令和6年司法試験再現答案 憲法

第1 規制①の憲法適合性
1 規制①は現行制度を改正して、犬猫の販売業を行うために犬猫販売業免許を取得することを要件としている。これが犬猫販売業への新規参入者及び既存業者の狭義の職業選択の自由を侵害し憲法22条1項(以下「法令名」省略。)に反しないか。
(1) 職業は自己の生計を維持するための継続的活動であり、分業社会においては各人が社会の発展に寄与するとともに、自己の個性を全うする場として人格形成とも密接に関連する重要な権利である。これに対して、かかる職業が直ちに人格形成に資するものとはいえないとの反論が考えられる。しかし、一般的に職業選択というのは自己の希望する特定の業種を生業とすることを希望し、これを営むたの努力を行なうものである。そうすると、犬猫販売業という、一定の者の嗜好に合致する職業を選択するということ自体、その者にとっては自己の理想とする自己実現の形といえるのであって、かかる職業を行うことに意義がある。我が国におけるペット市場が拡大し、種類も多様になっているにもかかわらず、依然として犬猫の飼養頭数割合は相対的に高いのは、かかる「犬猫」販売というカテゴリーにおよそ一般的な広義のペットショップとは区別された特別な別業種ともいえる価値を見いだしていることに他ならないと言える。よって上記反論は妥当でない。
(2) そして職業選択の自由は22条1項において新規参入業者及び既存の業者に保障される。かかる自由に対し、規制①は犬猫販売免許を受けなければ新規参入者はこれを行うことができず、既存業者は犬猫をこれまでどおり販売できないという制約が存在する。もっともこれに対して、制約される人権は狭義の職業選択の自由ではなく、犬猫販売業という態様を制約するにすぎない営業の自由であるとの反論が考えられる。職業は、開始、継続、廃止において自由であり、営業の自由も22条1項において保障される。そして、上記反論のように営業の自由の制約にすぎないか否かを検討すると、たしかに免許を受けられず、犬猫販売業を行うことができないとしても、新規参入者及び既存業者は、「犬猫」を除く動物、例えばうさぎや観賞魚等を販売するおよそ「ペットショップ」としての職業を行うことは可能である。しかし、前述のとおり、犬猫販売業はある一定の者の嗜好に依ったものであるとともに、この犬猫に独自の価値が存在する。我が国におけるペット市場が拡大し、種類も多様になっているにもかかわらず、依然として犬猫の飼養頭数割合は相対的に高いのは、かかる「犬猫」販売というカテゴリーに特別な別市場ともいえる価値を見いだしているものといえる。また、ペットを飼っている者の中で犬を飼っているのは31パーセント、猫は29パーセントであり、わずか2種でペット飼育者の6割を占める。そして、その他の「全て」のペットを合わせても50パーセントすぎないということをも考えれば、やはり犬猫販売業を行うということが独立の職業を構成すると考えるべきである。よって狭義の職業選択の自由といえる。さらに、薬事法距離制限判例は「各人が自己の好む場所において薬局を営むこと」に重要性を認めた。そうすると規制①についても自己の好む「犬猫」販売という職業に重要性を認めることができ、これは狭義の職業選択の自由に対する制約と構成できる。
2(1) もっとも、職業は社会的相互関連性が強く規制の要請が高く公共の福祉による制約はやむを得ない(22条1項、12条、13条)。職業の規制について、国民経済の発展等の積極目的については、立法府の専門技術的な判断になじみ裁判所はこれを尊重することとし緩やかな審査基準により判断すべきであり、国民の生命の安全・危険等の防止を目的とする消極目的とする規制には厳格な合理性の基準によるべきとする、いわゆる規制目的二分論という見解がある。もっとも、目的については場合によっては複合的な性格を有する立法もあり主従を判断しがたいこともあること、本問のように必ずしも積極消極の二分が容易でないこと、より重要な法益を守る消極目的の法が違憲となりやすいことという問題がある。また現在、最高裁判所も上記見解を採用しているとは考えられないし、直ちに規制目的二分論をそのまま適用すべきではない。
(2) そこで、職業の規制については、第一次的には立法府の裁量を尊重すべきであるが、かかる立法裁量の判断については、規制の目的、内容、必要性と侵害される人権の性質、内容、程度等を考慮の上判断するべきである(薬事法距離制限事件参照)。
ア 規制の目的は、我が国における犬猫の安易な販売と購入者による大量の遺棄、またその殺処分が倫理的に非難されたており犬猫シェルターの許容量の限界への危惧、という社会問題を契機としており、かかる立法事実を背景として規制①が検討された。規制①の目的はそのような立法事実に照らし、前記弊害を解消し人と動物の共生する社会の実現を図ること(別添資料第1目的)にあり、このような政策の当否や有効性は立法府の専門的な判断になじむものといえる。規制の内容は犬猫販売免許を受けなければこれを行えないという狭義の職業選択の自由への強力な制約といえる。そして必要性については、国民の生命等の安全や、国防、政治、警備公安問題と比べると直ちに急務とはいえず必ずしもこれを行う必要性が高いということはできない。
イ 次に、制約される人権は狭義の職業選択の自由であり重要な権利といえ、制約される内容と程度は、免許制はこれを受けなければ新規参入は不可能となり、既存業者は廃業することになることから重大なものといえる。一般に許可制は職業に対する強力な制約であり、公共の利益のために必要かつ相当なものである必要がある。そして前述のとおり、規制の程度が強く、制約される権利の内容は重要で規制の程度も強いことを考えれば、立法裁量を認められるとしても、かかる規制について緩やかな審査基準に基づくべきでない。これらのことから、目的が重要で、目的達成のための手段が実質的関連性を有していれば合憲との基準で審査すべきと考える。
(3) 規制①の目的は前述のとおりであるが、我が国における犬猫の安易な販売と購入者による大量の遺棄、野生動物の増加による弊害や、その殺処分が倫理的に非難されていることからも国民感情に配慮する必要もある。かかる立法事実を背景事情は重要なものといえ、これらを経緯として規制①が検討された。規制①の目的はこれらの立法事実や社会背景からこの弊害を解消し人と動物の共生する社会の実現を図ること(別添資料第1目的)にあり、動物の愛護及び管理に関する法律の趣旨をも包含した重要なものといえる。よって目的の重要性は認められる。
(4)ア 規制の手段については、まず犬猫の販売業を行なおうとする者に動物の体高に合わせたケージを設置することを義務付けており(骨子第2第1)、これは上記、人と動物の共生という観点からは一定の関連があるとも言えるが、これによって、飼育される犬猫の遺棄等防止を達成する上で直接必要な条件ではない。そうすると、究極的には人と動物の共生する社会の実現とは関連性があるとはいえない。また、国際的な基準は我が国においても遵守すべき基準としての目安ではあるものの、この基準を充足することを必ずしも我が国に求められているとは言えないと考える。なぜなら、国際基準を充足するべきとの特別な国際的取り決めや条約を締結しているという事情もないし、立法事実としてもかかる基準に準拠すべきという事情はない。そうすると我が国の立法事実として斟酌すべきものとはいえない。以上のことから、販売業者に過度に動物の管理のための施設整備という金銭出捐を行なわせるものといえ必ずしも必要な要件ではないと考えられる。また、手段として実質的関連性を欠き、相当性があるともいえない。よって、かかる手段を義務付けることは違憲である。
イ つぎに、犬猫の需給均衡によって犬猫販売業の免許付与を行うことを要件(骨子第2第2)としているが、かかる判断で免許付与をおこなえば、たしかに犬猫を販売する業者を減らすことはできるかもしれない。そうすると、犬猫の遺棄等を減らすことができ、上記目的達成のための一定の関連性を観念的には認めうるかもしれない。しかし、販売段階で、面前で購入者に犬猫販売による昨今の犬猫の遺棄等の社会問題の啓蒙を義務付けること等によっても、効果ある政策として目的を達成できるし、遺棄等についての罰則強化という手段によっても可能であるから、販売業者にだけに負担を課したもので相当性を欠く。そしてこのような要件は需給均衡という、およそ販売業者の努力ではなんともしがたい、業者において制御不能な要件を課しており相当なものとはいえない。よって、この点も必要性及び相当性を欠く。よって、この点も違憲である
ウ そして犬猫シェルターの収容能力をも免許交付の考慮要件(骨子第2第3)とすることも業者には制御不能な要件として相当性を欠き、このような問題は第一次的には購入者において犬猫に責任を負うべきものなのであって、犬猫を飼育する者が飼育放棄によりシェルターに負担を生じさせ、そしてひいては販売業者のみに不当に制約を転嫁しているといえる。よって、かかる手段も相当性を欠き、販売業者にのみ制約を過度に負担させる手段と言える。以上のことから規制①は目的達成のための実質的関連性を有する手段とはいえず、新規参入者及び既存業者の狭義の職業選択の自由を侵害し22条1項に反し違憲である。
第2 規制②の憲法適合性
1 規制②は犬猫販売業者の犬猫のイラストや写真、動画を用いて広告を行う自由を制約し21条1項に反し違憲でないか。
(1) 人は様々な表現活動に触れ自己の人格を形成し、表現活動によって多数意見が形成され、民主制の過程を形成することから表現の自由は極めて重要な権利である。
(2) これに対して、販売業者の行う上記活動は販売業者の営利的なものであり、個人の人格形成に資するものでもなく、また、民主制の過程に必要なものではないとの反論が考えられる。しかし、このような営利広告であってもこれを行い販売業を行なう者にとっては自己の職業上必要な人格的価値を有するといえるし、国民の知る権利に資するものとしての価値を有する。よって表現の自由による保障を受ける。
2(1) しかし、上記表現の自由も絶対無制約に保障されるとはいえず、公共の福祉(12条、13条)による制約を受ける。本件では、制約されるのは営利的な表現活動といえ、極めて重要な表現とはいえず厳格審査になじまない。もっとも、その規制態様はおよそ犬猫のイラストや写真、動画を用いて広告を行うことを禁止するという強力な規制であり、およそ言語以外の視覚的な関心に訴えかける広告手段を規制するものといえ、権利への制約は極めて強い。そうであれば、かかる制約の強大さにかんがみれば緩やかに審査すべきではなく、規制の目的が重要で手段が実質的関連性を有していれば合憲、との審査基準で判断すべきである。
(2) 目的は広告を規制し、犬猫の安易な購入を減らして前記の立法事実を背景とした目的を達成することにあり、重要と言える。
(3) 手段については、およそ犬猫のイラストや写真、動画を用いて広告を行うことを禁止することから、確かに購入者の減少につながる可能性はある。しかし、このような規制態様は言語以外の視覚に訴えかけるもの全てを広きに失し相当な範囲を超えており、イラストや写真、動画による広告は業者にとって極めて有効な偉業活動の手段であることから妥当でない。またSNSについても、近年は極めて有効な広告手段であるとともに一般的に国民が利用するもので、インターネットにより利用できるインフラに準じたツールといえる。これをも規制の対象に含めることは規制範囲としても過度に広範と言える。そうするとSNS広告までも排除することは相当なものといえない。そもそも、業者の広告手段の禁止を行うことは無責任な購入者の責任を販売者に転嫁するもので妥当でなく一次的には購入者において動物の責任を負わせる立法を行うべきであり、これにより同様の目的を達成できる。そして、販売段階で、購入者に対して、販売段階で、面前で購入者に犬猫販売による昨今の犬猫の遺棄等の社会問題の啓蒙を義務付けること等によっても、効果ある政策として目的を達成できる。以上のことから、規制②は手段が実質的関連性を欠いており、憲法21条1項に反し違憲である。

以 上

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