夜とパプリカ

 やけに夜風が強いなと思えば戸を叩くのは神様であった。「間宮、大変だ」老人の如き霜髪と少年の如き瞳を持った彼の男は、いつもの通りの傲岸さでずけずけと室内に踏み込んでくる。下駄履きにアロハシャツ、前髪を結わえる般若のヘアピン。この傍迷惑な神様は、降臨する度奇天烈なお色直しで間宮の神経をすり減らす。端整な顔立ちはそれなりの格好をすればいかにも神様らしく見えそうだというのに、頭の中が三歳児なのだかららしくないのは仕方ない。
「なんですか」「おまえに貰った湯をかけて育てるカレーのことだが」「カレーヌードル」「大事に湯浴みをさせたらいとしくなったのだ。いとしくなったらたちまち成長してしまった。今ではもう器が小さい。どうしよう、愛らしい。わたしはこいつと家族になりたい」「のびてるんですよそれは」忌々しく口にするが三歳児の神様は首を傾げる。穏やかな夜がガラムマサラの匂いに包まれてしまうことに辟易して、間宮はまた、手後れ極まりないため息を吐いた。

2018/1/17

#夜とパプリカ #短文

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