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GOOD-善き人-感想 不必要な人間と必要な人間の間で

みたよ〜〜〜〜〜〜〜むじぃ〜〜〜〜〜〜〜〜でも頑張ったよ〜〜〜〜〜〜〜

以下、めっちゃネタバレです。

舞台は1933年、ヒトラーが台頭し始めたドイツ・フランクフルト。ドイツ文学者のジョン・ハルダー(佐藤隆太)は、さまざまな心境にあわせて脳内に音楽隊が現れて音楽を奏でていくという妄想をしており、妄想と現実の区別がつかないと唯一の親友でありユダヤ人の精神科医、モーリス(荻原聖人)に打ち明ける。モーリスもヒトラーの政策によりドイツ国内におけるユダヤ人の立場に不安を抱えながら愛するフランクフルトを去る決心が付けずにいたにいた。
ジョンの母親(那須佐代子)は認知症で目が見えず、病院で暮らしていたが、家に帰りたいとジョンにお願いする。しかしジョンの家庭には脳障害の影響で暖炉の前で本を読むことしかできない妻(野波麻帆)と子供がいた。
大学の教え子のアン(藤野涼子)がジョンに相談事を持ちかけた際、ジョンはアンを自宅に招き、2人の間に愛が芽生えていることを確認する。
妻の父の勧めでナチス党に出向くと、ジョンは母の介護で疲弊した際に執筆した安楽死についての小説やユダヤ人がドイツ文学について与えた影響に関する論文が党内で高く評価されていることを知り、ナチス党に入党。私生活では、妻と子供を置いてアンと共に家を出ることにする。
その後ナチス党の勢いはどんどん増していき、安楽死を進めるための障害者施設の監修を進めていたが、ついに国内のユダヤ人を拘束する作戦が決行される。拘束されたユダヤ人が収容されるアウシュビッツに向かうと、そこでは囚人がジョンを歓迎するためのシューベルトが演奏されていた。ジョンはこれまで起きていたことが妄想ではなく現実であると知り、立ち尽くす。

いきなり舞台美術の話になるが、舞台上には下1/4程度と人がちょうど入れる程度の切り抜きが複数、上部に小さめの切り抜きがされた白い壁に囲まれており、オケピなどは用意されておらず、音楽隊を含めた登場人物は主にその切り抜きから出たり入ったりしている。舞台上には白い長方形の箱がいくつも置かれており、全く舞台転換をせず物語が進行し、ラストシーンで壁が取り払われると瓦礫が姿を現すというもの。おそらくこれは舞台上で起きていることがジョンの頭の中で起きていることを表しているからだろう。足元だけが不自然に見える形状、時系列ではなく、出来事に関連する形でさまざまなエピソードが入り乱れる様子は“現実と妄想”の区別がついていない様子を表しているようだ。そう考えると、時々不自然に登場するセクシーなバニー姿の女性の存在や、ナチス党民と共にビールを楽しむ時に1人だけ暗い顔をしているのがユダヤ人のモーリスであること、後妻であるアンとの暮らしが始まってから元妻が後ろ姿しか出てこないこと、壁が取り払われまず倒れ込むのが共に安楽死施設を作っていた医者だったことなど、かなり細かいところに演出家の意図が込められているようで、舞台演劇としてかなり面白い見せ方をしていた。

ナチス党員としてのジョンの役割は、大学でフランスの本を燃やすこと、1人で生活ができない重度障害者を安楽死させること、そして最後にはユダヤ人を収容した施設を監修することだった。その施設でその後何が行われていたかは歴史の通り。作中で党員はユダヤ人の迫害について「ユダヤ人が富を独占しているから」というような説明がされていたが、それはあくまで北ゲルマン人(ドイツ人)の国を作ろうとしたナチス党の都合でしかない。重度障害者も、高齢者も、「彼らのために」として安楽死を計画させるが、それも“そうでない人”の都合だ。一部の人の利益・都合を無理やり社会全体の利益ということにして通すことがものすごいスピードでまかり通るまでの恐ろしさ、そして重大なことが起きるまで、親衛隊として仕事をしていたジョンでさえもどこか他人事として済ませていた愚かさが重く描かれていた。

ここまで全く書いていないが、今作には少年忍者の北川拓実が出演していた。彼は「Shakespeare's R&J」でも観ていたが、その時から変わらず印象的だったのは彼が持つ「威厳」だ。かなりキャリアのある役者の中で、ポンと投げ込まれた彼だが、フレッシュな若者ではなく、心の底からヒトラーを信じる1930年代の軍人としてしっかりとした存在感を放っていた。彼が演じていた役が何歳の設定なのかわからないが、現代の30代くらいの官僚の役を渡されても難なく演じられると思う。それほどに貫禄があった。

ここからは作品には直接関係ないことになるが、かつて日本には優生保護法という法律があった。その法をもとに障害者に本人の同意とは関係なく強制的に避妊手術を行うというもので、遺伝性のない障害を持つ人もその対象となる場合もあった。ナチスドイツでは今回の作品の通りユダヤ人を迫害する前に障害者を対象とした安楽死計画があったが、日本の優生保護法も大体同じ年代に成立し、1996年、今から約30年前にようやく改正された。この背景には自分にとって都合の悪いものを排除したいという“こちら側”の都合がっただろう。だが、いつまでも自分が“こちら側”であるとは限らない。そしてその排除の傾斜が急になるスピードは恐ろしく早い。1人を排除するということはいつか自分も排除されるはずだ。私が障害当事者ではない以上綺麗事になるかもしれないが、そう思うとどうしても優生思想に同意することができない。たった1人を切り捨てることは最終的に全員を切り捨てることになるだろう。誰もが、誰かにとって邪魔な存在になりうるのだから。

※参照

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上記の通り、私は優生思想について自分の考えがあるので、「そうは思わないな」「そう思うな」と考えながら観劇していたが、多分そうでない人もいるはずで、そういう人はこの作品を見てどう思うんだろうとおもったりした。思想がない人は見るのが難しい気がする。どうでした?(問いかけ)

今回の劇場は世田谷パブリックシアター。都内で私が一番好きな劇場です。上演作品によって客席の傾斜を変えることができて(!?)、ステージ自体もパターンを変化することができる。エヴァンゲリヲンみたいな劇場だなと思う。まぁ同じような作品ばっかりみてるから多分ずっと同じような傾斜しか経験してないと思うけど。舞台にたいして客席が並行ではなく半円形をとっているので、入る席によって見方もかなり違うと思う。内装もおしゃれで本当に好き。本当に本当に本当に自担に立ってほしい劇場ランキング1位。今野大輝さんは早く大人気者になって、京本大我さんはもう少し落ち着いてください。

上演時間が3時間あって、話も時系列順じゃないし内容も重いので精神的にも肉体的にも疲弊する。疲れる舞台、最高!

前妻がはじめてアンと対峙するシーン、絶対妻はアンがジョンのこと好きな事に気づいてたと思う。なんかああいうのって気づくよね…

この文章を書くまで気づかなかったけどアンの役をやってた人は映画「ソロモンの偽証」に出てた子だ。初めて出た映画の役の名前を芸名にしたらしい。っていうかあれ板垣瑞生くん出てたな…

次は町田くんの世界と東京流れ者の予定。どっちもたのしみ!

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