『荷物持ちの脳筋無双』について

『荷物持ちの脳筋無双』ちると2023/4/28 株式会社講談社(講談社ラノベ文庫)
・テンポはいい
・初手から語るに落ちるガバを披露している点はさすがの一言
・レビューをよく読みこんでいるね♡ダサいぞ♡
・「(漫画ではなく)追放系のラノベでしか描けないヒロインがいると思った」とのことだが、どうしてそんなことを思ったのかマジで知りたい
・アイテム羅列で全改行って、手抜き以外に何の意味があるのか教えて?
・文章や単語選び、展開が下手
・最初から自分で漫画にすればよかったのでは?

 ひさびさに変換したせいなのか、「追放系」が「追放刑」と変換されてしまいました。普通は懲戒解雇や罷免、除名や自主退職()のはずなので、むしろ「追放という刑罰」のほうが意味合いとしては正しそうな気もします。作者は漫画家らしいのですが、あとがきによると「追放系でしか書けないヒロインがいると思った」とのコンセプトからこのラノベを描いたそうです。正気か?
 私もいつもやっているので完全にブーメランなのですが、えっちな服装をした女の子を書くと、どうしても「なんでそんな格好なの?」って疑問が出てきます。私はずっと制服のある職場で働いていたせいか「職業=制服」という認識があり、この認識を反映させることで「えっちな服装→これが制服」という言い訳を考えました。実際パイロットスーツとかめっちゃ短いタイトスカートの軍服とかいくらでもアニメ・漫画に登場するので、これを使用し続けようかなと考えています。
 本作のメインヒロインであるミオは、エロというか痴女の域に突っ込んだ服装をとっています。が、この合理的な理由が明らかになることはありませんでした。いや、もっとこだわれよ……イラストレーション的なキャラデザを文字起こししたところで、読者はまともに読んでくれませんよ(実体験)。文章表現が上手ければまた別だとは思いますが、基本的にそういう期待はしない方がいいです。
 私がフェチに優しいのにはちゃんと理由があって、それはつまり、推しが増えるからですね。というのも、一見非合理的なことについて屁理屈をこねくり回す過程で「ああ、この人はこれが好きなんだな」と知ることができ、作者の性癖に対する愛が伝わってきますよね。すると、少なからず性癖に共鳴する人が現れ、この作者ならこれをやってくれるのではないか、という期待が生まれます。エロ漫画の選び方にも似ているかもしれません。そういったシチュやフェチへの期待が作者推しになり、顧客をさらに増やす効果を持っていると私は考えます。
 本作ではそういったフェチをほとんど感じませんでした。すぐ脱ぐコスプレAVみたいな感じ。寝起きや防寒に関する服装の変化を感じ取れませんし、自分でも局部への視線を恥ずかしがっています。じゃあ着るなよ。ここんとこはモロに文章・小説である弊害が出ていて、「ひどく合理性を欠く服装」という強い疑問が浮かび上がってきています。何が言いたいのかを簡単にまとめると「自分で絵に描けば作者推し増えたんじゃね?」っていうことですね。絵を描けよ漫画家、文章上手くないんだから。
 作者があとがきで述べている「追放系のラノベでしか描けないヒロイン」については、よくわかりませんでした。属性が特定のジャンルでしか成り立たないなんてことある? って疑問もそうですが、好んでもいない服装を自分に強制したり、自分のスキルがお荷物だとわかっていながら資材を浪費したりと、何してんだか、って行動ばかりですね。ここに突っ込むのは筋違いな気もしますが、「攻撃祈願のお守り」ってなに? 祈るってことは、ほぼ確実に実行が困難な事象ですよね? 主人公の強さの要も「亀の守り」とかいうクソダサネームだったんで、これが限界なんでしょうか。よくこんなボキャブラリで文字媒体に挑戦しようだなんて思いましたね。
 作中ではお守りは外れアイテム、しかしアイテム容量と持ち方が巧みな主人公にはこのお守りを活かす方法が分かる! というのがチートだと思うのですが、序盤も序盤で「限られた容量を巧みに活かすのが一流」って言われてるんですよね。要約すると、一流が自然にできてることを物量のゴリ押しでしか実現できない、ってことですか。私は要領が悪いですって自白すんの悲しくない?
 お守りの具体的な強化値が分からなかったり、所持アイテム数に応じてアイテム欄が無限に拡大するというゴミUIっぷりを見せてくれたりと、システム面も終わっています。数値が加算されたり%強化だったりすると思うのですが、だとしても元の数値が低かったら強くならないでしょ。%強化が複利計算になるなんてクソバカ計算でもしてないとこんなに強くならないんじゃないでしょうか? カンストの人がレベル1のアクセ装備してるとか思ってんの?
 展開や言葉の使い方がクソ下手なのも、ひどく目につきます。「慧眼の黒獅子」というパーティー名の時点で疑問符が浮かびますし、レプティルというreptile(爬虫類・嫌なヤツ)を思わせる女性名、「恵体かつ戦闘要員」「体力を吸われる」「俺は流血を一切していない」などの微妙に語彙が弱いところがかなり気になりました。絵で伝わるところが文字表現になってるのが良くないんだと思います。「ポキって音がしたの」ってセリフ、主語がないから意味わかりませんよ……素直に「心が折れたの」って言わせとけ。言い回しを工夫しようという意図は見えますが、そんなレベルに達していません。表情ひとつで済むんだぞ、漫画で書けよ漫画家。
 テンポはいいのですが、展開自体に面白味はありません。ヒロインがいきなり飲酒して主人公をベッドに連れ込んだあたりは、読んでてシラケるというかそっ閉じするくらいひどかったです。子供っぽい理由で意地を張って浪費を続ける少女に「むしゃくしゃしたら飲むに限る!」って言わせるの、操り人形感ヤバいっすね。ニコポやナデポみたいなことをしておいて「誰にでも許すわけじゃない」と言わせるあたり、世にあるレビューをそこそこ読んでいるように見えるのですが、何一つ言い訳できてないのがね。イベントが起こる前に「君にだけはいいよ」って言われても意味わからん。
 何度も言ってることを総評とするのはよくないと思うのですが、言うべきことはひとつ、「漫画で描け」以外にないですね。バトルが書けない(別に下手ではなかった)と言ってクソ以下のごまかしでページを埋めたり、単語選びが微妙だったりと、単純にクオリティがクッソ低いです。レーベルもね……スニーカー文庫かファンタジア文庫に行くべきだったんじゃないかな。言うとムッコロかもしれませんが、このレーベルはほぼオワコンなので、大判で出すかコミックだけってのが正解に近いと思います。
 主語がないやり取りなんて書いてる時点で文筆業には向いてないと思うので、素直に漫画だけ書いてた方が儲かるんじゃないでしょうか。負債を増やす前に撤退することをおすすめして、この研究は締めておきます。


 以上が「研究」として述べた内容です。言いたいことはあまり変わっていませんが、より深く掘り下げていきましょうか。
 判官贔屓を引き出すために主要キャラをいじめる、ってだけの話ですね。全体的に設定に付け入る隙がありすぎて、ほとんどすべてのキャラの行動が理解できません。それに、いじめられている弱いものをつい守りたくなる、それがキャラクターを好きになることにつながる判官贔屓も、私の中には湧いてきませんでした。
 どうしてこの主人公やヒロインを好きになれないのかを考えてみると、ひたすらに間違った努力をし続けているからではないか、という感想が出てきます。


 明確なパラメータを住人が閲覧可能な世界を「ゲーム世界」と呼ぶことがあります。これらを仮にゲームとして考えた場合、ゲームバランスや攻略法が存在する、とするのが自然な流れになるでしょう。ところが、ほとんどのウェブ作家は「裏技を駆使する」ことに異常に固執し、正当な攻略法についてまったく考えていません。これについては、仕方がないと思える面もあります。
 だいたいのなろう系と呼ばれるウェブ小説では、すごい力を手に入れて最強になる、という物語のひな型はすでに決まっています。「すごい力」の内容を入れ替えることで“新作”を送り出すことが十年以上も常態化しているので、“新作”になりうるアイデアを求め続けた結果として、正当でない攻略法を模索しすぎてしまう一面はあるでしょう。しかしながら、それが相手を見下したい欲求と結びついて、最弱こそが最強であるとする風潮に結びついているのは由々しき問題です。
 バトルもの全般に言えることですが、すべてのキャラクターには「戦わない」という選択肢があります。そのなかで適性のあるなしを別として戦いを選び、そういった分野の適性が求められる「冒険者」になるのも、現実におけるブルーカラーの実態を考えれば納得はできます。とはいえ、上述した裏ワザ的攻略と、彼ら自身の生活がかかった職業事情がどこか噛み合わないのは事実です。
 主人公リュックは、「荷物を常人の三十倍持てる」という驚異的な能力があります。私の体重は約五十キログラム、持ち上げることのできる重量は体重の二倍が限界だそうなので、私を基準に比較すると50×2×30で三千キログラム、約三トンですか。すごい(小並感)。現実の安全基準では「二十キログラム以上の荷物は二人で持つように」となっていますが、それでもなお一トン二百運べるんですよね……二トントラックの実際の積載量とほぼ同じくらいなので、ものすごい能力です。身長はヒロインと同程度らしいので160cm程度、日ごろから荷物持ちを行っていると考えると筋肉量は私よりも上、そうなると体重はそう変わらないと思うので、「体重50kgに対して2tを持ち運べる」くらいの認識でいいかなと思います。
 ときに、彼の目的は「たくさん兄弟がいる実家への仕送り」だそうです。中世ファンタジー風、界隈では「ナーロッパ」というのですが、こういった世界観での「仕送り」ってどういうものなんでしょうか? 実家を出ること自体、「負担にならない」という意味で間接的に仕送りのようなものだと思うのですが……まあ、まとまった現金を実家に送るシーンはないので、作者がぱっと書いた設定を忘れている可能性大ですね。ここだけでなく、本作には「推し」や「飲むに限る!」など、ひどく現代日本人めいた思考や行動が出てきて、世界観のゆるやかな崩れに読み進める足を取られてしまいます。

 
 目的と能力を併せて、リュックが何をすべきかを考えると、行商なのではないかと思います。この世界の収納事情は個人の「最大積載量」なるパラメータに左右され、ある程度負担を軽減できる収納アイテムに物品を詰め込むことで、冒険に必要なアイテムを持ち歩いているようです。では当然、複数の収納アイテムを背負って、自分の持てる量を最大限に拡張すべきではないでしょうか。
 積載量が常人の三十倍あるリュックの場合は、差し引きで増える量が大したものにならないため、見た目上入れるものが必要であるらしい、という制約以外でかばんを背負う必要がありません。しかし、イラストを見ても描写を見ても、かなり大きなリュックサックを背負っています。では、「最大積載量が常人の三十倍ある」というリュック自身の個性はいったいどうなっているのでしょうか? 竜の角など明らかにかばんに収まらないものを預かっているので、収納場所の体積と積載量は関係ないようです。うーん……?? こういう感じで、文中での設定と描写が合っていない箇所が散見されます。
 そして、もっと適性と「正規の攻略法」に実情が合っていないと思えるのは、メインヒロインであるミオですね。彼女は父から受け継いだ「御守り作り」というスキルを持ち、さまざまな御守りを作ることができます。「攻撃祈願」「防御祈願」という奇っ怪な言葉の使い方はあまり気にしないとしても、作中に例を見ないスキルのレベルアップを起こす、奇跡の女傑でもあります。
 では、その奇跡はどのようにして起こったのか。その答えは、「多人数に御守りを持ってもらうこと」です。うn……うん? なるほど、なかなか面白い条件のトロフィー開放ですね。売れ筋商品作ってたら一発で解決したのでは、という疑念を抱くのは、もう少し分析を続けてからにしましょう。
 彼女の父親もまた御守り作りの職人であり、露店商だったようです。迫害されていたのに実家に蔵があったとか、御守りなんて誰も買わないだとか、ここでも設定はガバガバですね。なんで蔵のある家を持てる収入があったんでしょうか、毛嫌いされる異国の宗教家に金を出す人間って誰なの? 蔵に放火された(納屋じゃなくて?)とのことなので、借家ではなさそうですが。
 そこは無視して、彼女の父親はどうやら「長寿祈願」の御守りで食いつないでいた様子です。「【御守り作り】の唯一の生存活路」……生存戦略か活路か、ともあれただひとつ間違いない売れ筋だったようですね。これがスタンダードだと思われるので、ふつうのお守り職人はミオよりもよほど早くスキルレベルアップを果たしているのではないでしょうか。生産系スキルとして実績解除が簡単なのは分かりましたが、なぜこれまで達成できなかったのか、はなはだ疑問です。神様、もうちょっとまともなシステム作って?

 
 袋に収まるサイズのモンスターの体組織の破片・小袋・鈴付きの緒・製作者の魔力が必要な御守り作りですが、ここで大きな問題が立ちはだかります。
 これら素材の重量はいったいどのくらいなのでしょうか、そしてミオはなぜこれらの素材をつねに持ち運べていたのでしょうか? ミオの最大積載量はとくに書かれていないため、強調するような数字ではないと考えるのが自然でしょう。では、モンスターの破片以外のこれら素材のストック、すり鉢・乳棒をつねに持ち歩いてダンジョンへ潜ってきた理由は一体何なのでしょうか? そして、それら準備にかかる最大積載量はいったいどの程度なのでしょうか。とくに収納場所は見当たらないのですが、いったいどこからこれらを取り出したのでしょうか。
 そして、成人男性の平均値と思われる最大積載量100(推定20~30kg。限界は~120kg程度)に対し、下級の御守りでも重量が20~30程度、先ほどの計算によれば5~6kg(~36kg程度)あたりに設定されています。重すぎんか? 金属バットでも700グラムくらいなんですが。そして、一般人は御守りを持っても反発しあってしまい、複数を持つことはできないそうです。ということは、彼女は完成品を最大でもひとつしか持ち歩いていないことになります。しかし、その状態で上記のストックを持ち運ぶことはできるのでしょうか?
 これら疑問の答えはまったく描写されておらず、明らかに積載量で勝るはずのリュックにアイテムを預けるシーンもありません。はっきりとした答えを出すと矛盾まみれになるので、答えは神のみぞ知る、ということにしておきましょう。

 
 このように裏ワザに固執しすぎると、裏ワザを使うためにすべての設定が崩壊します。ネットで拾ったチートコード入れたらぜんぶバグって、テクスチャどころか文字表示すらまともに見えなくなった感じですかね。
 リュックは身一つで中型トラック並みの荷物を持ち運べる行商になり、ミオは売れ筋商品で地盤を固めてから、重量と性能のつり合いが取れる御守りを作ればよかったと思います。最弱×最弱のようなコンセプトがあるようなのですが、主人公リュックはそれなりに強く、ヒロインは追加パーツとしての役割しかありません。二巻では鉄火場に突っ込んでこないので、安全地帯にいればいいのは明白なんですよね……強化のためにと、導入からして無理があるイベントに突っ込ませるのは、作家としての力量を疑わざるを得ないところです。

 
 そして、メインヒロインであるミオには、もうひとつ大きな問題があります。それは、生きていることです。文句のつけすぎ文字単位の穿ちすぎで頭がおかしくなったのかと思われるかもしれませんが、作中の設定や描写を細かく見ていくと、とても奇妙なことに思い至ります。
 それは、「この少女はどうしてこれまで生きてこられたのか」という疑問です。
 迫害を受ける異国の宗教家の娘ミオは、父から受け継いだスキル【御守り作り】のすごさを証明するために旅に出ました。そして隣国に居着き……ここからの記述がほぼないので、現在の職業はおそらく露店商なのでしょう。かなりの低所得かつ、ストレスがたまると飲み屋で酔いつぶれることが常態化しているようです。ここまで書けば、私が持っているものと同じ疑問が出てくるものと思いますが、少々お待ちを。
 ところで、迫害の詳細がどのようなものなのかというと、「使えないスキル持ちなんて出ていけ!」と罵倒される、張り紙や落書き、蔵への放火(!?)などなどですね。それらは親元にいたときのもので、現在では望まない求婚や性加害を目的とした誘拐未遂、暴行未遂などの被害も受けています。
 作者がこれらの描写をした目的は、もちろんのこと、主人公が彼女をカッコよく助け出すためでしょう。そして、キャラクターをかわいそうな立場に置くことによって同情を煽り、愛着を持ってもらう意図もあると考えられます。しかし、どう考えてもやりすぎていて、迫害をする側の意図も分かりませんし、彼女の生存自体が異常事態に思えてきます。
 自覚のない悪意、もっと言えば善意のつもりで行動する悪意はこの世にたくさんあるので、そういった差別や迫害は過激化しがちです。それはともかく、下に挙げる要素↓
 
・年若い美少女
(推定十八歳。やや幼い性格)
 
・みだらな服装
(書籍一巻表紙イラスト参照、デザイン通りの描写。劇中でも痴女扱い)
 
・頻繁に酔いつぶれる
(行きつけのバーがあり、幼児退行を起こす)
 
・低所得
(御守りの需要のなさとモンスターの素材を仕入れる必要を考えると、収支トントンになっていればマシか。見合わない支出をする悪癖あり)
 
・露店商
(テナントや間借りの描写はなし。客あしらいには期待できない)
 
・将来性ゼロ
(売れないものしか作れない・売らない。浪費ぐせのある少女かつ、被差別移民。単独でダンジョンの奥にやってくるなど危機意識皆無。将来的にアルコール依存症になる可能性が高い)
 
……などなど、善意にせよ悪意にせよ、彼女の意に沿わない男性を引き寄せてしまう要素はこれでもかとドカ盛りされています。劇中で「そんな生活捨てて、貴族であるこのボク様の妻になれ」と言ってきた男性がいますが、そのルートの方が正解だと思いますね。ストレスまみれの酒浸り貧乏暮らしで、夢が叶う展望はあるんですか?(純粋)
 この世界では、有用でないスキルを持った人間は公然と差別することが日常であるようです。であれば、御守りを並べた露店商の美少女など恰好の標的でしょう。性的なものを含めた暴行を受けて命を落としても、誰ひとり気にも留めないと思われます。作中でも、ダンジョンを出て気の緩んだタイミングを狙った盗賊がおり、主人公たちのスキルをさんざんに痛罵しながら殺傷能力の高い攻撃を見舞ってきました。リュックと二人でいなければ、ミオはここで命か尊厳、あるいは両方を失っていたと考えるべきでしょう。
 そして、命の危険を無視したとしても、ミオの危機は終わりません。というのも、明らかに収入と支出が釣り合っていないからです。上述した通り、御守りを作るためには小袋やモンスターの素材などが必要になります。一般に流通しているといった描写が一切ないので、おそらく冒険者ギルドを通じて依頼を出し、調達しているのでしょう。費用対効果がまったく見合っていないように思えます。
 現在使っているお金が旅支度のそれだとして、劇中に幾度も登場する「人の頭ほどもある三色団子」は大きさなりの値段をとるでしょうし、差別や売れ行きの不調を考えると、バーで飲んだくれる頻度もそう低いものではないでしょう。ミオは、もう少しお金について真剣に考えるべきだと思います。不当な略奪に遭う可能性も否定できないので、ことはさらに深刻です。
 さて、もう一度浮かび上がってきた思考をそのままに述べてみましょう。
 どうしてミオはこれまで生きてこられたのでしょうか? 作者があとがきで述べている「追放系でなければ描けないヒロイン」とは、自宅介護の植物人間のように、何もかもを世話しなければ生存さえままならない人間のことなのでしょうか?
 これら疑問について考える際、この作者は過去作で主人公優位の共依存ばかりを描いてきたことを申し添えておきます。金銭感覚のにぶさ、大きなテーマである「収納」に対する解像度の低さを添えると、この作者の来歴がなんとなく見えてきます。あくまで「なんとなく」なので、明確に述べることは避けておきますが。

 
 本作はウェブ原作ながらウェブの更新をほったらかして二巻が刊行、ヒロインは総勢七名が登場しますが、ミオ以外はそこそこ自立していて、所持スキルも話作りにわりかし活かされています。ミオだけが徹底して「主人公がいなければ……」を貫いており、より依存関係を強調しているんですよね。
 ほかには、たったひとつのアイテムで最強に上り詰めた少女や、主人公とはいっさい関係なく作中最上位の怪力を誇る少女など、エピソードやキャラクター性の面白みで完全に負けているキャラが何人もいます。こうすると、どうしてもメインヒロインとの共依存を描きたかったのか、裏ワザの条件を満たすためにはいびつな関係にせざるを得なかったのか、どちらかになると思われます。
 男女を逆にしてみて、「パパ活で稼いでからFX長者になったおねーさん」とか聞いたら、じゃあ金むしられたおぢはどうなったの? って話になると思うんですけど、そういうのは気にならない人なんでしょうか。リュックに尽くすほか生存活路がないミオは、素直にリュックを愛し続けることができるのか、とても不安です。作者がいちばん推したいものに共感できないのは、ちょっと悲しいですね。病的な依存という不健全極まりないものも、『ハッピーシュガーライフ』だったか、うまく調理すれば見られないでもないとは思うのですが……。

 
 いつもなら改善案を述べるのですが、今回は特にありません。原作者は漫画家で、コミカライズされていたりイラストレーターが別だったりと、どういう売り方をしたいんだかよくわからないんですよね。したがって、作者がラノベ作家として成長すべきなのかも不明で、今後同じことをするかどうかもわかりません。そうなると、「漫画家に戻ればいい」という乱暴なものが最適のアドバイスであると思われます。
 とくに描きたいテーマを描こうとすると操り糸が見えすぎてグダグダになることは、頻繁に見かけます。でも、読者が読みたい・読み取れるテーマってだいたい「○○っていいよね……」程度のもので、物語の芯を貫く主張を意図して読み取らせる・描き切れるのは、国外でも売れるレベルのクリエイターくらいでしょう。
 でもまあ、読者が勝手に読み取るはずの「男性優位の共依存」をどうしてもやりたくてすべてめちゃめちゃになるのは、この作者のどうしてもぬぐえない特徴なのだと思われます。「異世界だから倫理観が違う」と言ってしまえば、現実だと許されないものもだいたい許されるんですが……その異世界でさえこれとなると、先が心配というか、もう絶望的なんじゃないでしょうか。
 先にこれをレビューした方のひとりとして「一般サイコパス」氏がいるのですが、彼の結論は「もっとも売れた作品と同じものを再生産すればいい」というものでした。私も彼に賛成です。
 というのも、本作の発売期間が2023/4/28→2024/3/29とあまりにも空きすぎていて、スケジュールに余裕がないか、打ち切りの危機をギリッギリで脱したように見えるからですね。じっさいこんなに複雑なやり方をして儲けがどの程度出るのかは疑問ですし、レビューサイトでもメインヒロインについてはあまりよい意見を見かけません。つまり、一番やりたいことが読者にちゃんと刺さっていないことになります。
 全体にさして能力が高くはなく、一般の倫理からかけ離れているので、ぶっ飛んだニッチな需要をすくい上げるポルノ提供者となるのがもっとも正解に近い形になると思われます。それはつまり、もっとも知名度があると思われる『とっても優しいあまえちゃん!』のような……私からするとキャプチャ画像を見ただけでもおぞましいものでしたが、ああいう作品がいい、ということになるでしょう。
 具体的に何が言いたいのかというと、「エロ漫画ならどこがどうガバろうと抜けるだけで許されるよ」って意味です。シチュだけ求める顧客目当てならそれでいいんじゃないのかな、とも思いますし、この人の欲求をまともなストーリーに乗せる方法はちょっと思いつきませんね。
 読み取れるものとして、展望や金銭感覚がかなりふわふわしているので、人としてかなり心配になります。どうなろうと知りませんが、ある程度余裕を持って、手堅くやれる方法で生きた方がいいんじゃないでしょうか。私とは関係ないところにいる人なので、続きが出ない限り知らぬ存ぜぬで通そうと思います。正直どうでもいい。

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