HIFUの話

HIFUによる事故が多発しているようで、とうとう使用できる人が医師などに限定されるべきと言われるようになりました。
HIFUはちょっと前までキャビテーションなんて呼ばれていたのですが、いつの間にかHIFUになってました。
そもそもHIFUやキャビテーションというのは超音波なのですが、医療用機器とはちょっと異なる設定なのです。
先ずは医療用の超音波について話しましょう。

超音波とは、人間の可聴領域以上の音の事で、高い周波数の音を指します。
高い音はそれだけ振動が多いということになり、医療用機器の超音波は1MHzと3MHzが主に使われています。1MHzは1秒間に100万回の振動があり、3MHzは300万回の振動で、人体に照射すると1MHzだと大体7cm位の深さまで到達し、3MHzだと2.5cmから4cm位になります。この特性から治療ポイントを見極めて使い分けるのが超音波の使い方になります。最近の機器では0.7Hzなんてものも出てきて、約10cmの深部を狙えます。
HIFUでは周波数の表記があまり見られず、この深度だけが表記されていて、曖昧なものが多いですね。
超音波治療の目的は深部加温と振動によるマイクロマッサージ効果と言われています。超音波は先に述べたように目的深度が周波数に依存され、通常の温熱療法では届かない部位を温める事が出来ます。
物理療法で得られる温熱は殆どがジュール熱と呼ばれ、体内に入った電気や振動が抵抗により熱に転換されるという原理によって熱産生を起こします。
マイクロマッサージとは超音波振動によって各組織が微弱な振動を起こす事によって得られ、筋スパズムの改善や靭帯などの組織回復を促します。

超音波は肌に接触する部分の『導子』部から音の振動が100万回/秒出ています。この音の振動を体内に照射すると各器官の中で共鳴しながら次第に吸収されていくのですが、その殆どが骨に吸収され、骨を通過する事は出来ません。この特性を活かしたのがエコーによる検査機器になります。骨が折れていたらその折れた隙間に超音波が入り込んでいくので骨折独特の画像が見られます。
ここで重要なのが『骨に殆ど吸収されてしまう』という事。
骨は刺激を受けた方向に添加されていく特徴があり、これを応用した骨融合促進機器に超音波が使われています。この超音波は通常の超音波機器よりとても弱い出力で照射し、骨への悪影響を最小にしています。
悪影響と言いましたが、通常の超音波機器を間違って使用すると悪影響が出るという事なんです。
超音波の出力方法には100%の出力を出す連続波と断続的に出力するパルス波とに分かれています。昔の超音波は連続波しかなく、機器の質も今ほど優れていなかった為に事故が多かったそうです。
事故とは深部での火傷や組織破壊というとても大変な事故でした。
超音波は導子から照射される際に全てが均一に照射される訳ではなくまばらに照射されています。このまばらな状態から更にとび抜けて出力されてしまう現象をホットスポットといい、このホットスポットが一点に集中し深部火傷などを惹き起こしてしまうのです。
ホットスポットは機器の質の悪さもあるのですが、導子の傷や異物等により惹き起こされることもあるので、導子の保護は超音波を扱う人にとっては最重要事項になります。
現在の超音波はこの事故に対してとても研究され、照射される超音波はより均一的に出力され安全に使用できる様に改良されています。
しかし、導子を乱暴に扱ったりすると現在の機器でも事故は起こり得るので注意して下さい。

また、超音波は連続波で固定して照射すると『音波痛』という独特の痛みが出現します。施術者によってはこの音波痛を敢えて感じるまで照射する者がいますが、方法としてお勧めはしません。個人的には禁忌だと考えています。医療用の超音波で一瞬だけ音波痛が出る位であればさほど害はないかもしれません。しかし、同じ部位に何度も行うと骨の添加と吸収のバランスが崩れ、過剰に化骨が形成されてしまったり、過去には骨内に空洞が出来てしまった。なんて話を聞いたこともあります。真偽はなんとも言えないのですが、骨に与える影響を考えると連続波で固定照射は禁忌とすべきだと思われます。

HIFUは本来医療機器として扱われなければなりません。というのは、HIFUは意図的にホットスポットを作り、高い出力で目的部位に熱を与えるものであり、危険性を熟知している施術者からすれば恐ろしい機器なのです。
また、日本のメジャーな医療機器メーカーからは殆ど販売されておらず、日本で使用されている機器は韓国製が多いのです。韓国製が悪いというわけではありません。これは輸入している業者が悪いといった方が正しいかもしれません。
エステ業界で使用される機器は医療用の規格では使用できません。医療用の機器は医師か国家資格を保有する施術者しか扱えないのです。もう少し加えると、エステ業界での電気・光線・温熱等の使用は本来禁止されています。
エステ機器を販売している業者は医療機器でなければ使用しても良いという解釈の元、医療機器ではない機器を販売しています。韓国製の機器は日本の医療機器の規格より出力が高いものも多く、本来医療機器として流通するべき機器も敢えて規格を通さず販売しているケースがあるからです。
その業者たちはメジャーなメーカーのように、過去の積み重ねもなく、危険性も理解していない者も多い為、販売時に注意喚起すらしていないのではと邪推してしまいます。
信頼のあるメーカーの営業達に禁忌等の質問を投げかけると、必ずしっかりと説明してくれますが、粗悪な業界では「えー、そうなんですか」と本当に言います。人体に用いられる電気・光線・振動・温熱等はその殆どが何かしらの危険の可能性を持っています。
過去にラジオ波という機器が日本で流通し始めた頃、メーカー主催の説明会が開かれ参加したことがありました。講師には理学療法士の先生がその機器の素晴らしさをいくつも紹介していました。ラジオ波とは昔は超短波という機器で流通し、とても治療効果の高い機器でしたが、単なる温熱療法と混同されあまり売れなかったのです。そこで名前と使い方を変えて売り出されたのです。しかし、超短波等の高周波は使い方によってはとても危険です。講師の先生は効果ばかり説明し、ただの一度もリスクについての説明はありませんでした。高周波は効果より先にリスクを説明しなければならない程、簡単に事故が起こります。少し腹を立ててしまった私はリスクについて幾つか質問すると先生は固まったまま何も答えてはくれませんでした。その後、メーカーの責任者が代わりに説明をし始め、質疑後に私の元に走ってきて、「失礼しました」と話しかけてきたので、リスクが先でしょ。と話したこともありましたが、講師の方は私に近づいてくる事はありませんでした。多分リスクについては何も知らなかったのでしょう。
このように施術者側がどれだけ理解しているかは被施術者側には解りません。利用したいけど心配な方は先ず、リスクについて説明を受けてみてください。100%安全ですと言われたら止めましょう。あり得ませんので。

エステ等ではリフトアップを謳っている事が多いのですが、リフトアップねぇ。
あれって殆どが顔の浮腫み取っているだけなんですよ。小顔やリフトアップは浮腫みの解消くらいに考えていた方がいいと思います。確かに超音波を照射すると筋肉の状態に変化は見込めます。電気刺激で筋肉を動かしたり緩めたりも可能です。また顔の筋肉は骨から皮膚に停止しているものがあるので、軽度の刺激は決して悪いとは思いませんし、それなりの効果も認めます。ただ、ここで言いたいのはHIFUである必要性を感じないという事です。通常の超音波機器でも表情筋への影響は起こります。むしろHIFUより良い効果を得られるのではないかと思います。しかし、顔面部への施術は色々な危険性が多いので最低限の専門知識を持っている事が重要であり、誰もが行えるものではありません。
特に眼の周りき禁忌とすべきだと思われ、また皮膚と骨の距離が近い為、出力設定を最低レベルとし、絶対に固定で照射しないという事を理解しなければ顔面部への照射は止めるべきです。

以前エステ機を取り扱っているメーカーから相談を受けました。セルフエステが流行っているのでうちでも始めたい。HIFUや高周波を設置したい。と言われ、危険なので絶対に止めるべきと言った経緯があります。それから1年足らずで事故が多発しているといった報道がなされ、彼らはホッとしている事でしょう。恐らく事故1件でその会社は倒産するくらいの賠償を負う事となるでしょうし、被害にあった方は最悪一生その事故による障害は回復しないかもしれません。セルフエステは危険です。安易に手を出さないことをお勧めします。

今回の件でHIFUは医師のみという事になるかもしれません。しかし、医師や国家資格保有施術者でさえも超音波を正しく理解しているかは解りません。
医師のみという枠組みでなく、医師でも研修なりを行って資格制度にする方がより安全だと思われます。
残念なことに物理療法機器の使用や原理、リスクについての講習や講義は殆どありません。柔道整復師の養成学校ですらカリキュラムに組まれていません。つまり殆どの施術者は就業後に使い方を教わる程度です。
私が養成学校で講師をしていた頃に、臨床実習の際に敢えて座学の形式で物理療法の講義を行いました。しかし、学校サイドはこの講義の意味等は理解せず、ただ時間を消化している程度にしか受け取られなかったので私もその講義を辞めてしまいました。しかし、やはりこういった講義は何かしらの形で行われるべきで、メーカーと養成校等でカリキュラムを作るべきだと考えます。
物理療法黎明期には柔道整復師達が研鑽し、研究会・分科会等を開いてこの業界の発展に大きく貢献しました。しかし、昨今の柔道整復師達はコストに対する費用対効果から導入件数が減り、機器メーカーも柔道整復師達を客として見なくなってきています。
いっその事、HIFUに限らず、物理療法機器の使用は国家資格保有者達で研修終了した有資格者のみが扱えるくらいの規制は必要なのかもしれないですね。

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