベートには好きではないですね」
「どうして‥」
「制作者サイトのイメージでつくられた映像で、その曲のイメージが固定されてしまうじゃないですか。だから怖いと思うんです。特に日本人には‥」
「そうネ。『スリラー』がいい例ですものネ」
「もっと違う文化、音楽シーンを知るためだったら、多いに活用すべきだと思うんだけど‥」
「どんな名シーンでも二、三回観れば、あきちゃうわネ」
「そうですね。それに、その制作費がレコードやコンサート経費から出されているとしたら、ぞっとするんじゃないですか」
「まさに、スリラーね」
(1984年11月1日発行「サムスィングNo.8」掲載)

復刻版「貴族の巣ごもり」 清八の「女性対男性」その6

 トロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団の話から吉本新喜劇の話になりました。
「10月25日って、トロカデロ‥の日でしょう。仕事を都合つければ、何とかなるんだけど‥」
 と、女友達が言いだしたのです。
 以前、誘いをかけた時は断られたのに、今度は、彼女の方から誘ってきたようです。「トロカデロ‥」といえば、以前NHK教育テレビで見たのですが、真剣さがヒシヒシと伝わってきたのを思い出しました。こうして、浜松市民会館で生のステージを観ることができたのです。
「クラシック・バレエのファンには、こたえられないでしょうね」
 第一幕が終了した時の彼女の感想でした。実際、そのとおりだと思ったのです。
「でも、少しでもレッスンを受けたことのある人だったら、笑えないんじゃない」
「そうネ」
「あれだけの大きな体で、ジャンプして着地の音をさせないというのは、よほどレッスンをつんでいないと、できるものではないですね」
「ほんと、ほら、脚はスラーッとしてきれいだけど、足はたぶん30センチはあるんじゃない。それで、つま先立ちをしたり、スピンができるんだから、たいへんなことなんでしょうネ」
「だから、笑う以前にカルチャー・ショックを受けるんじゃないのかな」
「でも、一般的にマスコミは、そうは見てくれないんじゃない」
「はい、何しろ『オカマのバレエ』ですからね」
「ひどいわねェ」
「誰が芸術を評価していくのかを、冷静に考えてみてもらいたいんだけど‥」
「確かに、そうネ。実際に観ないで、批評を書いているようなものですもの‥」
「ところで、出演者の中に、男を出して踊っている人がいたんだけど‥。もちろんチュチュを着ていたけど、肩の落とし方とか、腕の位置とか、女性にならない人がいたでしょう」
「ええ‥」
「その人を見てたら、ふっと吉本新喜劇のイメージと重なってきたんです」
 吉本新喜劇というのは、大阪・京都の花月劇場をホームグラウンドにしている吉本興業の劇団で、体を使ったギャグを得意にしています。関西圏という地域性と、ドタバタ喜劇に対するマスコミの偏見により、正当な評価をされていないけれど、おそらく、現在では唯一の喜劇を観せてくれる劇団なのです。
「う~ん、清八さんの思ったこと、何となくわかるわ」
「日本の歌舞伎のように姿かたちから所作、声まですべて女にしたとしたら、このバレエはグロテスクになってしまって、笑って受け入れることは出来なかったと思うんです。ところが、ワキ毛とか胸毛とか、いかり肩とかを隠さないでしょ」
「えぇ、でもみっともないとは感じなかったから、そのとおりなんでしょうネ」
「吉本新喜劇でも、女形かが出てくるんだけど、声は男のままの地声であったり、外股で歩いたり、それでいて、女を感じさせてくれるんだから‥、女性の実態も、そうなんですか?」
「ちょっと、いったい誰の事を言っているの‥」
☆この号が発行される頃には、女友達がおばちゃんになって、実生活になっても「貴族の巣ごもり」ごっこを始めています。と、なると、来月号はどんな内容になっていくのかというと‥、別に変りません。おばちゃんは、永遠の女友達だと思っていますから‥。
(1984年12月1日発行「サムスィングNo.9」掲載)

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