令和6年司法試験 再現答案 民法
同時履行と悩んで留置権をまるっまる落した同時履行認めて留置権否定するという迷走。。その他も評価があまい。設問1の小問(2)はそれなりに書けたかな。
民法
第1 設問1(1)
1(1) 請求1は、AのCに対する所有権に基づく甲土地の乙建物収去返還請求権(民法206条、以下「法令名」省略。)である。そして、下線部㋐の反論は、BC間で契約①を締結していることからCは甲土地に対する賃借権(601条)を有しているとの占有権原の抗弁であるものと考えられる。
(2) Cの反論が認められるためには、CがAの所有権に対抗できる賃借権を有している必要がある。甲土地はA所有である。そしてCはAの子であり甲土地の無権利者である。そうすると、契約①は他人物賃貸借であり、BC間では債権関係として有効に成立する。もっともA都の関係では有効に賃貸借契約は成立せず、契約①の賃借権はAに対抗できない。
(3) しかし、Cは令和3年7月10日死亡しており、Aは唯一の相続人である(882条、889条1項1号)。そうすると所有者が他人物賃貸人を相続していることになり、両者の地位が融合して、AはCの締結した契約①を追認拒絶(116条)することができず契約が有効となったものと考えられないか。この点、本人が他人物賃貸人を相続したことにより地位が融合したことにより契約が自動的に有効となるものと考えると、仮に賃借人が契約を解除したい場合その解除権を奪うことになるし、帰責性のない所有者保護の点からも妥当でない。よって、本人は、自己の地位と他人物賃借人の地位を併存するものと考える。Aは信義則に反する(1条2項)という特段の事情の無い限り、本人たる地位で追認を拒絶(116条)することも許され、本問においてAはあずかり知らぬところで甲土地をCにより賃貸されたのであり、上記のような特段の事情はない。よって、AはCに対して、所有権に基づき乙建物収去明渡し請求を行うことができ、これにより他人物賃貸借は履行不能(412条の2第1項)となる。そうすると、Cはもはや、賃借権を主張できず下線部㋐の反論は認められない。
2(1) Cの下線部㋑の反論は同時履行の抗弁権(533条)を主張するものと考えられる。
同時履行の抗弁権は両債務の牽連性が必要であるが、損害賠償300万円の主張は契約①に基づいてこの履行不能により請求するものである。そして、甲土地の明渡し請求はかかる契約の原状回復によるものと考えられ、両者は牽連関係にあるものと考えられる。とうすると、Cの主張は認められ、下線部㋑の主張は認められる。
(2) また、Cは留置権(295条1項)の主張を行うことが考えられるが、同条の「その物」に関して生じた債権とはいえないことから、かかる主張は認められない。
第2 設問1(2)
1 請求2の根拠は令和4年9月11日に乙建物に雨漏りが発生し、丙室が使用不能になったことから、同年10月1日までの間乙建物を使用できなかったことを理由として、同期間中の賃料をDがAに支払った賃料が法律上の原因がない(611条1項)としてその一部を不当利得返還請求権に基づき請求するものと考える。
(1) まず、611条1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益をすることができないときは賃料がその収益不能部分の割合に応じて減額される旨定めている。これは、使用就役できないにもかかわらず賃料が発生ないし減額されないのは賃借人にとって不合理であることから、そのような状況が生じれば自動的に減額される趣旨であると考える。そして、前記の通り、雨漏りにより丙室が使用不能になっていることから一部の使用不能があるといえる。また、丙室の使用不能となった雨漏りは、契約②より前から存在した原因に起因するものであるから、Dの責めに帰する事由ではない。よって、丙室の一部使用Y不能の部分の割合が賃料から自動的に減額される。
(2) 不当利得返還請求権の要件は、法律上の原因がないこと、受益と損失、両者の因果関係が必要となる。
ア 上記のとおり、乙建物の代金は丙室使用不能分の割合が自動的に減額されるが、DはAに対して令和4年7月分から9月分をAに支払っており、少なくとも9月11日から10月1日までの部分については自動減額されるから、この部分は法律上の原因なく支払った
賃料と言える。
イ そして、かかる賃料は、本来減額される分はDにおいて支払う必要の無かったものであり、これが損害と言える。また、Aは本来得られない減額分の賃料を得ているからこれは損害と言え、これらの事情がなければかかる受益と損失はなかったのであるから因果関係も認められる。
以上のことから、611条1項により本来賃料の一部が減額される部分について不当利得返還請求権を根拠として返還請求することができ、請求2は認められる。
2 次に請求3はDが支出した丙室の雨漏りのための修繕費用30万円が「必要費」にあたりこれを賃貸人Aに対して608条1項に基づいて必要費償還請求を行なうものと考えられる。
(1) 「必要費」とは、通常賃貸物件の使用に必要となる設備維持等のための費用のことをいい、本件で雨漏りを修繕するためにDが支出した費用は、乙建物を通常の使用収益するために、必要となるもので「必要費」に当たる。そしてかかる修繕費は支出後「直ちに」その償還を請求することができ、Dの請求は認められそうである(608条1項)。
(2) もっとも、必要費の修繕は、原則として事前の賃貸人への通知が必要となる。本問ではDはこれを欠いていると言える(607条の2第1号、615条)。また、急迫の事情も問題文上うかがえない(607条の2第2号)。そうすると、Aが主張するように、そもそもDは乙建物の修繕を行う権利を有していなかったとして、Dによる修繕費償還請求は認められないのではないか。賃貸人はそもそも、賃貸物件を賃貸に適するように維持し、修繕が必要であれば修繕を行う義務を有しており、賃借人はこれを賃貸人に修繕するよう求めることができる。そうすると、賃貸人としては、いずれにせよ乙建物の修繕を行わなければいけないことに変わりはない。そうであれば、Dはそもそも修繕を行うことはできないことを根拠として、必要費償還請求を拒むことができると考えるのは妥当でない。よってこのことを理由としてAは必要費の償還を拒めない。
(3) しかし、修繕を行う賃借人が、賃貸物件について事前に修繕が必要でありこれを賃貸人に通知するよう定めた趣旨は、賃貸人において本当に修繕が必要か、いかなる範囲でこれを行う必要があるか、また、どのような金額でこれを行うことが合理的な修繕態様かという点を賃貸人において判断させる点にある。そうすると、急迫の事情(607条の2第2号)がない場合は、賃貸人においてそのような判断を行わせる機会を与えるべきである。そして本問では、急迫の事情はなく、賃貸人Aに判断の機会を与えていなかったと言える。そしてAが事前に修繕の通知を受けていれば、自己の判断で一般の建設業者に依頼して適正価格である20万円での修繕が可能であったと言える。そうすると、Aは本来20万円の出費を行うことで足りたのであるから、Dによる30万円の修繕費全額を認めることはできず、DはAに対して、20万円の限度で必要費償還請求を行えると考える。よって請求3は20万円の限度で認められる。
第2 設問2
1 Iの請求は所有権に基づく丁土地の返還請求権である。同請求が認められるためには、Iが丁土地を所有しており、Fが丁土地を占有している必要がある。
丁土地はもともとGの所有(206条)であった。そしてGはHに対して、財産分与(786条1項)をしており、Hは所有権移転登記を具備しているから丁土地の所有権を取得している。
2 そしてHは、Iに対して契約④に基づいて丁土地を売却しており、Iに所有権が移転していると言える。そうすると、Fが同土地を占有している以上、Iの請求は認められるとも思える。
(1) もっともIがHから丁土地を取得した後、GはHに対して契約③をなかったことにする旨伝えている。これが、GのHに対する契約③の錯誤取消しの主張として認められないか。
GはHに財産分与するに際してGは自己に課税されないことを当然の前提としていたと言える。そして、これはHにも表示されていたし、Hもこれを認識した上で「私に課税される文は大丈夫」と述べているから両者とも前記の事情を当然の前提としており法律行為の基礎とした事情と言えこれに錯誤が存在したといえる(95条1項2号、同条2項)。そうするとGは錯誤により契約③を取消すことができそうである。
(2) もっとも、Iは契約③にかかる課税について誤解していたことを契約④の締結時に善意、無過失であるから、錯誤取消し前の第三者にあたり、かかる錯誤取消しはIに対抗できない。そうすると、Iは丁土地の所有権を取得しており、所有権移転登記を具備していないが、所有権移転登記は対抗力にすぎず、所有権の帰属とは別の問題となる。よって、GはIに丁土地の所有権をIに対抗できない結果無権利者でありIは登記なくして丁土地の所有権を主張できる。以上のことから、占有者Fに対して登記なくしてIの請求は認められる。
以 上
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