「東京流れ者」感想 仁義は一方的だからこそ

侍春の舞台祭り第二弾。ってか、結局今野さん2024年春は春休みを大満喫でしたね。(ダンスの練習頑張ってるみたいです)
今作と同じ日に川﨑皇輝主演「町田くんの世界」を観劇予定で、マチソワ間で大急ぎで書いています。高学歴美男子ツアーズへようこそ!


見ていて感じたのは「仁義」は一方的なものであるということ。金貸しの吉井は倉田に恩義を感じていたが、倉田は色々な理由をつけて吉井に会わず、そのまま吉井は死んでしまった。田中は大塚を慕うが大塚は田中の恋人を殺したテツを自分の組に入れようとする。テツも佐世保で梅谷に殺されかけるのは倉田がテツを裏切っているようにテツからは見えている。どれだけ相手を慕っていてもその「仁義」が返ってくるとは限らず、なんなら裏切られることだってありえるが、それでも相手についていくといういうのが「仁義」であり、その道が間違っているとしても自分が決めた相手を信じ抜くのがヤクザの世界の美学なのだろう。最後のシーンで床に座り込む千春とケンの対比は、“仁義の有無”をかなり象徴的に描いていると思う。

私は普段義理も人情もない、一般企業の会社員をしているので、あまり共感できる価値観ではない。途中ビルを15億の小切手と交換する話も出ていたが、お金は受け取らずに「もう付きまとわない」という約束をしていた。普通に考えると15億は受け取るべきだ。そんな一般的な価値観ではありえない価値観に憧れがあるからヤクザという一般から隔離された文化が成り立つのだろう。VTuberに何万円もスパチャを飛ばすこと、何百万円をかけて美容整形をすること、片道何時間もかけて恋人に会うこと、休日にわざわざ教会に行くこと、程度の違いはあれど“一般的にはありえない価値観”というのを持っている人は多いだろう。仁義もそういった“ありえない価値観”の一つに過ぎない。

これは本題から大きくズレる上に野暮であることを承知で書くが、カタギで働くなら一度司法の手続きに従って刑事罰を受け贖罪するべきである。テツは作中で罪のない一般人(田中の恋人)を殺しているが、それに関して全く罪の意識を感じていなさそうで、その調子ではカタギになるなど無理だろうなと思った。これまで自分が犯してきた罪を見なかったことにして義理だけで不動産業を営むなど虫が良すぎる。梅谷も何年も佐世保でバーを開いていたが久しぶりに連絡を受けてかつての興奮を取り戻し拳銃を手にしている。描写がなかったのでわからないが、梅谷もおそらく刑事罰を受けていないだろう。これまで自分がしてきた罪と向き合わずに静かに暮らそうとするから、「ケンを殺せ」という連絡が「興奮する」という感情になるのだろう。本当にカタギに戻りたいなら警察に出頭すべきだ。反社会性力の再犯率を考えると懲役刑が贖罪になるかはわからないが、少なくともただ不動産を売るよりは自分の罪と向き合えるはずだ。

ふぉ〜ゆ〜福田悠太について。これはふぉ〜ゆ〜4人に言えることだが、舞台上でのアクションが「かっこいい」。うまいとか下手というより、かっこよく殴られ、かっこよく殴れる。彼らの経歴を考えると内部で殺陣舞台をやりまくっているキャリアが大きく作用しているのだろうと、時同じくして帝国劇場で人を切りまくっているはずの越岡・松崎に想いを馳せる。

本髙克樹は前作「ルーザーヴィル」以来だったが、今作はルーザーヴィルと比較するとケンの行動はずっと変で、テツを追いかけて東北まで行く意味も、最後に怪我をしてもテツに着いていく意味も「仁義があるから」以上の理由がない。そういう役の行動に理由がないものを演じるのが得意な人と苦手な人がいるが彼はどちらかというと苦手であるように感じる。甘えた声を出すことはルーザーヴィルでもあったが、ルーザーヴィルの方が説得力を持っていたのは、ケンとくらべてルーカスのほうが行動や感情の理由が明確だからだろう。ダンスを踊っている時は終始自信満々な表情だったのが印象的だった。

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今回の劇場はシアター1010。毎回書いている気がするが毎回「北千住ってどこやねん」と思っている。あと、ポスターがない。

私はよく請求書や領収書をなくすので、私がテツだったら速攻でビルの権利書を無くしている。どういう理屈なのかわからないが、紙ペラを奪うとビルも奪われるような描写は普通にめちゃくちゃ怖い。PDE化した方が良い。

再開発を理由に多くの人が亡くなる今作を見た後に北千住のロータリーに出ると「北千住ロータリー再開発のために失われた命が…」と考えてしまう。が、少なくとも現行法では再開発のための立ち退きは裁判所の指示で強制立退ができるらしい。強制立退はかわいそうだが、死ぬよりマシだろう。多分北千住ロータリー再開発で死んだ人はいない。

本当に暴力ではなく話し合いで解決してほしい。

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