令和6年司法試験再現答案 民事訴訟法

第1 設問1
1 課題1 
(1) 任意的訴訟担当とは、当事者となり得る者の中から訴訟を追行する者を選定し被選定者が訴訟を追行するものをいい、明文のあるものとして選定当事者(民事訴訟法30条、以下「法令名」省略。)がある。選定当事者は選定された被選定者が訴訟担当となり訴訟を追行するものであり、これは当事者となり得る者の中から、選定者が全員の利益のために訴訟を行うことを期待できること、三百代言による跳梁による弁護士代理の原則の潜脱、訴訟信託の禁止(信託法10条)に反せず、担当者を選定してこの者に訴訟を追行させることが共通の利益を有する選定者にとって手段的にも便宜と言えることから認められる。
(2) そうすると、明文なき訴訟担当もこのような危険が無くその必要性あればこれを認めることができるものと考える。昭和45年最高裁判例は、民法上の組合契約に基づいて結成された共同事業体を契約当事者とする訴訟について共同事業体の代表者である組合員の任意的訴訟担当を認めた。かかる判例は、業務執行組合員の任意的訴訟担当を認めた理由として、組合全員の利益のために訴訟を行うことを期待できること、三百代言による跳梁による弁護士代理の原則の潜脱、訴訟信託の禁止(信託法10条)に反しないことを業務執行組合員が充足すると判断したためである。
(3) よって、明文なき任意的訴訟担当が認められる要件は、上記の判断基準をもって検討すべきである。
2 課題2
(1) 本件でX1による明文なき任意的訴訟担当が認められるか。まず前記最高裁判例との違いは、組合という契約関係に基づく点と本件建物をX1及びX2、X3を共有しているという点が異なる。組合は組合員により組合財産を合有しており、X1らは単純な共有関係である。これらは、およそ共有関係という点では共通し、仮にX1が訴訟において敗訴すれば、その使用収益関係において、実質的な権利制約を受けると言える。
(2) そして、前記判例では組合には組合結成に伴い黙示の授権があると考えられていることと、X1には明確な授権が存在するか不明確という違いがある。X1は選定行為を受けたわけでもないが、X1は本件建物の賃貸借契約において、他の共有者X2、X3から全員が賃借人となるが、訴訟上及び訴訟外の業務についてX1が単独で自己の名で行うことを取り決められたことや、X2及びX3は、Yに対して本件建物の明渡を求めることのX1の意向に賛成しているという事情がある。そうすると、これらの事情からX1についても訴訟を行う授権が存在したと考えることができる。X2及びX3は訴訟に賛成しながら、自己が参加するのは時間的・経済的に負担となることからこれを行わなかったにすぎず、同人らの意思としてはこれをX1に任せる趣旨であると言えるからである。よって授権行為も存在したと評価でき、また、X1らは本件建物を共有しており、かかる建物の賃貸借契約解除は管理行為であるから共有者の持分の過半数で行う必要があるもののこれについて全員の賛成もあるといえる。よって解除に基づく建物明渡請求訴訟を行う授権が存在する。
(3) X1は授権を得ていると言えること、またX1~X3は共有物についての権利義務関係を共通にしており、自己の利益にも直接関係することから他の者のために訴訟活動を行うことが期待できること、三百代言による跳梁による弁護士代理の原則の潜脱、訴訟信託の禁止(信託法10条)に反しないことからすれば明文なき任意的訴訟担当を認める要件を充足している。そして、このようなX1に明文なき任意的訴訟担当として、訴訟を担当させることがX2,X3にとっても便宜に資するという必要性もある。以上のことからX1は明文なき任意的訴訟担当となることが認められる。
第2 設問2
1 裁判上の自白とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の弁論としての陳述であり、弁論準備手続及び口頭弁論に行なわれたものを含む。
(1) 「自己に不利益な」とは、相手方が証明責任を負うものをいい、また、「事実」とは権利の発生消滅等を基礎づける主要事実を指す。自白はこれが成立すれば不要証効を生じこれを相手方が信頼することから撤回制限効が生じる。そして、間接事実や補助事実については証拠と同レベルの価値があり、これに自白の拘束力を認めれば裁判官の自由心証主義(247条)を害することになり妥当でないことから主要事実にのみ及ぶ。
(2) それでは、本件陳述が自白に当たるか。まず本件訴訟の訴訟物は本件契約の終了に基づく本件建物明渡し請求訴訟である。そうするとXらは、賃貸借契約の締結、建物の引渡し、賃料不払いの事実と解除の意思表示をしたことを主張立証する必要があり、Yはかかる請求に対して賃料未払いを否認して、信頼関係破壊の事実がないことを主張している。信頼関係破壊の事実はこれを構成する評価根拠事実についてXらが主張し、これが存在しないことをYが主張すべき主要事実といえる。そうすると、Yの本件陳述は、不動産の用法遵守義務に反し、信頼関係を破壊した事実を基礎づけるものである。よって、これは信頼関係破壊の事実の存在を主張すべきXらにおいて証明責任を負うものといえる。そしてこれをYが主張しているから相手方の主張と一致する自己に不利益な主要事実の陳述といえ、形式的には自白に当たる。
(3) もっとも、本件陳述は賃料の不払いや信頼関係破壊の事実が争われている第1回弁論準備手続期日で、争点が明確になっていないことから、当事者双方が口頭で自由に議論し、その結果を踏まえ第2回弁論準備手続期日以降に具体的争点を確定するために、Yにおいて自由意志で陳述したである。そうすると、その段階では、争点形成のため自由に陳述する必要があったといえるし、あくまで賃料不払いに起因する信頼関係破壊の事実の存否に焦点があったといえる。Yにおいて主張されたのは、賃料不払いは存在せず、また、令和3月10月以降にX1夫婦が料理教室に参加した際、賃料の話など一切なかったことから、賃料不払いに起因する信頼関係破壊が存在しないという主張なのであって、この段階で主要事実は賃料不払いに起因する信頼関係破壊の事実の存否といえる。よって、用法遵守に反した信頼関係破壊の事実は、主要事実ではなく本件陳述に自白は成立しない。
第3 設問3 
1(1) 既判力(114条1項)とは前訴の後訴に対する内容的通用力であり、同一関係、矛盾関係、先決関係に及ぶ。また当事者は口頭弁論終結時までに攻撃・防御方法を裁判所に提出することができこの時点が基準時となる(民事執行法35条2項)。解除権は前訴の訴訟物に内在する形成権であり、基準時として、訴訟物に内在する主張が遮断される。既判力の根拠は、訴訟で手続保障を与えられたことによる自己責任と紛争の抜本的解決、紛争の蒸し返し防止である。
(2) そうすると、上記の根拠の趣旨が妥当しない場合においては既判力の遮断効は生じないものと考える。
2(1) 本件では、XらがYの本件セミナーを行っていた事実を知ったのは、本件判決後であり前訴の継続中ではない。Xらは令和4年1月24日に、令和3年6月から8月までの3ヶ月分の賃料の支払がないとして本件訴訟を提起しており、本件判決が出されたのは令和5年4月である。そして、本件セミナーが行われていたのは、令和3年1月から令和5年1月までであり、本件訴訟の期間と重なっていることから、Xらが本件セミナーが行われていた事実を知ることは困難といえる。そして、前訴においては、解除原因としての信頼関係破壊の事実の有無を争っていたといえる。Yはこれについて信頼関係破壊の事実はないと否定している。そのような者がまさか前訴の継続中に、このような解除原因を構成することを行うということは通常の一般人であれば想定しがたいものといえる。そうするとXらにおいて、Yの行った本件セミナーの事実に気づくべきだったという主張は期待できないと言えるし、調査義務があり容易に気がつくことができたということはできない。
(2) このように、Xらにおいて本件セミナーの事実を認知は期待可能性がなく、そうであれば自己責任の結果を問えないものと考えることができ、Xらは前訴の基準時までに内在していた本件セミナーの用法遵守義務違反の主張は遮断されないと考える。よって、同主張は既判力により遮断されず後訴においてXらが主張することができる。これに対して、既判力により遮断されず、そのような主張を認めることは前訴の蒸し返しであり抜本的解決に反するという反対の見解が考えられるが、前訴での主張する期待が存在しなかった以上、不当な蒸し返しとはいえず、また、前訴と後訴での各主張はそもそも別個の解除原因と評価もできるしこのような反論は妥当でない。以上のことから、既判力により遮断されずXらは本件セミナーの用法遵守義務違反を主張できる。
                               以 上

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