関節の話

関節は骨と骨とを繋ぐ組織で、各関節にはその関節固有の構造や動きがあります。
柔整の業界では、この関節を構成する組織の損傷を『捻挫』と呼んでいます。
関節は上下2つ以上の骨と関節を包む関節包、関節包が肥厚した靱帯によって構成され両骨の端は関節軟骨で覆われています。関節によっては関節腔を二分する関節円板や関節半月を持ち、また関節窩(関節の受け皿にっている方)に関節唇を持っていたりもします。

関節包は外側が線維膜といって靱帯と同様の組織で覆われ、内側には滑膜という膜が存在します。滑膜は滑液という液体を分泌し関節腔は滑液で満たされています。この滑液が多くなるといわゆる水がたまった状態で、関節には常に存在するものです。滑液は滑る液と書かれるように、関節の潤滑の役目を持っています。そして関節軟骨の栄養成分でもあります。
関節軟骨は硝子軟骨という軟骨で構成され、ガラスのように滑らかな表面をしています。滑らかな軟骨と潤滑油で動かしやすい様に構成されます。しかし、軟骨の表面を拡大して見ると、実は細かい穴があり、デコボコとしているのです。このデコボコに滑液が満たされることによって摩擦係数が減少し滑らかさを生み出しています。そしてこのデコボコ、実はとても重要で、関節軟骨は血流がとても乏しく、骨部からの栄養供給は僅かです。なので、滑液から栄養を供給しています。関節軟骨のデコボコは軟骨内部ではスポンジのような状態で、関節に圧が加わることによって押し出されます。そして圧が抜けると関節の陰圧によって関節軟骨内へと浸潤し軟骨への栄養供給を行うとともに、滑液の対流、循環を行います。
膝に水がたまった人の水を抜いた際に滑液が黄色く濁っている人がいますが、こういった方は滑液の循環が乏しい状態なのだと思います(偽痛風等の疾患を持っていない人の場合です)。滑液は滑膜より分泌され滑膜は関節運動などの刺激により促されます。この様に関節は適度な運動と加減圧によって栄養状態は保たれています。また、滑液は温度と運動の質により粘度が変わり、暖かいと滑らかになり冷えると粘度が高くなり、強い力のかかった関節運動時にも粘度が高くなり、力のかからない早い動きで滑らかになります。
このことからも、『運動の話』で触れた様に関節運動は弱い力で行っていただきたいのです。

関節に水がたまる状態とは、この滑液の貯留量が増えた状態ですが、原因として考えられるのが、関節自体への外力と軟骨同士の接触です。血種と言って血が溜まっている状態はまた別ですが、関節への何らかの外力が加わる時、ぶつけたとか少し捻ったとかでする。また、その関節を可動させる周囲の筋の影響により関節アライメントの不均衡が生じると関節同士が接触してしまう事があり、滑液が足りないのではないかと関節が誤作動を起こしたように分泌が促されます。

滑液の貯留は膝関節に多く見られ、その多くは中間広筋の過度の緊張により引き起こされます。中間広筋が過度に緊張を起こすと膝蓋骨により膝蓋上包という関節腔と繋がった袋をり圧迫してしまいます。膝蓋骨は関節への筋の嵌入を防ぐ目的があり、圧迫が強くなると防護反応として滑液が分泌されます。
水腫の改善を目的として先程述べたように関節内の還流を狙って運動を取り入れることもあります。ですが、貯留量によっては運動が不能な場合もあり、万全な方法ではありません。また水腫を形成し易い人には膝関節の変形を持っている場合も多く、変形を持っている方は安易な運動は症状の悪化も起こり得ますので、専門家の指示の元で運動を行ってください。

『水は抜くと癖になる』なんていう事を聞いた方もいらっしゃるかと思います。これは間違っいる!とも言いにくいのですが、厳密に言えば癖にはなりません。強いていえば原因の排除が出来ていないのです。原因とは前述した様な関節周辺の環境が変わっていないという事です。筋肉のアンバランスの改善や平常時の関節の使用方法など様々な方法がありますが、また前述の通り、関節の変形を伴っている際には環境の改善はより難しくなります。しかし、関節の変形に伴う症状も適切な運動を継続すればいずれ良い結果を得られる事がありますので、あきらめずに頑張ってください。(注:変形した関節が元に戻ることはありません)
外傷に伴う水腫形成の際に、水を抜きたくないと申し出を受けることもありますし、私自身は医師免許を持たないので水腫に対し穿刺することはできませんので、テーピングや圧迫をかけ改善を目指すのですが、ごく稀に疼痛が激甚となり、圧迫等では対応できない際には転医を勧めることもあります。水腫の貯留量が増えすぎるとこのようなことになりますので、その際には我慢せず抜いてもらってください。癖になるなんて言葉に惑わされてはいけません。ただ、可能であれば抜いた後に圧迫を掛けてあげられるとより良いんですけどね。

関節のアライメントの不均衡といいましたが『関節がズレる』とイメージされるかと思います。ズレるとは似て非なる状態ではないかと考えています。
関節というのは通常陰圧で保たれています。壁に貼り付ける吸盤を思い出してください。あの様に吸着した状態を陰圧といいます。筋力のアンバランスで関節運動が正常に行われなかったり、軽く捻ってしまった後に痛みが出てしまった状態の時にこの不均衡な状態になることがあります。
我々の業界の一部ではこの状態を『歪み』と表現しています。
この歪み状態では関節の動きに制限がみられたり、荷重関節では痛みの為に荷重困難になったりします。この歪みは1mm程度の歪みでも起こり、たった1mmといっても関節にとっては大きな歪みであり、角度として捉えると、より大きな捻じれが生じています。関節には自律神経も入り込んでおり、関節の位置覚に狂いが生じ違和感から疼痛や時に吐き気を催すこともみられます。
この時、我々柔道整復師の一部では歪みを解消するために関節を整復します。整復方法も関節によって異なり、また関節の状態によっても方法が異なります。これは柔道整復師独自の技術であり、現在ではほんの一部の柔道整復師しか出来ない技術になってきてしまいました。
せっかくの独自の技術も医学的エビデンスを取ることもせず、また理論展開をしてこなかった為、養成学校の教科書にも載っていません。教科書を編纂する際に整復をする先生としない先生と意見の相違やエビデンスがない事など、一見つまらない理由で理論化できなかったのです。こういったところからも柔道整復師の衰退は始まり、現在の情けない体たらくぶりにつながっていきます。
歪みを整復することに賛否あるのは良いと思いますが、方法の一つとして技術継承は為されなければなりません。しかし、未だに口伝レベルの継承しかなされず、修行・研修をしない柔道整復師には都市伝説レベルになりつつあるのかもしれません。

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