小説 神々の星〜夢限転生〜❷戻らぬもの 得たもの
あれから何度も会いたいと願ったと同時に恐れ自らを責め立てていた。
他者を愛する事がこんなにも恐ろしいとは知らなかった。
愛とは素晴らしく生きる意味を与えてくれるものだと思い込んでいた。
わたしは愛の恐ろしさに気付かず、愚かなことにただ無邪気に求めていた。
これがわたしの愚かさの報いだと言うのか。
「....落ち着いたかい?」
アルモニア様がわたしの頭を優しく撫でながら声をかけ気遣ってくださる。
転生後でまだ意識も体調も万全ではないハズなのに、突然寝床に乗り込み抱きついたわたしを受け容れてくださる。
誰にも渡したくはない。
大事にしたいと思う反面誰よりも親しくしたい。こんなに矛盾した強い感情を抱かせる存在は彼1人だけだ。
わたしが誰よりも会いたいと願っていたのだから。
アルモニア様の態度や口調が変化したのを感じる。記憶は戻らずとも感覚は多少は戻ったのだろうか。
「はい。少しは....」
大人気なく思いっきり泣いたせいで喉が痛い。
「そうか。それならよかった」
暫くずっとこうしていたい。アルモニア様に包み込まれ、彼の息遣い、彼の存在を感じていたい。
わたしはアルモニア様に何を求めているのだろうか。
指導者、父親、先輩、友人、そして...恋人。
以前は恋人以外の緊密で親しい関係にはなる事は出来た。今回はどうだろうか。
わたしはアルモニア様に複数の大事な存在を重ね合わせ求めてしまっているから、非常に強い気持ちになっている。
自分でも制御が難しいほどに。
「......」
小1時間くらい経過しただろうか。わたしも落ち着いてきた。
今のわたしは以前の幼かったわたしとは違う。
並の男はわたしを見て魅了されないことはそうそうない。
いや、男どもだけではない。女も...雌雄同体もだ。無性どもは知らないが...
わたしに気に入られようと努力するし、わたしの香りを嗅ぎ、わたしの身体に触れたいと多くの人が望むのをいつも感じる。
わたしは魅力のある存在だと自負しても良いだろう。控えめに言って、だ。
見た目の華やかさだけでなく、手堅い実力も養ってきた。
今度会えたら恋人として自分のものにしてしまおう。
そう思っていた。
だからこそ悔しい。
アルモニア様がわたしに触れる事で伝わってくるのはわたしへの優しさ...慈しみであって、男女の情念ではなかった。
折角呪術式魅了衣装を身に纏ってきたのに...
当たり前だがアルモニア様にこんな小細工は通用しないか...するハズもなかったのだ。
残念だけれどこれで良かったのかもしれない。
わたしはアルモニア様が頼ってくださった時に完全に応えれる自信はない。
「少し...良いかい?
色々教えて貰わなきゃいけない事があるんだ。
無理なら断ってくれて構わない。
俺はこの世界...ここの人々を夢だと思い込んでいた...いや夢でもあるのだけれど、完全に夢だと斬り捨てることもできないとも感じた。
色々と知る必要がある。
まず、君の名前を教えて欲しいんだ。
ごめんね。君の存在自体は確かに昔知っていたハズなのに名前は思い出せないんだ」
アルモニア様のせいではないのに...
「...分かりました。
わたしの名前はライラ・バールと申します。ライラとお呼びください。
少し長いですがお話します。
アルモニア様はある意味では夢の中にいらっしゃいます。
別の世界....アルモニア様にとっては元の世界ですね。
そこで意識を失ったり、夢を見ている際にアルモニア様はこちらの世界へ訪れているのです。
自然と訪れる事もありますが、意図してそちら側からこちらへ来る方法もありますし、こちら側がそちら側を召喚する方法もあります。
今回はこちら側からアルモニア様をお呼びしました。
なので、人違いはあり得ないのです。指定した上でほぼ確実にその存在が現れる方法を用いたのですから。
別の世界での一晩の夢がこちらの世界では50年であったりして、時間の長さは等しくはありません。流石に一晩で別の命を得る事はないみたいですが...
そして....こちらの世界で命を失っても元の世界では命は失われません。ただ...記憶が消えて、それまで過ごしたこちらの世界での肉体が消滅するのです」
アルモニア様がわたしを撫でる手が一瞬止まり、また動き出す。
「意識を失っていたり、夢を見ている場合に必ずこちらの世界へ訪れるわけではありませんし、こちらの世界の内部で夢を見ることもありますが、こちらの世界で夢を見てもこちらの世界の存在がアルモニア様の世界に行くことはまずあり得ません。
元の世界の記憶とこちらの世界の記憶は僅かに繋がっています。
アルモニア様以外にもこちらの世界へ訪れる方は複数確認されております。
アルモニア様の元の世界でも、経験していないハズなのにまるで経験して知り尽くしているかの如き熟練さを未経験者や子供が発揮する事があったかもしれませんが、それはこちらの世界での成長が元の世界のその方に反映された結果でもあります」
「....なるほどね。失った記憶と肉体は戻らない...
ただ、感覚は再現されたりするのかい?」
「はい...こちらの世界での影響は元の世界のアルモニア様に残りますから、記憶が消えても全てが失われるわけではなく、感覚は残っていたりするそうですね」
「そうか...
教えてくれて有り難う。」
「いえ.....」
「あと言っておくけれど、以前の俺が君の為に命を落としたのは仕方なかった事...だと思うんだ。
多分その時は最後の敵の攻撃の後遺症で先は長くなかったし、俺が消えても組織は機能するし、後任はしっかり育て上げていた...そんな感じがするんだ。
それにライラ、君自身がこうして立派に育ってくれた。
むしろ正しかった事だったんだよ。起こるべくして起きた事だったんだ。
少し取り戻した俺の感覚は君への怒りも怨みもなく、君を含めた皆への感謝と無事を祈るものだけだった」
「.......!!!!!」
「もう、自分を責めないでほしいんだ」
「...気づいていたんですね」
「うん、なんとなく見当はついてたんだけど、皆や君の態度を観察して、その上で話を聞くとどうやらこんなところかなってさ。
皆喜んでくれている気持ちが主だったけれど、どこか哀しそうでもあったからね。
ライラには哀しみと罪悪感を強く感じたよ。
これは単純な再会の催しではないなとは思ったんだ。
多分2度と戻らない何かを哀しんでいるんだろうってね」
落ち着いたハズの感情が込み上げてくる。涙が溢れ前が見えない。
顔が熱い。
「ごめッ....ごめんなさい。アルモニア様...!
あだっあだし...!1番大事な相手を!」
「もう!!!!!良いんだってば!ライラ!
良いんだってば...これから得るものもあるんだからさ....
俺も多分だけど人にたくさん迷惑かけてきたし...この世界で手を汚す部分もあっただろうし」
アルモニア様がタオルを持ってきてわたしの顔を拭いてくださっている。
申し訳ないし恥ずかしいけれど嬉しい。
そして今更気付いた。アルモニア様の胸元がわたしの涙と鼻水で大部分が非常に汚れていることに。
続
前回&初回 初めての再会
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