令和6年司法試験再現答案 商法

第1 設問1小問1
1(1) 乙社は甲社に対して、本件各議題を目的とする株主総会の招集を請求したが同社がこれに応じなかったため、裁判所の許可を得て本件臨時株主総会1の開催するため招集通知を行っている(会社法297条1項、4項、299条1項、以下「法令名」省略。)。そうすると、甲社は本件臨時株主総会1に法令違反があるとして、監査役Dは取締役会に対してその旨を報告するとともに、甲社は株主総会の招集の手続及び決議脳方法を調査させるため、検査役の選任を申し立てる(306条1項)。これにより裁判所は検査役を選任し(306条3項)、検査役は裁判所にその結果の報告を行う(306条5項)。そして裁判所は、かかる報告を受けた場合において、必要があると認めるときには株主総会の招集をすることを命じることができるから(307条1項1号)、本件臨時株主総会1に先立ち、株主総会を招集することで、本件臨時株主総会の決議事項を決議して、否決に持ち込み、本件臨時株主総会の開催をやめるよう乙社に求めることが考えられる。
(2) 次に、甲社は、検査役の報告内容を株主に通知し、または、株主総会で同報告内容を開示することになる。そうすると、かかる手段を講じることを乙社に報告し、臨時株主総会1の開催をやめるよう求めることができるものと考えられる(307条1項2号、2項)。
2(1) 次に、監査役による違法行為の差止請求を行うことが考えられる(385条1項)。もっとも、乙社は株主であり、取締役ではないから、取締役の行為の差止請求を直接適用することはできない(385条1項)。しかし、乙社は、20パーセントもの甲社株式を保有し、取締役3人の解任の件、監査役3人の解任の件、取締役3名の選任の件、監査役3名の選任の件という本件閣議題のような甲社内の業務執行に準ずるような議題にも関心を持ち、かつこれを自己の希望通りに実践しようとするような者である。そうすると、甲社の事実上の取締役にあたる者としての側面があるものとして考えることができる。そうであれば、そのような者が違法な行為を行うことを差し止めることは監査役として期待された行為ということができ、違法な臨時株主総会1を差し止めるために385条を適用ないし類推適用し上記株主総会の差止めを求めることができると考える。
(2) 以上のことから弁護士としてDにこれらの手段を講じるよう回答すべきと考える。
第2 設問1小問2
1 Eは本件各議題について乙社提案の各議案に反対した甲社の株主Eは株主総会取消しの訴えを提起する(831条1項)。Eは株主であり、原告適格を有するから株主総会決議から3ヶ月以内に前記取消しの訴えを提起する必要がある(831条1項)。
2(1) 乙社は、甲社の株主に対して招集通知に本件書面を同封しており、本件書面には乙社提案の各議何に賛成した株主に1000円相当の商品券を郵送にて贈呈する旨記載があった。これが、招集通知の手続が著しく不公正な場合であるとして取り消し事由を構成しないか(831条1項1号)。かかる、本件書面が利益供与に当たるか(120条1項)。同条の主体は、株式会社である。乙社は株主であり同条の主体たり得ないのではないか問題となる。乙社は前記のとおり、甲社の業務執行に準じた行為を行おうとする者であり、20パーセントもの甲社の株式を保有する者である。そして同社の経営に関心を持つとともに自己に有利な人事刷新を図ろうとするほど甲社への関連性が強い。そうすると実質的には会社が主体として商品券の贈呈を行おうとし、株主の権利の行使に関して利益を供与する者としての基礎があると考えることができる。
(2) また、利益供与は会社財産(甲社財産)を拠出することを要するが、株主に1000円相当の商品券を郵送にて贈呈するのは甲社の財産を拠出するのではなく、乙社からこれが拠出されることになる。本来は本条の主体は株式会社たる甲社であるから同社の会社財産から株主に利益として拠出する必要があるものの、前述したように実質的には取締役のような役割を持っている乙社の会社財産から株主に利益が供与されたいる。そうであれば、乙社財産の拠出により不合理な判断による株主の権利の行使の危険性は存在すると言える。よって、株主の権利行使に関して甲社が利益供与したのと同様の危険があることから、乙社財産であっても甲社財産から拠出されたのと同様に判断すべきである。
(3) そして、株主の議決権行使に利益誘導を行うことは「株主の権利の行使に関して」といえる。このことから、120条を適用する基礎があり同条を適用することができる。そして、かかる利益供与を行う旨の本件書面を招集通知に同封したことは株主の招集手続に際して正常な判断を誤らせるものとして招集手続が著しく不公正といえる。また、株主の議決権行使後に乙社は実際に1000円相当の商品券を送付していることから、かかる利益の誘因により議決が行なわれたものとして決議方法の不公正という取り消し事由も構成する(831条1項1号)。かかる違反は株主の正常な判断を害すものとして重大であり、20パーセントもの株式をもつ乙社の議決権行使及び誘因がなければおれを受けた株主の議決権行使の態様も変わり得ることからすれば結果は異なっていた可能性もあり裁量棄却は許されない(831条2項)。なお、1000円という価格は低廉にすぎ必要性相当性等を勘案して利益供与にあたらないとの反論も考えられるが、上記のような行為により、従来の参加者よりも30パーセントもの株主が増加して議決権を行使したことは不当な判断を誘引し、全体として必要性及び相当性を欠いていると言えるから上記反論は理由がない。
3 次に、甲社の20パーセントもの株式を保有する乙社が「特別の利害関係を有する者」であり、本件臨時株主総会で議決権を行使したことが「著しく不当な決議」が行われたとして取り消し事由を構成しないか(831条1項3号)。
ア 「特別の利害関係を有する者」とは、他の株主と共通しない利益を得、または不利益をを免れる者をいう。乙社は甲社の取締役や、監査役を選解任することを提案し議決しており、これは筆頭株主として自己の都合のいい役員等を甲社に送り込む目的を有する者として少なくともA、B、Cという取締役会を構成する他の株主と共通しない利益を有する者といえる。
イ そして、「著しく不当な決議」とは少数株主が不利益を受けるような決議をいうが、乙社がという全体の20パーセントもの割合の株式数を持つ者が議決権を行使したことにより、A、B、Cという株主は自己の甲社での地位を失うことになるといえる。そうすると著しく不当な決議に当たる。以上のことから、特別の利害関係を有する者による著しく不当な決議が行なわれた者として株主総会決議の取り消し事由を構成する。
以上のことからEは上記の取り消し事由を主張することができEの主張は認められる。
第3 設問2
1(1) 丙社は本件株式併合の効力を争うことができるか。本件決議2によって定められた日に本件株式併合の効力が発生しているが、会社法は株式併合の効力の発生後について、これを争う手段につき明文を置いていないことから問題となる。
(2) 本件株式併合は、本件臨時株主総会2により決議されたことにより効力が発生している。そうすると本件臨時株主総会2の決議を取消すことによって、決議の効力は遡及的に無効(839条反対解釈)となる。決議の取消しにより併合は遡及的に無効となり丙社は併合前の株主たる地位を回復できる。このことから、本件臨時株主総会2の取消しを求めて出訴すべきと考える(831条1項)。丙社はかかる決議取消しにより株主たる地位を回復できるから原告適格を有し、丙社は決議の日から3ヶ月以内に総会決議取消しの訴えを提起する必要がある(同条柱書き)。
2(1)ア 丙社は本件株式の併合が少数者の締め出しを企図して行なわれたものであり、かかる措置が株主平等原則(109条1項)に反しており、決議方法の法令違反が存在すると主張する(831条1項1号)。株主平等原則は、持ち株数株式の種類に応じて会社は株主を平等に取り扱わねばならないというものである。本件のような少数者の締め出しのような株式併合にもかかる趣旨は及ぶものと考える。もっとも、株主は会社の存続があってはじめて株主平等原則の保障を受けることができるものであって、かかる会社存続なくしては同原則の保障は考えることはできない。そうすると、本件で行われた株式併合が株主の意思に基づいて行なわれたものといえ、その判断に不合理な点がないかを検討すべきであり、株主の意思として行なわれたものであったとしても、その判断が著しく合理性を欠くものといえれば、不平等な取り扱いと言え109条1項に違反する可能性がある。
イ 甲社は、丙社を除く多数株主の判断により本件株式併合が行われているから多数の株主による意思が反映されているものといえる。そしてかかる併合の判断が不合理であるかについて検討すると、甲社の代表取締役Aは丙社のGと経営方針をめぐり対立しており、Aは甲社の利益を考えた結果、Gの甲社を丙社の完全子会社化することよりも、Aを独立させて置く方が同社の価値として最適になるものと判断したのである。そしてAはB及びCをも説得して同人らもAの判断が最適と考えたことによりAの提案に賛成していると言える。そうすると大多数の株主が賛成しており、その判断や基礎に不合理な点があるとはいえない。そして、かかる会社利益の存在を理由として、本件株式併合したことは丙社が締め出しを受けたとしても、株主総会による合理的判断の結果となるものであり、かかる総会でもその旨が株主に提示されている以上、株主平等原則に反すると言うことはできない。以上のことから丙社の上記主張は認められない。
(2) そして、丙社は甲社の再建のため投資を行ったにもかかわらず、結果的には恩を仇で返すような本件株式併合を行うことは信義則に反する行為(民法1条2項)とであり決議方法が著しく不公正であると主張する(831条1項1号)。しかし、会社に対する投資は必ずしも利益を保障されたものでないし、再建された会社がどのような経営判断を行うかは自由であり、これは投資する側としても予測の範囲内のものといえる。また、甲社が丙社を締め出したのは同社らにおいて経営事項について深刻な対立があったことを理由とするのであり、経営方針の相違からの内紛であって、経営方針の相違はままあることである。よって著しく不公正とまではいえない。以上のことから、丙社の主張は認められず、本件臨時株主総会2の取消しの訴えは認められない。
                               以 上


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