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Web3とロイヤリティ:化粧品大手ロレアルが手掛ける世界初のビューティークリエイターDAO

スターバックスやナイキに続き、今回は化粧品大手ロレアル社の取り組みをご紹介します。化粧をしない人には馴染みが薄いかもしれませんが、同社は化粧品業界では世界シェアNo.1を誇り、デジタル投資にも積極的なことで有名な企業です。

主要企業の売上(単位:10億ドル、ロレアル社HPより)

2021年時点で売上の3割近くをECなどのデジタル領域が占めており、ビューティテックへの投資にも意欲的。昨年10月にはViva Technologyというヨーロッパのカンファレンスにて、”On-Chain Beauty”というコンセプトで、Web3を活用して、ユニークなビューティー体験を提供することでコミュニティとのつながりや関与を深めること発表しています。

今回は、そのOn-Chain Beautyの中で取り上げられている取り組みの1つ、GORJS DAOについて、このDAOを通じてどのような未来を実現しようとしているのか、ここから本格始動という段階ですが、現時点で明らかにされている取り組みを紹介していきたいと思います。

GORJS DAOとは何か?

まずはじめに、何を目指して設立したのか、その概要を掘り下げていきます。ロレアルはこのDAOを「ビューティークリエイターDAO」と表現しており、その目的を次のように説明しています。

”Web3クリエイター、3Dアーティスト、ビューティーメイカーをコミュニティに招き、デジタルビューティーの未来を創造することを目指す”

”メタバースにおける3Dアーティストコミュニティとその進化したメイクアップアプローチの発展を促進することに焦点を当てた世界初のDAO”

”GORJSは、メタバースにおける美のあり方を再定義し、多様性、包括性、アクセシビリティという価値に関連する文化的な会話をリードすることに貢献する”

ナイキが掲げた「スポーツの未来をデザインし、所有する」というコンセプトと、ロレアルが掲げた「デジタルビューティーの未来を創造する」という考えの間には共通する部分も多いのではないでしょうか。

両社ともに、これからデジタル・バーチャル空間がより一層生活に浸透していく中で、自分たちのブランドをどのように位置付けるのか、そうした次の時代へのイノベーションの探究として、クリエイターやアーティストなどにも焦点を当てて取り組んでいることが伺えます。

次にこのDAOに関わる人々を見てみましょう。

立ち上げメンバーと初期の参画クリエイター、アドバイザー

このDAOは、ロレアルグループの、L'Oreal USA, Inc.が手掛ける「NYX Professional Makeup」ブランドが立ち上げたものです。そのため、初期メンバーとしてはこのNYXブランドのメンバーが名を連ねています。

  • Yann Joffredo (Global Brand President of NYX Cosmetics)

  • Matthieu Guerin (VP of Global Digital & E-commerce at NYX Professional Makeup)

  • 他にも3名ほどのNYX Professionalの幹部が含まれているとされます

そして、そのNYXメンバーが選定した初期の参画クリエイターは、インスタグラムで数万人以上のフォロワーを抱える3D, デジタルアーティストが中心となり、総勢9名以上となっています。このメンバーは”TEAM ALPHA”と名付けられています(ネーミングがなんだか左利きのエレンを彷彿とさせるのは私だけでしょうか)

GORJS DAO HPより

また、このDAOはアドバイザリーボードを設置しており、そのメンバーにはThe Sandboxの共同創業者Sebastien Borget、Ready Player Meの創業者Timmu Toke、Polygon LabsのBrian Trunzo(Metaverse Lead )、クリエイティブエージェンシーInvisible NorthのCEO Amber Wardなどが名を連ねています。スタバやナイキに続き、ここでもPolygon Labsが出てきますね。

ここから、これまでの取り組みとロードマップを見てみます。

GORJS DAOのロードマップ

実はまだDAOは正式には立ち上がっておらず、今まさにここから始まる、そういったタイミングにあります。公式HPで紹介されている情報をもとに、時系列で過去・現在・未来を見ていきたいと思います。

  • 2022年

    • 6月:GORJS DAOの立ち上げを発表

    • 10月:Viva Technologyカンファレンスで続報を発表

  • 2023年

    • 1月:Discordローンチ、クリエイターの採用とオンボーディングを開始

    • 2月:FKWME PASSのドロップ(詳細は後述します)

      • 1,000個限定で販売され、既に完売

    • 4月以降の予定:

      • GORJS GENESIS(TEAM ALPHAが手掛ける最初のNFTコレクション)のドロップ

      • Creator DAOのローンチ(ここでDAOがスタートする見込み)

      • 提案システム開発(トークンに基づく投票やエアドロップ、アローリスト、NFTプロジェクト立ち上げのメカニズム開発など)

      • DAOのさらなる拡張

上記の通り、本記事の執筆時点は、まだFKWME NFTのドロップが完了した段階で、これから正式なDAOの立ち上げやNFTコレクションの発表が行われていく予定です。

今後、どのようなアーティストが増えていくのか、また、より幅広いクリエイターやファンにも門戸を開くような取り組みになるのか気になりますね。

最後に、このDAOでのトークン設計の紹介です。

DAOのガバナンスとトークン設計

このDAOには2つのトークンが存在します。1つ目は上述のFKWME PASSと呼ばれるNFT、もう一つはDAOのガバナンストークンとなるGORJSトークンです。

余談:FKWMEは「F*ck With Me」の略で、HP上では、自分と同じビジョンを他の人にも共有して欲しい時に使うカジュアルな言葉、として紹介されています。

さて、それぞれのトークンはどうやって手に入るのでしょうか。またどのようなユーティリティがあるのでしょうか。

GORJS DAOの公式ページによると、FKWME PASSを保有していることで、GORJSトークンと、アーティストが発行するNFTコレクションのエアドロップが得られるようです。

GORJSトークンは、通常、1日あたり4トークン獲得することができます。このトークンはステーキングすることも可能で、ステーキングした場合は、通常の2.5倍となる10のGORJSトークンが得られます。

GORJS DAO公式HPより

また、FKWME PASSを保有することで得られるNFTコレクションはシーズンごとに1つとなっているようです。ですので、現時点でFKWME PASSを保有している人は、このあとTEAM ALPHAが最初にリリースする予定のコレクションにおいて、1つのNFTが期待できることになりそうです。

そして、ガバナンストークンであるGORJSトークンは、当初は販売・譲渡などできず、DAOの設立から1年後を目処に、立ち上げメンバーが作成予定の分散化の指標に基づいて、その譲渡や取引の許可を決めるという方針が発表されています。

ロードマップにも記載の通り、最初から何もかもDAOで決めていくというわけではなく、立ち上げちは創設チームがその仕組みを運営しながら構築し、徐々にルール化・自動化していく、といった方針でしょうか。

また、GORJSトークンは経済的な利益を与えるものではないこと、またロレアルグループの株式や証券などと交換できるものではないことが明確に示されています。このトークンはDAOガバナンスの中で、アーティストの投稿に対する投票や、参加するクリエイターにNFTをmintするための枠を確保する目的で使われると説明されています。

最後に、トークンの配分比率を簡単に見てみます。
図の通りですが、2%ほどはアーティストのリファラルプログラムに使われる計画となっています。選抜されたアーティストが、次のアーティストの選定や招待にもコミットすることが期待されています。

GORJS DAO Lite Paperより

トークンのVestingスケジュールやFKWME PASSをMintした後の配分比率など詳細に記載されているので気になる方はLite Paperをご覧ください。(こちら

Nounsのように全てをトレジャリーに入れて、DAOによって管理していく、というところまでは踏み込んでいませんが、このようにDAO化して、そのトークン配分も可視化し、コミュニティにも還元していく姿勢を打ち出すのは大きな一歩ではないでしょうか。(ロレアル社としてどのようなスキームでやっているのかも気になるところです)

終わりに

いかがでしたでしょうか。ナイキと似たような考えを持ち、ナイキ以上にWeb3に深くチャレンジしていく姿勢を見せるロレアル。プロ向けでクリエイターやアーティストとの関わりが重要だったからブランドだからこそできた側面もあると思いますが、よくここまで踏み込めたな、というのが第一印象でした。

GORJS DAOの具体的な取り組みとして明らかになっていることは、このあとTEAM ALPHAによってNFTコレクションが発表されるということのみですが、アドバイザリーボードに名を連ねるReady Player Meとは別途アバター制作のために利用できる独自のメイクアップ、ヘアスタイルを提供する取り組みを開始することも発表しています。

2021年に公開された細田守監督による『竜とそばかすの姫』ではこんな仮想世界が描かれていましたが、もしこのようなバーチャル世界で過ごす時間が長くなっていくとしたら、その時、化粧やファッションなどはどのようになるのでしょうか?

『竜とそばかすの姫』(公式HPより)

ロレアルグループをはじめ、LVMHグループなど、ファッションやメイク領域はWeb3の取り組みが非常に活発であり、自己表現の手段を提供していた業界が今後どのような取り組みを打ち出すのか、引き続き注目していきたいと思います。

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