コロナ

文庫本から顔を上げてマスクをしたままにおばさんは話しかけてしまう
デジタルな呼吸 
デジタルな画面を覗き込んでいる青年に目が悪くなるわよって

禁止されているのに

禁止されている 

だれかに 禁止されている
だれかに話しかけたかったことを今頃思いだす


黄色い嘴の鴨が二匹
彼らにだけは話しかけようかなと思う
どうせお互いに言葉は通じないから
そうしたらランニング中のお兄さん二人が話しかけてしまって

世界に 話しかけてしまって

心の距離が吹っ飛んでしまって


三才に満たないわたしが
母の腕の中に抱かれていたのも一つの伝えられた幻想
触れ合っていたのは 
夢だったのかもしれない
昨日は夢だったのかもしれない


わたしはだれかを殺しているのかもしれなくて
だれかに殺されているのかもしれなくて
あのキスの記憶は
救いにもならなくて
夢の小包にも入れられないから
声と一緒に燃やしてしまおう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?